異世界人を愛した龍皇家の守護神的神龍な私は、今日も今日とて蒼天に笑って月夜に詠い、白夜に吠えて今日も泣く。
はじめまして、という格式を重んじるところからはじめます。はじめまして、浜辺 夜静と申します。
さて最初に、他の素晴らしい作品に埋もれこんでいるであろうこのような駄作を見つけてくださった皆様、ありがとうございます。そのまま最後までお読みいただけると幸いです。
私の名は『レン・タバタ・ドレイク』。
この名は今亡き最愛のおぬしにもらった生きる意味のすべてが詰まった私の名だ。
なんでも彼の出身地である『チキュー』なる世界の『ハス』という華からつけた名らしい。
『花言葉』というロマンチックな造語の中の意味の『神聖』、『清らかな心』からあやかったと聞いた。
もっとも、『守護』、『陰陽』、『純愛』、『創造』、『純粋』、そして最高神から略奪した『全能』の六つの神格からなる神龍たる私には別に真名がある。
それは、『ラィェンスィカゥリュツァ・キィアャ・ティティデュレィクァルグ』、概念外神魔記録非存在言語における『蒼天と月夜を覆いつくせし・白色の神祖たるにふさわしい・守護と愛の顕現たる龍の神』という非常にクッソ長い名があるが、全然忘れてくれ問題ない。むしろ忘れたほうがいい。
私とおぬしが運命と廻って、森で逢って、密やかに恋に落ちながら国を造り、愛をはぐくんで国を発展させ、結ばれ、楽しんで、笑い、亡くなり、哀しみ、前を向き、おぬしの大切な国をまもって早千年。
私の愛すべきおぬしの作った『ドレイク龍皇国』は変わらず平和で、みんな笑顔だぞ?
私も今は前を向き毎日が楽しいし、変わらず笑顔だ。
おぬしは忘れられることなく語り継がれてるし、皆おぬしを愛している。
私もおぬしのことを変わらず愛しているし、逢いたい。
さて、追想から始めるとしよう。
今思えばすべてはあの時に始まったのだろう。
私はかつて、神界で最高神から歪んだ愛を受けて、最高神の妻をさせられていた。
しかし私は、その愛を受け入れ交わったことはない。大事なことなんでもう一度言うが、愛を受け入れたこともなければ、交わったこともない。
ある時、私と最高神は喧嘩をした。
百年にも及ぶ戦いは、私が最高神の最もたる力の権能の神格を奪い、力をある程度封印され下界に落ちることで執着した。下界に落とされる直前の『離婚だ離婚!!出てけ!!』と最高神に言われた時が神界にいたなかで一番嬉しくて楽しかった瞬間だ。
封印の効果は、私はカタチを竜人の姿に固定されて、一番世界干渉がよくできる神格の『陰陽』が使えなくなったことだけだ。
一応『全能』の神格保持権はわたしにあるが、{全}とははっきりしながらおぼろげな概念なので、相性の悪い存在である私への神格単体の効果はほぼ無きに等しいがこれは他の神格と組み合わせることにより神格が覚醒・加速して効果がはっきりして神髄より効果が著しく発揮するのだが……難しい話は放っておこう。
要するに『私は雌の竜人の姿になった。龍の姿には戻れないけど力は少し上がった、でも以前のごとく概念的に世界を飲み込む力はないよ。』ということだ。
分かりずらくて申し訳ないが、とにかく『最強の生命体』になったということだ。
下界に落とされてすぐに私は彼に出会った。
森に裸でいた私がゴブリンに辱めを受けようとしたときに、木の棒を持った彼が後ろからゴブリンを殴って助けてくれた。
待て、一応言い訳があるのだがな?私は人の姿に慣れていなかったし、下界での力の限界を把握できておらず世界を壊してしまう可能性があったため力をふるおうとは出来なかったのだ。本当だぞ?決して初めてみる下劣な存在に恐怖して腰をぬかしていたわけではない。やめろ、そんな顔をするな!!私は自称最強などという痛いやつではない!!
彼はここらでは珍しい黒目黒髪に黄色い肌をもつ平たい顔を持った男だったが、顔はいたって平凡であった。それと不思議な服を着ていた。
珍しいものだからつい見つめてしまっていたのだが、心配の言葉がかかり我に返った。
そして、彼は顔を赤くし目をそらしながら私が裸であることを指摘した。私とて恥ずかしいものは恥ずかしい。胸と又を片手で隠す。
しかし、私は超位の概念の具現故に美貌は相当なもののはずだ。しかし彼は私を襲わなかったというこの世界にしては珍しい鋼の精神の持ち主であった。
故に私は彼に興味を抱いた。そしてカマかけを含め聞いてみたのだ。
「おぬしは何者だ、どこから来た、こんな辺境になんのようだ。」
と。すると彼はあせりながらこう答えた。
「実はこの近くの村からこの森に入ってしまったのだが迷ってしまった。」
と。面白いくらい彼は引っかかった。続けてみた。
「近くに村などなかったはずだが。」
「小さい村だから。」
「ああ、ミジンコ村か?」
「みじっ…!?んうん、そうそう。」
「おかしいな、ミジンコ村はこの星の裏側だが?」
「い、いや実は名前がない村なんだ。」
「嘘だな。この近くには村もなければ町もない、あるのは『王都』のみだ。」
彼はしまったという顔をした。もう遅い。
私は問うた。
「もう一度聞こう。おぬしは何者だ、どこから来た、こんな辺境になんのようだ。」
彼は観念したようにぽつぽつと話し始めた。
名前はソーイチ・タバタ。
自分は異世界で学生をしておりある日死んでしまう。
しかし、それは最高神のミスで詫びにこの世界で生き返ることとなった。
気が付いたら森にいて、私が襲われていたから助けた、と。
面白いと思った。私は異世界の存在など知りはしなかったが嘘がないようなのだ。
そこで私は助けてくれたお礼になんでもするといったのだ。
その時の彼は「え?今何でもするって…」といった。
神は嘘をつけない。言ってすぐに私は失言に気づいたのだがもう遅い。
彼は口を開く。
「じゃあ…
-----一目惚れでした!俺の嫁になってください!!!!」
その時の私の思考はこうだった。
…嫁?奴隷ではなく??
嫁…嫁…嫁……嫁!?!?
「えええぇぇぇえ!?!?!?」
え!?いやいやいやいやいや!!!よく考えろ真っ昼間に森に裸でいる痴女だぞあたまだいじょうぶかおいいぃぃぃぃいいぃ!?いや確かに何でもするって言ったけどさもっとひどいことようきゅうするよね体とか奴隷とか!?!?!?いやしてほしくないけどさたしかに最高神よりいいしうれしいけどさ!って何考えてんの私!?!?!?!?!?えっ、いやっ、嫁ぇぇぇぇぇぇええぇ!?!?ふぁああああああああ!!!!
「ダメ、だったかな?」
「いやっ全然平気むしろあいつよりうれしいけどっ!!!」
「えっ?あいつってことは…バツイチ?もしかしてこどもいr」
「処女だよばかやろぉおおぉぉぉおおおぉぉ!!!!!!!!!」
「お、おう…そういえばなんで真昼間に裸に森にいんの?」
「今!離婚されながら真姿になれなくされて下界に落とされた神だからふくないの!!」
「そうなんだ。」
「なんで納得できるの!!?」
「『鑑定』もってるから。」
「鑑定って勇者の固有スキル!?私のステータスおぬしにもわかっちゃうの!?」
「うん。っていうか服がないなら創造して作ればいいじゃん。レンは和服が似合うと思うよ??白髪金眼だから真っ白な着物とかいいかもね。あ、やっぱ巫女服もいいなー。」
「レン!?和服!?」
「真名が長いからレンってのが君の名まえ。あと、さっきのエラそうなしゃべり方よりそっちのほうが可愛いよ。」
「かわっ…!?」
「うん。あ、和服っていうのは……………………」
これが私とソーイチの出会いだ。
何?この偉そうなしゃべり方を変えないのか?
かえんぞ。
え?ソーイチが喜ぶかもしれない?
うん、ならかえようかな。いつもの感じでいい?
え?変わりすぎ?んー?純粋の神格持ってるとこうなっちゃうんだよね。
まあ、千年くらいたてば治るんじゃないかな。
話を戻すけど、私はそうやってソーイチにであったんだ。
そのあとは武器がないっていうから私の神格を軽く込めた『神器・白夜の神龍の神楽』をつくってソーイチにプレゼントしてー、二人で冒険者になってソーイチがハーレム作りながらドンドンランク上げて魔王に挑んで魔王を倒伐した英雄になってー、最高ランクに上がるためには各国の王に会うんだけどその時ある王が私をよこせっていうから戦争してその国のっとってー、よくわかんないけどソーイチが『NAISEI』ってよばれるのをやって国を潤してー、体制が整っていつの間にか封印解けてたから神龍の姿になったりして私を象徴にする『ドレイク龍皇国』ができてー、私も頑張って結局できなかったけど私以外の三人の嫁からそれぞれ一人ずつでソーイチに子供が三人生まれてー、毎日その子たちを自分の子のように可愛がってー、男二人女一人兄妹うちの長男が皇位を継いでソーイチは隠居した。
私は神だから絶対に老衰しない、だから日々老いていくソーイチのすぐそばにずっと居ながら国の象徴『神龍・レン』さまをずっと続けてきた。
楽しかったし幸せだったよ。
でもね、人はいつか死ぬ。
ある日、ソーイチが死んだ。139歳だった。
人と神とは時間が違う。
その人のことを好きになればなるほどいなくなった時にさみしいし、虚しい。多分好きになったことを後悔する。
私はソーイチのことを誰よりも愛していたし千年たった今でも愛してる。でも、その分だけ悲しい。
でも、絶対後悔なんてしない。してやるもんか。
愛すれば悲しいし虚しい?
知るか。だったらそれを補う分だけソーイチのことを愛して、大好きだってノロケながらずっと愛し続けてやる。たとえ世界が終わってもソーイチのことを愛するし、むしろソーイチに私を愛させたことを後悔させてやる。
私はソーイチが何よりも、誰よりも、あらゆることより、好きで、大好きで、愛してる。
夜空のような黒髪が好きだ。
吸い込まれそうな黒い目が好きだ。
雨の日も私を抱きしめてくれた腕が好きだ。
何よりも速くかけるその足が好きだ。
変わることなき魂が好きだ。
私を笑顔にさせてくれる声が好きだ。
笑いかける顔が好きだ。
全部、全部全部全部大好きだ。
人に、神に、概念に、この世のすべてのものに砂糖を、蜂蜜を、甘いものはかせてやる!
私のノロケを聞いて許しを請うまで話してやる!!
文句あるやつは前に出ろ!!!
その口を、生クリームとアイスとチョコレートをのせたホットケーキにジャムをかけてメープルシロップに一日つけこんで蜂蜜を一リットルかけた神甘スイーツ生産工場にしてやる!!おまけに砂糖をまぶしてやろうか!?!?
何度でも言ってやる!!
ソーイチが好きだ!
大好きだ!!
愛してるぞばかやろおおぉぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉお!!!!!!
本当に、好きなんだ…
その分、悲しいけど…
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太陽が高く昇り、雲一つない晴天がいしだたみの上の活気ある都の人々を明るく照らす昼過ぎの頃。
騒がしさとは無縁な白亜の城の中の豪華な部屋。
ソファに寝転がって私に膝枕をされぐっすり寝ている第六十三代龍皇の二人の子供は今日も可愛い。先ほどまでキャッキャと遊んでいたのだが疲れたのか眠ってしまった。
今日、新しい家族が増える。それではしゃいでいたのだ。
龍皇の子供が生まれる。
すでに正妃の陣痛が始まってから三時間。
一室には37歳のおっさんの声が響き渡っていた。
「ええい!!まだか!まだ産まれぬのか!!?」
「ディーノ、落ち着いてー。」
それでも子供はまだ眠っている。私が起こさないように魔法を使い音を遮断しているからだ。
その叫んでいる黒目黒髪のおっさんの名前ディーノ・タバタ・ドレイク。
ドレイク龍皇国第六十三代龍皇だ。
ドレイク龍皇国は世界で六番目に広い領土を持ちながら世界最大の国力を約千年にわたって継続してきた世界で最も力のある国だ。
この国は絶対君主政。だが、歴代の皇たちはみんな賢君であり、国民第一で何より領土は整備されて文化力が高い。そのかわりこの国は外からの移住民の審査が厳しい。それでもと移住しようとする人間が絶えない最も活力がある国だ。正直、この国で生まれただけでも世界的には勝ち組である。
この国の最も特徴的な点は『神龍・レン』。つまり私がいる点だろう。
それは千年前に現れたという『絶対の勇者』の妻であり、千年にわたり龍皇家と国を守護する現在この世界でもっとも強い生物である。
一薙ぎで海を焦がし、光を裂き、天を堕とし星をしたらしめる世界の支配者。…ちなみに全部事実である。実際できるしブチ切れたとき天を堕とすまでのことはやった。
その強さにありながら、その美貌は国を傾かせるとも言われている。まあ、実際この国のっとったので間違ってはない。
この国は、代々龍皇家に神器を継承させることで龍皇戴冠を表す。
今は六十三代。さっきのおっさんだ。
昔は可愛かったこのおっさんも今では妻の出産が心配で心配でたまらないという立派なおっとさんである。成長したねー…
「これが落ち着いていられるか!?レオナルドの時は二時間三十五分十二秒の出産だった!!エレオノーラの時は二時間二十八分三十七秒だ!!!今回はもう三時間九分三秒もたっているぞ!?これは異常かもしれない!レン姉!行ってやってくれないか!!?」
「わー、あいっかわらず親ばかだねー。ソーイチのときをおもいだすなぁ…ソーイチもそうやって部屋の中うろうろしてさー、まだかまだかーってさー。真剣に私に『概念変革魔法・天上最上位超越神格代償治癒術式・クヅァォルュイウアス・クァリゥリリェス・トツォチェ』を使ってくれって迫ったものだったよ。あの時のソーイチの顔すごくかっこよかったなー…子供のために必死になるソーイチの顔さ、すごい好きなんだよねー。だって……」
「その千年前の話聞いたの十九回目だ!ノロケんじゃねぇぞババァ!!リディアと子供の命がかかってんだ!その概念変革なんちゃらでどうにかなるんならさっさとやってくれ!!」
…ババア?おっさんを視線だけで睨みつける。
「…君今なんて言った?ババア?私神龍だよ?敬いがたりないんじゃない?零壊術式叩き込むよ?」
零壊術式とは対象の『無』が壊れてあらゆるものが『有』で満たされる最上位拷問魔法である。簡潔にまとめると死にはしないけど超苦しい魔法だ。
「子供の頃一緒に城抜け出して怪しい屋台のジュース飲んで二人仲良くハラ壊した思い出がある限り絶対にレン姉なんて敬えんわ!」
「言ってくれるじゃないか。」
私はにやにやと笑う。
「敬いがないならバラすよ?十一歳の夏に私に愛のこくh「神龍レン様は素晴らしい!!」…素直に敬いたまえよ。」
「誰がっ…!」
「いいのかなー?十一歳?夏の?」
「分かった!!わかったから!!それは人生最大の汚点だった!!」
「…酷いな君。ひよこのようだったあのころが懐かしいや。…あ。」
「どうした!?リディアに何かあったのか!?」
私は現在、出産が行われている三つ隣の部屋に『目』をとばして、この部屋にいるディーノに出産の状況を教えながら暴走しないように彼を抑える任務にあたっている。
そちらに意識を向けたところちょうど足が出たところだったから声をあげたのだが、心配のあまり最強の神器の効果で体が強化された神器継承者の現龍皇に思いきり肩をゆすられるとは肩が痛い故に、教えるかどうか悩ましくなるところだ。
「ゆするな、脳が震える。」
「分かった今すぐやめようなにがあったぁ!?」
「産まれたよ。今泣いてるとこ「リディアァァアアァァ!!(バタンっドドドドドドドドド!!!バタンっ)産まれたのか!!!!」…ろ………五十m二秒かー…能力の無駄遣いだなー。」
産まれたと聞いてから走り出して『目』のある部屋に勢いよく駆け込むおっさんの速度は目を見張るものがある。
まあ、ソーイチは転移を使って0.3秒だったが。
『目』を通して部屋をみるとおっさんが赤子を泣きながら抱っこしているところだった。
千年を通して幾度も見た光景だが家族が増えるとなると、いつもクるものがある。
龍皇家の人間はこの千年間においてみんな賢君であっても、みんな一隅に親バカであった。
そう、千年間だ。みんなみんな好きだったが今はいない。千年間の光景が重なるんだ。
この世界はいくら時間がたっても文化のレベルが変わることがない。ソーイチ曰く、この世界は一言でいうと『中世魔法ふぁんたじー』らしい。そしてそれは最高神が定めたのだから絶対に変わることはない。
だから余計にこの光景は何よりも近しく、尊い。
『時間』とは酷なものなんだ。
「さて、と。私も行きますか。」
二人の子供を少しだけ宙に浮かせてソファから立ち、二人はまたソファに寝かせる。
「ワツィクァル・ステイャア。」
景色が変わり、おっさんが泣いてる部屋に転移する。
ゆっくりと床に着地するとソーイチがデザインした純白の『キモノ』が揺れる。
ここではディーノと正妃リディアが赤子を中にして抱き合っていた。ちなみに使用人は家老しかいなくなっていた。
「おぎゃあああおぎゃあああ…」
「お疲れ、リディア。」
「ありがとうございます、レン様。」
「どう?」
「はい、男の子でした。」
「どれどれ。」
赤子の顔を覗き込む。
「うん。可愛い。きれいな黒髪でなかなかの美男子になりそうだ。」
私はハタと違和感に気づく。
「ん?」
「どうした!?何かあったというのか!?」
「うるさいよおっさん。」
「何かあったのでしょうか?」
「うーん…なんていうかさ、リディア……この子、ソーイチの魂にスゴイよく似てる。本人かってくらい。」
「本当ですか!?なら…」
「うん。いい皇になれるよ。」
「ありがとうございます。」
うん。教育次第だね。まともに育てればソーイチの長男以来の『神器完全継承』ができるかも。
「あ、そういえば名前は?」
「初代にあやかって『ソーヤー』にしようと思っている。」
「そっか。いい名前だね。あ、祝福…この子なら君のおじいちゃん以来の『守護』までもってけるけどいいかな?」
「守護か!!よろしく頼む!!」
「うん。まかせてー。」
神はそれぞれ気に入った人間になんらかの恩恵を与えることができる。
恩恵の強さは弱いほうから『加護』、『祝福』、『守護』、『眷属』であり、守護とはかけようとすると魂がこわれることもあり、なかなか行えない。
ちなみに場合によるが『眷属』は今の私なら私の能力の百分の一を付与できる。私は眷属をつくらない主義だったがソーイチにだけにならいいと思って、ある日打診した。私の百分の一でも十分不死に近かったからである。お願いしたが断られた。曰く、『人は人を超えてはならない。先にあるのは愚の骨頂。』だそうだ。かっこいい。愛してる。
というわけだが、ソーヤーなら『守護』は確実に行けるのでかけてみる。
「《『真名・蒼天と月夜を覆いつくせし・白色の神祖たるにふさわしい・守護と愛の顕現たる龍の神』の名においてこのものソーヤーの魂を心から加護し、祝福し、守護することを最も偉大な方から賜ったいと尊き我が名・レンをかけることで宣言し、確約する。魂恩恵術式・白夜の守護》。」
これはごく簡易的に約したものだ。概念外神魔記録非存在言語にすると三千文字にも及ぶ。
あらゆる現象に食い込むであろう最もたる私の神格、『陰陽』。そのどちらの特性を併せ持つ日の沈まない夜『白夜』は私を一言で言わすといっても過言でない。それなりに力を使うのだ、察してほしい。
三分にも及ぶ詠唱の末、白色の美しい光がソーヤーを包み込む。
「…ふぅ。終わったよ。」
「ありがとう!レン姉!」
「ありがとうございます!」
「うん。じゃあ、白夜祭の宣言しようか。準備ね。」
私の言葉を聞きディーノはあわてて喉を整える。
白夜祭は龍皇に子供が生まれたときに行われる世界最大の大祭である。子が生まれた一週間後に私が陰陽で世界を操り白夜を引き起こし、その間バカ騒ぎする国民も大好きな世界を巻き込む大祭である。
私は国全土にそれを通達するために声を拡散させる術式を展開する。
「スティフォアァ。」
ディーノに合図を送る。
ディーノは頷き、つづけた。
「…敬愛する国民諸君。
この度我が第三子であるソーヤーが生まれたことを第六十三代龍皇である我が直々に伝えよう。
よって一週間後!この国に白夜が訪れる!!国民諸君!!大いに楽しみたまえっ!!!!」
瞬間。国が沸く。皇城内に響く大騒ぎだ。
それと同時に、相変わらずこの国が慕われていることを再確認し、安堵する。
「…じゃあ、わたしはいつもの庭で寝てくるね~…夫婦水入らずでどうぞ。ワツィクァル・ステイャア。」
そういって私は無駄に豪奢なこの城の庭園のベンチの近くに瞬間移動し、ベンチに寝る。未だに城の外が騒がしい。
ここは私のお気に入りの場所だ。陽がポカポカ暖かくソーイチがつくった『リョクチャ』が飲みたくなる。君、今『ババ臭い』っていった?私だって乙女の端くれ。ここにきなさい、焼き殺されたいから言ったんでしょ?
まあ、いいや。ここで寝転んでいると、この千年間思い出す。
最も印象的なのはソーイチ以外の『チキュー』に関する人間、魔物がいたことだろうか。
私の知る限りではソーイチが初めの異世界人なのだが、何人かの異世界『チキュー』について知る人間、もしくはそこにいた人間がいた。
多分、最高神とか転生神、邪神、遊戯神、あたりが面白がって送ってきたのだろう。
異世界人はもれなく強力な力を持っていたが、身の安全の確立を目指す賢い人間もいれば欲に走った愚者もいた。
自分は『おとめげーむ』の『ひろいん』だとのたまう悪女もいれば、自分は元々男だなどという清廉な傾国の美少女もいた。
中でも最も賢い異世界人といえば遊戯神のせいで二百年前に種族変換転移にあった『電子の迷宮』のダンジョンマスター、トキヤ・カミタニだろうか。
あのダンジョンは革新的であった。いまや世界最大の迷宮である。
トキヤとは交流があるが何とも顕著で賢かった。今も生きるトキヤは今ではいい話し相手だ。
トキヤは現在私に次いで強く、ダンジョン内で魔物娘とハーレムを築いている。
しかしいくら強いといえどもソーイチには及ばない。
ソーイチは人間の身にありながら中位概念変革まで手掛けた。もしかすれば、下手な神よりもうまく、その気になれば『英雄』と『絶対』の神格が手に入った上位神だっただろう。
ソーイチはそんな身にありながら人間の身で朽ちることを選び、私に最期に『ごめん、でも、ほんとにありがとな、愛してる。』って言って朽ち果てた。
最後の最後までかっこいいことをいって人生を貫いた。私も未練がましくやってはいけないと思って、保存や魂を抜くことなく遺体は焼いた。
ソーイチはかっこいいのだ。愛してる。
最も愚かしかったのは九百年前の『性欲の英雄』だろうか。
あの野郎は龍皇家の姫に手をかけようしやがった。概念的に消し飛ばしてやった。名前など覚える価値もない。
あの豚は一時期『性欲獣』とか『ゴミ糞』、『下半身の奴隷』などと呼ばれていた。いつもいつもいつもブヒブヒ言って胸と又しか見ていなかった。龍皇家には手を出さないのでイライラしながらも放っておいたのが裏目に出たらしい。あそこまで強大な力を持っておきながらあんなに堕ちるとは思ってはいなかった。
思い出したら腹が立ってきた、ちっ。この話はやめよう。
最も面白かったのは五百年前の『マンザイシ』、テッペイ・ヤヨイだった。
彼の本や映像はこの国では最も有名だ。
なかでも、『サンディのパン配達』は最高にヒットした。何度笑ったものだろうか。
懐かしい。思い出していると笑えてくる。
この綺麗な庭園の中、上をむき私はくつくつと蒼天に笑う。
ああ…懐かしいな…
寝返りをうつと私の白髪は静かにベンチから零れ落ちる。
私はその星の輝く白髪を一房すくい眺めてぼーっとしてみる。
やがて、まどろむ。
私は意識を手放した。
□■□■□■□■
浅いまどろみの中、私は静かに夢を見た。
在りし日、過ぎ去った遠い思い出、今亡き君の姿。
そこにいながらも触れずとどかない儚い夢。
私がゴブリンから助けられた後、裸なのをソーイチが最高神からもらったというボロボロの黒ローブで全身を隠しながら王都に入り、冒険者ギルドにいって薬草採取でなんとか銅貨を数枚稼いだのちぼろい宿の一室で、お金がないお金がないと私がぼやきながら、狭いベッドで二人仲良く横になってるところだった。
この時私が気づいていなかったがこうして傍からみてみると、私は後ろからソーイチに抱きついているのだが、その、なんだ…裸ローブの上から胸が当たり、ソーイチが前かがみになっている。
気づかずに私は馬乗りの形になり、ソーイチに『聞いているか』と問い詰めている。顔は近い。
その時は夕方だったのだが、馬乗りのまま私はローブを固定していたひもが取れ全裸に、直後に宿屋の娘が飯の知らせにきて扉が開く。
三秒間私たち三人話見つめあったのち、宿屋の娘が『…あー、お盛んですね~^^あ、大丈夫ですよ一応。ごはんとっておきますね~ではごゆっくり~』といいながら出て行った。
そこからは誤解を解くために必死に迫ったのだが、『大丈夫ですよ、性欲の強さは人それぞれですし竜人の方は特に……』なんていって取り合ってもらえなかった。
頬をつねらずとも夢であることはわかっている。つねったところでどうしようもないし、何より見ていたい。
私は、そんな光景を近くも遠い場所からただ見ているだけだった。
手を伸ばせば届きそうなのに暗闇にさらわれそれはかなわない。
手を引けば光は戻り場面は一瞬でどんどん変わっていった。
ソーイチが初めて討伐依頼をうけて神器を渡して驚いた顔になったところだったり、ソーイチが初めて人を殺してしまって泣いているところだったり、他国に拠点を移したところだったり、二番目の嫁の猫獣人とソーイチの取り合いをしたところだったりと目まぐるしく尊い日々が重なっていく。
そして、ソーイチが死に、魂を久しぶりに会う死神に連れていかれるところまでくる。
いかないでほしい、と手を伸ばす。
しかし先にあるのは暗黒。
引けば何も残らず、世界は白く、たった一人になっていた。
一人はいやだ。そう思えば意識は浮上していく。
戻ってもあの最も輝いた時代はそこになく、あるのはその遺産。
私が本当に欲しいのは、ソーイチだけだった。
子も、その子孫も本当はいらなかったのかもしれない。
ソーイチさえいればよかったのかもしれない。
でも、そう考えたくはない。千年間、みんな好きになったからその人たちとの日々を否定することになるかもしれない。
それはいやだ。
でも、ソーイチに会うためなら世界を滅ぼしてしまうかもしれない。
いやだ。
そんなのは自分じゃない気がする。
みんなおいていくんだ。
いやだ。
いやだ。
ソーイチ、たすけて。
たすけて。
私はどうすればいいの?
あいたいよ。
あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。
ソーイチ…
ソーイチ…
そー…いち…
□■□■□■□■
目を開ければそこにあるのは月夜のみ。
耳をすませば遠いところのお囃子が僅かに耳に届く。多分今頃は国を挙げて一週間後までどんちゃこどんちゃこやっているのだろう。
この城の結界は電子の迷宮創造主トキヤくらいが本気を出さない限り破れることはないので城と城下町の距離は近い。
思いにふけてみるも私の今見た夢はなんともいえない。
でもこの夢はソーイチとの思い出が詰まったこの場所で寝るとよく見る。
誰もが、こんなよくわからない夢は見たがらないと思うが私としては、非常に見ていたい夢だ。
夢の中のソーイチは未練がましくせずに前を見て進みたいと誓った身としては妄想の類以外で唯一ソーイチにあえる場所だから。
過去の妄想にすがることしかできない神というのもなかなか滑稽なものだと思う。
わかっていても、それでも、君が生きていたならそれでいいと思ってしまうのは、この想いはどこかに捨てられないのだろうかと後悔してしまうのは、答えてと涙があふれそうになってしまうのは、どうしようもないくらい君が好きなのは、愛してしまったのだから仕方がないことだろう?
ああ、やり場がないなぁ……
「……まどろんで夢は泡沫に儚く、想いは強くに愛を叫ぶ。追憶に身を投げ出して好きだ好きだと泣き喚き、掠める手が取ったのは忘我にたなびく人の道。かっこつけてみたけどこの声は届かないよな。君がいれば僕は泣くことはなかったのに今は泣くことしかできないや。碧い碧い大海の奔流よ僕の声が波にさらわれてしまった。どうにかしてくれるかな?蒼い蒼い無限の彼方の白群にさらわれないよう僕は独り言ちた。『君のせいなんだよ』って。何も変わらないのにな。変わってくれたらいいのになー……」
…ソーイチが好きだった歌。ソーイチは音痴だった。だから私がこの曲を修正して歌ったら大好評だった。今ではこの歌は十八番である。毎日、毎日、毎日、夜になるとどこかで必ずこの歌を歌ってしまう。
そしていつものように隣で拍手をしてくれる人間がいないのがさみしいからか静かに流れる涙があふれてやまない。
この涙が止まるのはあと十分くらいかな。
…………ソーイチ……………
---がさ
寝ころびながらそこにいるのはだれかとティタ・カイテツィをかける。探知の結果をみてから上体を起こしベンチに腰掛ける。
小さな来訪者は何しに来たのかな。
「…レオナルド。どうしたのこんな真夜中に。寝てなきゃダメだよ?」
「……」
「怒らないからおいで。」
すると低木から龍皇家の長男レオナルドが下を向きながら出てきた。近くによってきて私の隣にすわった。
「どうしてこんなところにいるのかな?」
「……」
「…おーい?」
「な…で…てるの…」
「…」
小さくて聞き取りずらかったけど聞こえた。
なんで、ないてるの…かぁ。
この子は龍皇家の血を引くことの証明であるようなやんちゃな子だが根はいい子だから心配させちゃったのかな。
困った。まだ、涙は止まりそうにないなぁ。
「…何でもないよ?ちょっと砂が目に入っただけだよ。」
「うそだ!うたってるときも悲しそうだったし、ゴミがはいったかんじもなかった!」
「本当だけど?それよりレオは何でここにいるの?」
「トイレに起きたらまどからレン姉がみたんだよ!それよりも、なんでないてたの!?レン姉はいつも笑ってないとだめだ!!わらえー!」
そうかな。…うん、頑張って笑ってみたけど多分私は困ったように笑ってるんだろうな。
案の定レオナルドはその顔を見て違和感がるのか眉が動いた。
ああ、その仕草もソーイチの面影があるなあ。ああ…ダメだな。さらに涙があふれる。
その様子を見たレオは声を上げる。
「レン姉!?はらいてえの!?」
やさしいな、レオは。本当はこんな無様な姿さらしたくはないんだけどな。だって明日からなめられたら困るし。
…ソーイチも優しかった。
ソーイチは少し悲しくなった時頭をなでてくれることが多かった。そうなると不思議と元気になれたけどな。
あいたい。撫でてほしい抱きしめてほしい。笑いかけてほしい。あいたいあいたいあいたい…!!ソーイチにあいたいよ!愛してるよ!
ダメだ…!涙が止まらない!!かっこ悪いなもおおおおおおお!!
私はやり場のない気持ちにこらえきれなくなってレオに思いきり抱きついてしまった。
「!?おいレン姉!はーなーせー!!」
私の胸が当たるのが気になるのかレオはじたばたと腕の中で抵抗を始めた。
私はレオの温かさにつられてつい我慢していた嗚咽が出てしまった。
レオはそれを聞いた途端におとなしくなり硬直してしまった。いつも偉そうで笑ってる私がそうなればそうなってしまうのも無理はないだろう。
「ずっ…ちょっとごめんねれお…もうすこしだけこのままでいさせて…おねがい…」
かっこ悪い。千年間の間にもこんな涙は龍皇家の血筋に見せたことがなかったのに。やっぱりソーヤーの魂がソーイチに似てたから思い出しちゃったかな。異世界人とこの世界の生命の魂の根本は全く違うからソーイチでないことは明らかなんだけどどうしても思い出してしまう。
あーあ…明日からレオにどんな顔してあえばいいかな、なんか恥ずかしいな。
「…だれが、レン姉をなかせてるの」
レオは泣いてる私に声をかける。その問いは難しい。答えれば原因であるソーイチを倒すとか言い出して止まらないのだろう。
どう答えるべきだろうか。
「さあ、ね…まあ、しいて言うなら目の中に入ってきた砂かな。」
レオは薄暗い中頬を膨らませた。
…不服そうだな。当たり前か。
「レオ。」
私は自称『ひろいん』が開発したいい匂いの香水の香りに包まれた服を着たレオに耳もとでささやく。
「レオ。」
「なに」
「愛してるよ。」
「!?」
ソーイチとは違った意味のソレだが、偽りのない言葉。
百年後にはさらにつらくはなるが私はこの言葉を使いたいと思った相手にはためらわずにこの言葉を使っている。
レオは顔を赤くして黙り込んだがすぐにぼそりと次の言葉で答えてくれた。
「おれもだよ…」
八歳になんていうおませ気味の子供にはこの言葉少し恥ずかしいのかもしれない。
そんな八歳の子供はもう眠るべき時間を大幅に過ぎている。とりあえず寝てもらってからベッドに放り投げてこよう。明日には今あった出来事が夢だったとでも思ってくれるだろう、多分。自信はない。
とりあえず睡眠魔法ナンキェを使って眠ってもらおう。
私に抱きつかれたままそっぽを向くレオにすいみんまほうをかける。
すると糸が切れた人形のように崩れ落ち、年相応の寝顔とすぅすぅという寝息をたてて腕の中で眠り始めた。…可愛い。
で、レオの寝室のベッドの上に空間転移門をつないでほっぽり投げればふっかふかに柔らかいベッドがレオを包み込んで夢の国でぱーりーできるだろう。
3,2,1
ぽいっ。
よし。けがもないしよし。完璧。
これで思う存分泣けるぞ。
ソーイチ愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。
龍皇家のみんなも愛してるよ。
ディーノ、レオナルド、エレオノーラ、リディア、キャトラ、アーサー、ジャント、フェルト、ルキア、アルヴィナ、シンクライ、ナナキ、グラヴンド、トゥルーラ、カイン、バダイ、ラフィリア、ジェガンド、オリジン、ノア、フィール、イア、ソディアス、ルシンク、ニックス、ソラ、オスカー、シャーロット、エマ、シャングリア、ラファエル、ハット、エドワード、オルノア、エルドラド、パトリック、マリア、マギ、ジュリエッタ、レア、ミスジェンド、カナデ、メイ、ミカエル、ポルックス、ソリフィア、アヴァ、ユメ、アインザック、レイ、ダンダリオン、コリン、ヘスティア、アイオン、ヴォルフ、バアル、アルネア、イエスティ、シエル、クエディン、ナツキ、ロード、フローラ、ティー、サキュロント、シャルル、アプリコット、ギュタ、ロキ、レイチェル、ヨハネ、ノンナ、カンナ、クリスチャン、マツリ、グロウリア、ロザー、ナイン、エルフィア、リリー、ニーナ、ルフサンギス、レイド、ライヴ、ルシファー、アイ、ジャヴァ、クリントン、ネクター、ソゲイム、ディートフリート、シュヴァルツァ、アーティア、ペテルギウス、アーク、オズ、ノーツ、タイタン、ムーン、ラビィ、グラディウス、ジャック、アリス、ラスティファー、パーシヴァル、トール、レド、レオナ、イゼルロ、ケイミー、リルリア、ホワイト、ギルベルト、アオイ、クラウディア、アレクサンダー、スレイク、ドルトット、ノノ、スプリガン、サフィア、ルヴィアナ…そして、ソーイチの長女サクラ、長男カイト、次男カエデ、二人目の嫁アルヴ、三人目の嫁アルト。
この『愛してる』が嘘になることはない。
この愛を毎晩涙に変えるようになったのはいつからだろう。
昨日も泣いた。一昨日も。一週間前も、二週間前も、一か月前も、二か月前も、一年前も、十年前も、百年前も、五百年前も、千年前のソーイチが死んだ夜もそうだったかもしれない。
いつまで泣くのか。
明日だってきっと泣く。明後日も。一週間たっても、一か月たっても、二か月たっても、一年たっても、十年たっても、百年たっても、五百年たっても、千年たっても、百万年たったってきっと泣く。
多分、世界が終焉を告げるその日まで泣き続ける。
さあ、今日も泣こう。
夜はこれからだ。
願わくば、ソーイチにあえることを祈って。
□■□■□■□■
ドレイク龍皇国は歓喜と興奮で沸いている。
六十三代龍皇ディーノ・タバタ・ドレイクが第三子、ソーヤーが生まれてから今日で一週間がたち今夜は日の沈まない夜が訪れる。
この一週間世界各国の使者がこの国を訪れ、ソーヤーの誕生を祝った。
さらに観光客や住人も街の中でバカ騒ぎをして、酔いつぶれて道の端に転がっていたり酒場から笑い声が響き渡っていた。
誰も彼もが踊り狂い、歌い枯らし、遊びまわった。
私はそんな風景を城のてっぺんから眺めている。
そうだ。白夜祭はいつもこうだ。見ているだけでも楽しい。
やはりいろいろな発見がある。
あの屋台は五百年前から続いているし、あのおじいさんは先代の龍皇の懐刀として活躍していたし、あの屋台を出している強面の男は気づいていないがワイヴァン侯爵の御令嬢に惚れられている。
ああ、楽しいものだ。移り行く時代をここまで鮮明に体験しているというのはなかなかできるものはいないだろうな。
ていうか、風が強い!魔術はめんどくさいしほっとくか…
んー…あ、トキヤと多数の嫁がいる。あとで誘いに行こう。…あの子の運命は面白くなりそうだし加護を与えておくか。…あの屋台には何年か前にお世話になった。そのせいでディーノは私を敬えなくなったらしいが。…お、北の雪国の第一王子がここにきてる。お忍びかな?ていうかもうこんなに大きくなってたんだ…あ、町娘とぶつかる…あ、あ、あ…あー…打ち首になりそうなら助けに行くか…って!?あの王子惚れやがった!?
「どうしてそうなった!?」
おーおーおーおー…口説く口説く…ん!?あの町娘なんで王子を殴った!?…顔赤い…あ、逃げた!おい、王子早く追…ってない!?「またいつか会えるだろうか」じゃねえよ!あの娘お忍びできてたリズド伯爵の箱入り令嬢だぞ!会わんといろいろとめんどくさいことに!?あ!?髪留め落としてたの!?なに、それに頼りに探すの?『シン・デレラ』ではあるまいし……あ、護衛官いたんだ…あ、かえってあの町娘のこと報告するの?がんばってね。ってことは今日の式典でないんだ。なんか国家間の問題になるかもしれないしあとでディーノに説明しといてやろう。
ハー…面白いこともあるもんだね…
「……あははは…あはははははははははっははははは!!いいね!こういうことがないと!あはははっはははははっはは!!この晴天で最も盛り上がる日にはいいことだ!!」
うん!うん!いいね!笑える!!こういう日じゃないと!
「あははははっはははははははっは――――」
私はしばらく青空のもと笑い続けていたがどこか冷静になったような、しかし何かが未練たらしく自分の袖を引っ張られるような感情になり、静かに空を見上げる。
このような感情をどういえばいいのか私は知らないが、どうしてもというのであれば私は今寂しいというべきだろう。
私はどうすればいいのかわからない。
いくら笑っていても泣いていてもどうしようもないくらいソーイチの顔しか浮かばない。後悔はしてないのでソーイチが最もこだわった自然の摂理に従ったままソーイチにあいたい。あいたい。
…あえたら…?
…そこに何か満たされるものがあるかといえばそうでもない気がする。つかもうとしても何もつかめない感覚にずっといるような気分になる。私という存在がおかしいせいでこのような感覚に陥ってるのもあるかもしれないがソレを抜きにしても、この意味の分からない思考をどうにかしたいとは思えない。
どうすればいいのか。
私はそれのみを知りたい。
どうしたいか。
私はソーイチにあいたい。
どうしたらいいか。
どうするべきだろうか。
どうなればいいか。
…意味不明だ。
私はソーイチに会ったことを後悔するつもりはないが、もう一回チャンスがあれば力でもソーイチの魂をかすめ取っておくかもしれない。
あゝ、明確に思考がまとまらなくなってきた。
もう、いっそのこと考えるのをやめよう。トキヤとかといっしょに祭りを見に行こうと思ったけどそれすらも億劫だ。
今は、流れる雲を見て、激しい風にあおられるだけでいい。
それだけでいい。
私が参加せずとも回るものなのだから。
祭囃子はどうしようもないくらいうるさかった。
□■□■□■□■
ぼーっとしていたら、いつの間にか日も沈まない夜がやってきた。
見渡せば、夜は感じられるレベルに辺りは暗いが、よく見るととても低い位置に太陽がありいつもの煌々とした光ではなく弱々しく感じる光を放っている。
人々には最後まで耐え切れず潰れるものもいるようで、それを笑うものもいるようだ。
多分予定だとこの後にディーノの演説とソーヤーのお披露目が皇都全域に出されるはず…今がちょうどその時間のようだ。
私が座っている城の最上階からいつも通りにやるようだ。
ベランダには龍皇家のもの全員が出そろっている。
国民も多くのものが耳を傾けているようだ。
「皆の者!まず、このようにソーヤーの誕生を祝ってくれたことを深く感謝しよう!」
うん。板についてる。
「そして!ソーヤーは、我を超える賢君になると神龍・レン様はおっしゃった!よって、ソーヤーをこの国の皇太子として決定することをここに宣言する!」
瞬間、国が期待と待望、希望で揺らいだ。
「さて、この祭りは白夜の終わりとともにしめられるが、その終わりは栄光の終わりにも似る。よって、先祖はこう決めた!仮初めの夜明けをより多くのもので見ろと!よって、今から夜明けとなる三時間後!レン様がその身をもって咆哮される!皆の者、忘れるな!私からは以上だ!さあ、盛り上げよ!」
そっか…吠えるんだった。
やることないし、泣こうか。
ソーイチ愛してる。
ほら、これだけで泣けてくる。
やっぱりソーイチが好きで好きでしょうがない。
さっきまでなんかもやもやしてる気持ちもあったけどその一言でいいじゃん。
そうだ!このまま夜明けまでずっとソーイチのことを考えてよう。
ソーイチが好きだ。大好きだ。愛してる。
私とは正反対の黒髪が私の晴天のような心を夜が如く覆い尽くす。それがどうしようもない暗い美しくくてたまらばい。その口から漏れ出る声は私の心を直接呼び起こしてくれる。澄み渡る。池の生態系は酢が一滴でも垂れれば崩れるのと一緒でソーイチの一声で私の心は恋のさざ波に揺らめく。魂は純白に近い金でダイヤなんて目ではないほど美しい。ああ、今だってその魂を私の宝箱にしまい続けえいいくらいだろうさ。ソーイチはその身一つで――――――
・・・
・・
・
――――――――だよ!なんで逝っちゃうのさ!私はこんなに好きだからずっとそば居たかったっていうのに!何!?会いたいなら死んでこっち来いってこと!?ふざけんな!!ばっかやろ!取り残されたこっちの身にもなってみろ!何が!あとは任せただ!そのせいでこちとら毎晩泣く羽目になってんだよ!てめぇがプロポーズした女泣かせてんだぞ!ソーイチばーーか!思えばそうだよ!私だけ愛してみればよかったんだよ!そしたら、私が今悩んでる問題は全部解決だよ!!!!アホンダラ!!!!!また泣き明かさんといかんのか!!!ほれみろそろそろ夜明けだ!!ばーーーか!!!!…
…あ…いつの間にか三時間たってた。
夜明けが近いから外にいる人の数も減ってるや。
まったく、またいつもみたいな愚痴になっちゃった…これも全部ソーイチのせいだ。ばーか!あほ!まぬけ!どんかん!しんじゃえ!きらい!…ではないな…愛してる!
もう…恨み切れないのがつらいよ!ばか!!!
本当に愛してるの…ばか。
ばかやろー…
愛してる…
愛してるぞばーか…
愛してるよ、ばか…
好き大好きあいしてんのばーか。
愛してんのばかやろー。
愛してるぞバカやろー。
あいしてるぞばかやろー!
愛してるぞバカヤロー!
愛してるぞバカヤロー!!
愛してるぞバカヤロー!!!!!
愛してるぞバカヤロー!!!!!!!!!!
愛してんだよ!!!バッカヤローー!!!!!!!!!!!
愛してんよくそったれ!!!
「愛してるよばかやろー…愛してるよバカやろー。愛してるよばかやろー!!愛してんだよ聞こえてんだろアホンダラアアアアッ!!!!!ウィンイレ!ディル!」
あいしてるぞばかやろー!
あいしてるぞばかやろー!
「グルルルルァ…ガアアアア。ガァ…ガアアア!グルルル!」
もういっそのことこのまま!!!
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ほら!鶏の数万倍は効くいい目覚ましで皆おきた!
ほら見ろ!第十代ラファエルが決めた伝統の白夜の太陽が昇る瞬間だ!!
ソーイチと一緒に見たいよ!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!
ん!?よく見りゃ後何人か健康な癖に起きてねえじゃん!!
いいよ!!
いくよ!!!
「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
涙が止まらない!!
あいしてるぞばかやろー!
千年間、ソーイチのために生きてきしそこに後悔なんてものはない。
で絶対後悔なんてしない。してやるもんか。
愛すれば悲しいし虚しい?
知るか。だったらそれを補う分だけソーイチのことを愛して、大好きだってノロケながらずっと愛し続けてやる。たとえ世界が終わってもソーイチのことを愛するし、むしろソーイチに私を愛させたことを後悔させてやる。
文句あるやつは前に出ろ!!!
その口を、生クリームとアイスとチョコレートをのせたホットケーキにジャムをかけてメープルシロップに一日つけこんで蜂蜜を一リットルかけた神甘スイーツ生産工場にしてやる!!おまけに砂糖をまぶしてやろうか!?!?追加でさとうきび(生)もトッピングしてやる!!
何度でも言ってやる!!
ソーイチが好きだ!
大好きだ!!
愛してるぞばかやろおおぉぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉお!!!!!!
本当に、大好きだ!
その分、悲しい!?
いい度胸だ!!「悲しい」君はまずアレ食おうか!!
話はそれからだ!!!
千年!
そのために生きてきたんだ!
泣いて!笑って!泣いて!笑って!泣いて!笑って!泣いて!笑って!泣いて!泣いて!泣いて!泣いてきたんだ!!!
もし、私がだめになる…ことはない!!
もうどうしようもないくらい好きなんだもん!!
この気持ちのせいでもやもやして自分がよくわからなくなる時は多いけど、この気持ちは今の私の全て。
だから、いつかこの咆哮が響かなくなる日まで生きよう。
私は笑って歌って泣いてこれから生きてく。
それ以外のことはしない。
それしかできないから。
さあ、
今日も
笑って
歌って
泣く。
明日も明後日も。
最後に。
――――ソーイチ、愛してるよ。
…あははっ!
じゃあねっ!
最後までお読みいただけましたでしょうか?読んでいただけたのであれば最大限の感謝をさせていただきます。ありがとうございました。
この作品はなんとなく暇な時間ができたときにちょくちょくかき溜めて作った駄作です。何か遠く及ばないものですが、この作品にも評価や感想を残してもらえるとすごく励みになりそうなので、よろしければカチカチでもポチポチでもしてくれるとありがたいです。