閻魔大王の悩み
上方落語の演目で「地獄八景亡者戯」というものがありまして、鯖にあたった主人公が旅行気分で閻魔庁や地獄を巡るというものがありますが、実際に閻魔庁の前に亡者が来るのを待っていると、何やら神経質そうな男が参ります。
「おかしい⁉ 俺は死んだのに、なぜこんなところを歩いているんだ?」
と独り言を呟きながらもやって来ます。
閻魔庁の前には門番に赤鬼と青鬼が立っております。
見るからに絵本から出てきたような「鬼」の迫力がありまして、腰を抜かしてアワアワ言っている男をつまみ上げると、「閻魔大王様がお待ちかねだ! とっとと行きやがれ‼」と門に目掛けて男を投げつけると、いくつか門にぶつかりながらも通り抜け、辿り着いたのは閻魔大王の御前。
「判決を言い渡す!」
その迫力で気の弱い男は
「あの世なんて存在しないんだ…これは夢に違いない…イヒ…イヒヒ…イヒヒヒヒ」
どうやら精神が崩壊したようでございます。
男は鬼たちに連れられて引き上げると、閻魔大王が悩みを口にします。
「魂の状態で精神が崩壊すれば治らぬものよ。しかも来る者来る者、同じように崩壊しよる…」
ため息を一つつくと続いてこう言います。
「現世に送り出す魂が不足しており、現世では人不足に陥っているようだが、どうにもならん…」
しかし閻魔大王の悩みは別に有るようです。
「現世に人が居なくなれば、次はどんな者がここに来るんだろう…」