episode 1 結城岳
ここからが本編、第1話となります。
よろしくお願いします。
もし、過去に戻れるとしたら一体何を願うのだろうか?
過去に戻る?そんな夢みたいなことを考える方がおかしい。きっとそう思う人も多いよな。
未来を知った上で全て思い通りに行動し、お金や名誉を思うがままに手に入れようとする人もいると思う。
もしくは、恋人と別れた事実があればそうならないように行動する人、勇気を出せず、告白できなかったことを嘆き、その時の後悔を無くすために告白をする人も出てくると思う。
そして俺はもし過去に戻ることができるのなら......
俺はあいつ......黒崎凪が死ぬことのない、生きている未来にしなければいけない。
--------------------------------
ミーンミーンミンミーン!
本当、夏らしさを感じるには良いんだろうけどとはいえ、こんな朝早くから鳴いてくれなくてもいいんだけどな。
朝の二度寝を蝉の大合唱に妨害された俺、結城岳は行き場のない愚痴を漏らしながらも学校へ行く準備を始めた。
「岳~そろそろ起きてこないと遅刻するわよー?」
蝉の大合唱に合わせて母さんのコーラスまでもが参戦だ。田舎の朝だというのに朝からクライマックスかよと突っ込みたくなる。
「もう起きてるから。今降りるよ」
無造作にセットした髪を触りながら、俺はキッチンへと向かう。
「相変わらず変な髪型ねぇ。この辺で唯一の進学校に通えてるのはいいにしても何でもっとやる気を出さないのかなー?お母さんは将来が不安です~」
「ほっとけ。誰も俺のことなんて気にしてないし、俺も周りのこと気にしてねえから」
「はいはい、まあちゃんとたまには自分の人生と向き合いなさいよ?もう高2の夏なんだからね!」
「分かってる......まあぼちぼち頑張るよ」
これ以上の話は毒になりそうだと判断した俺は会話を切り上げ、学校へ向かうことにした。
「もぅ、昔はあんなに一生懸命頑張る子だったのに今は必要最低限やればいいって感じなのよねぇ......今の岳見たら凪ちゃんは何て言うのかしら?」
母さんは俺に聞こえないように呟いたつもりだったのだと思うが、しっかりそれは俺の耳にも届いていた。
凪が居なくなって5年が経った。
もし、凪が生きていて今の俺を見たらがっかりするのだろうか?いや、むしろ俺を頑張らせようと凪の方が頑張りそうだな。
“一生懸命頑張ってるがっくんは誰よりもカッコいいんだから!”
一生懸命頑張るか......
自分で言うのもなんだが、あの頃の俺はお前に褒めてもらいたくていつでも一生懸命だったよ。
体力テストのために朝早起きして走ってみたり、運動会だっていつでも1番目指して手を抜くことなんてなかった。
5年の時のスキー合宿だってスキー板に体を支配されてるような感覚が好きになれなかったけど、かっこいいところ見せたくていきなり上級者コースにも行ってみたりした。
だけどそれができたのは全部凪のおかげだった。
隼人と伶奈と仲良くなる前、凪と仲良くなったのが最初だった。いつからだろう。凪の笑顔ために頑張るようになったのは......
凪が死んだと自分の中で認めざる得なくなった時、俺の中の何かが弾け、そして頑張ることが凪との思い出に繋がること。それが辛く、 また苦しかった。
そして気づけば俺は頑張ることをやめていた。
一生懸命頑張ったところでとびきりの笑顔で迎えてくれるお前はもうこの世にはいないから......
ここまでご覧いただきありがとうございます!