episode 6 恋心
開いていただきありがとうございます。
今回もよろしくお願いします。
まさか、岳がカラオケに来るとは思ってなかったから彼に声をかけられた時は心底驚いた。
少しずつ前に進み出したのかもしれない。
凪のいない現実に向き合ってくれるのかもしれないと思ったのに......
「俺に好きな人なんて今更できねえよ」
いつまでもあの子は岳の中に居座ろうとする。
私にチャンスすら与えてくれない。
こんなにも岳のことが好きなのに......
もし、あの頃に戻れるならとびっきり岳にアピールして、凪よりも私の方を向いてくれるように頑張ったら今の岳は振り向いてくれるかな?
ま、過去に戻るなんてことできないんだろうけど、ちょっとくらい夢見てもいいよね?
岳は私のことを見てくれないこと、私も上手く話せないことのイライラを歌にぶつけた。
結構ヤケクソに歌ったつもりでもいい感じに音程があったみたいで、周りの男子は上手いって褒めてくれる。
約1名を除いてだけど。
「なあ、伶奈。なんでそんなにイライラしてんだ?」
昔からのよしみなのか、私がイライラしてるのが岳にはバレたみたい。
「別にー!岳には関係ないし。てか岳こそ歌ったら?」
「いいんだよ。俺は聞く専門だし目立ちたくないしな」
「昔は俺がリーダーだとか言ってたくせに......」
「......あの時はあの時だよ。目立たないといけない理由もないしな」
「ねえ、なんで岳はそうなっちゃったの?昔はもっと明るかったし、積極的だったし、岳がほそんなになったのは凪......」
「これ、次入れたの誰だー?」
「ガチガチの恋愛ソングじゃーん」
「しかもデュエット曲だしー」
私がつい口にした、今まで言えなかったその言葉は最後まで岳に届かなかった。
「ねえ、岳あのね」
「あー、それ入れたの伶奈と岳だよ!早く2人にマイク渡して~」
(私は凪の代わりにはなれなくてもいい。だけど私のことも見てほしい)
私が口走りかけた言葉を止めてくれたのは小学校からの幼馴染だった。
「ほら、2人でこの曲歌って!それに伶奈が今それ言っても岳が困るだけだよ」
隣でそう呟く幼馴染ことさっちゃん。
「そうだよね。ついムキになっちゃった」
「伶奈ならきっと大丈夫だから。ずっと一緒にいたんだからゆっくり支えてあげなよ」
「うん!」
「おい、速水!俺は歌うなんて」
「せっかく伶奈が一緒に歌いたくていれたのに、結城は歌話ないって断るのー?伶奈可哀想~」
「ったく。伶奈、俺は上手くねえからどうなっても知らねえからな」
凪のワードを出したことは岳には届いていないらしく、いつものように、いやほんの少しだけ照れ臭そうにマイクを持つ岳。
岳と一緒に歌った4分間は本当に幸せだった。
ほんの少しだけあの頃を描いたような、それでいてあの頃より成長した岳の横顔を見ながら私も彼の声に自分自身の声を重ねた。
その後は岳と話すことはなかったけどもうそのことだけで私はお腹いっぱいだった。
振り向いてもらえるか分からなくても私は岳が好き。
そして私のその気持ちを見透かしたように私は一週間後に不思議な夢を見る。
ここまでご覧いただきありがとうございます。