「水泳男子とマネージャー(仮)」番外編
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学校/学園 現代
本編後。海に行ったお話。
真岡くんが、付き合いはじめで優しくしようというあまり過保護になる。そんな感じです。
恋人がいちゃいちゃしてるだけです。
リクエストは、すみれさん からでした。リクエスト有難うございました!
青が広がる。
太陽の光がきらきらと降り注ぎ、水面に反射する。ゆらゆらと誘うように海が揺れ、私は吸い込まれるように体を傾けた。
とぷん、と海の中に体が沈む。力を抜いて体が浮き上がる。背中からやわらかく支えられるように海が揺れる。
と、隣から彼の腕が伸びてきて、引き寄せられた。
彼にもたれかかった体勢で私は口を開いた。
「浮いてたのに」
「……危ない倒れ方するな、古川」
溜息を吐いて彼、真岡 伊澄が注意をしてくる。
「力を抜いて海に沈んだら気持ちいいと思わない?」
「思わない」
きっぱりと否定して、私の手に浮き輪を握らせる。イルカの浮き輪を見つけて面白がったのは私の方だけど、まさか浮き輪に乗せられて海をぷかぷか漂うことになるとは思わなかった。
せっかく海に来たんだから泳ぎたい。
「ねぇ、伊澄くん。競争しようよ」
ほら、よくあるでしょ。あの崖まではやく泳いだ方が勝ち、とか。
「だめ。あまり遠くに離れると危ないだろ」
保護者みたい。
私は頬を膨らませてイルカに頬を寄せる。
「伊澄くん、」
体の力を抜いてイルカに体重をあずける。自然と彼を見上げる形になった。
「なんだよ」
「キスしよっか?」
「……は?」
ぽかんと口が開けられ、頬がうっすらと赤くなる。数秒後、落ち着きを取り戻した彼から、唇ではなくデコピンが降ってきた。
ぺちっと気の抜けた音が聞こえる。衝撃に備えて私は思わず目を閉じてしまっていた。瞼を開ける。
「彼女への扱いがひどいよ」
「お前が冗談ばかり言うからだろ」
「お前じゃなくて、亜沙ですけど」
「……亜沙」
「なに、伊澄くん」
「……海の家に行くか?」
その言葉を聞いた瞬間、テンションが跳ね上がった。
「行く! 待ってました! かき氷食べる」
伊澄くんが、くすくすと笑いながら言う。
「着いたときは、焼きそばを食べるって言ってなかったか?」
「焼きそばも食べる」
荷物が置いてあるパラソルに戻る。浮き輪を置いてサンダルを履く。海の家に行こうとしたら、伊澄くんに呼び止められた。
彼の手にはタオルがある。私を招き入れるようにタオルが広げられている。
彼が言おうとすることが分かったので、大人しく彼に近付いた。
タオルが私の体に優しく押し付けられる。伊澄くんの口の端が上がっていた。
この顔が好きなので私はされるがままになる。顔、髪、体にぽんぽんタオルをあてて、最後に半袖の薄いパーカーを着せられた。
*
焼きそばと、かき氷をテーブルに置くと、伊澄くんが自分の背中を振り返った。
「……背中がヒリヒリする」
「日に焼けたの? 日焼け止め塗ってあげようか?」
何度か塗りなおすつもりだったので、日焼け止めは持ってきていた。
「セクハラ」
「親切心だよ」
「じゃあ、俺がお前に塗ってやるって言ったらどうするんだよ」
「え、お願いするよ」
塗りにくい箇所とか時間がかかるし、塗ってもらったら楽だ。
「……そうだった。お前はそういう奴だった」
「なに、塗ってくれないの?」
「分かったよ。塗るよ」
「よかった。そろそろ塗り直したいと思ってたんだよね」
タオルで拭くのも丁寧だし、任せても大丈夫そうだ。
かき氷をスプーンですくい口の中に入れる。ひんやりとして気持ちがいい。
伊澄くんは焼きそばを食べている。私も少しもらったけど、おいしかった。ソースの香りが食欲を刺激して暑いときに熱いものを食べるのもいい。
残り三分の一ぐらいまでになった氷にスプーンを入れながら、いいことを思いついた。
「私が遠くまで泳ぐのが心配なんだったら、手を繋げばいいんだよ」
直前まで違う会話をしたからだろうか、伊澄くんの口が僅かに開いたままになっている。
私はもう一度口を開く。
「ほら、一緒なら安心でしょ」
伊澄くんの眉にむっとしわが寄る。過保護な彼氏さんには、いい解決策だと思うんだけどな。
「……誰にでも言うのか?」
「そんなわけないじゃん。伊澄くんは私の彼氏でしょ」
同意を求めるように手を差し伸べる。。
伊澄くんの目元が和らいだ。呆れた表情がとれないのか、少し困ったように笑い私の手を握り返した。
氷は溶けていた。