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「嘘つきくんと空ごと」続編

「嘘つきくんと空ごと」 http://ncode.syosetu.com/n1051cu/

続編。

学校/大学/ 現代(モダン)/年下男子

河坂くんは嘘つきで、誰とも付き合ってないけど、誰でも好き。そんな印象をもっていた。「真純ちゃんだけ」と言われても――


リクエストは、星空 ルーナさん からでした。続編ということだったので、前回の繋がりをもたせてみました。リクエスト有難うございました!

 はじめての出会いを思い出す。

「真純ちゃん」と、開口一番に名前を呼ばれたこと。

嫌じゃなかった。親しみやすくて、人懐っこい。私の心の中にすっと、入ってきた。





 朝。二限目が始まる前、大学の構内。数メートル先に歩いている男女が視界に入る。

女の子の名前は、春川 愛乃(はるかわ あい)。美少女。最近、新しい彼氏ができて、すこぶる機嫌がいい。自分の魅力をよくわかっていて、世渡りが上手い。私と同じ学年。

 隣にいるのは、河坂こうさか 明弘あきひろ。男女共に交友関係は広く。誰とも付き合ってないけど、誰でも好き。

「愛乃ちゃんも、真純ちゃんも好き」と、私に言った人。ひとつ下の学年。

ほら、いまだって癖のように言っている。


「愛乃ちゃん、デートしよう」

「次に生まれ変わったら考えるねー」

 愛乃ちゃんの対応はいつもと変わらず。愛乃ちゃんは新しくできた彼氏が大好きだ。

だから、河坂くんとは付き合わない。二人がお似合いでも。美男美女でも。


「あ、真純ますみちゃん!」

 河坂くんが私に気付いて声を掛けた。ぱっ、と花が咲いたように笑い嬉しそうに私に駆け寄ってくる。

 その表情は、私が特別だと言っているようで、卑怯だと思う。思わず頬が緩む。

「おはよう。河坂くん、愛乃ちゃん」

「おはよー」

「おはよう、真純」

 愛乃ちゃんが彼の後ろで言う。

「私、先に行くね。河坂くん、ノートは早めに返してよ」

「はーい」

 河坂くんからの返事を聞いて、愛乃ちゃんが去る。講義がある教室へと向かうのだろう。


「ノートって?」

「テスト用にまとめたノートを貸してくれる、って話になったんだ」

「……そう」

 相変わらず仲が良い。愛乃ちゃんに彼氏ができても、二人の関係に変化は見られない。軽口を言い楽しそうにする。

 河坂くんは愛乃ちゃん好き。だとしたら、愛乃ちゃんに振られたことになる。


「どうしたの、真純ちゃん。元気ない?」

 人を惹きつける、愛らしい瞳が私を見つめる。

「河坂くんは、」

 迷いながら口を動かす。 

「愛乃ちゃんが好きなんだよね」

「うん、好きだよ」

 清々しいぐらい爽やかな笑顔で言った。

 胸の奥で何かが締め付けられる。もしかしたら、別の答えが聞けるかもと思ってしまっていた。

期待をしていた。もしかしたら、私は


「聞かないの?」

 彼の声に思考を途切れさせる。

「え」

「私のことは? って聞かないの?」

 ぎゅっと胸が締め付けられる。息が詰まりそうになる。私は悟られないように笑みをつくる。

「また冗談を言うんでしょ」

 彼から距離をとるために、背を向けて歩き出す。歩くことに意識を集中させ腕を無意識に振る。

唐突に手を掴まれた。

「待って」


 右手首に、彼の温かな体温がじわりと伝わってくる。胸をかき乱される。振りほどきたくて、振りほどきたくない。衝動を押さえつけるように自分の手に力を込める。

「真純ちゃん」

「なに」

 覚悟を決めて、逸らしていた視線を合わせる。視線が絡み合うと、彼が笑った。

 両手で丁寧に、力が入っていた私の指を解く。

「定期落としてたよ」

 そう言って私の掌に掴ませるようにパスケースを滑り込ませる。

促されて、ぼんやりとパスケースを見る。確かに私の定期券だった。鞄に入れていたはずなのに、いつの間に落としたのか。

 受け取って、掴んでいる理由はもうないのに、河坂くんの手が離れない。でも、自分から振りほどきたくはなかった。

 心地よい間のあと、彼が口を開く。

「真純ちゃん、俺とデート――」

「しない」

 最後まで聞く前に、私は言った。デートしよう。口癖のように何度も聞いた言葉。

私じゃなくても、言う言葉。

「誘う前に断られちゃった」

 彼は苦笑して手を離した。





 彼は嘘つきだ。いつも私に嘘を言う。そして、思っていることを言ってしまう人。

好き。みんな好き。本気で口説いたら私が困るとか言って、冗談ばかり。本音が分からない人。

「真純」

「愛乃ちゃん……、講義に行ったんじゃ」

「それよりも、真純がとってる授業はどこ?」

「ここだけど……」

 教室の前で指を差す。閉じられた扉には休講と、書かれた紙が貼ってあった。

「丁度よかった。私も休講になったから一緒にカフェテラスに行こう」



「はい、カフェモカお待たせ」

 愛乃ちゃんがカフェモカをふたつテーブルに置いた。ひとつは私の前。

 私は先に席をとっていた。

「ありがとう」

 コップを口に運びながら、彼女を見る。

彼女が私と、何か話をしたがっているように思えた。暫く待つと彼女が口を開く。

「私ね、恋愛に巻き込まれたくないの」


「……うん?」

 予想できなかった言葉が耳に入ってきて、首を傾げる。

「彼が好きとか、彼女が好きとか、そういうのは応援する。でも、思い込みは迷惑よ。いきなり、私の彼氏をとったでしょ、とか言われても意味が分からないし、とった覚えもない。外見からか勘違いされるのが多くて嫌になる。……って思ってた」

「……あの、話が見えてこないんだけど」


「誰かを思い出さない?」

「誰かって?」

「他人から見られることが多くて、好意を向けられることも多い人」


 その好意を重荷だとは思っていない人。

「河坂くん?」


「そう。ほんのちょっとだけど、似てるのよ」

 似ているから彼も惹かれたのだろうか。

「河坂くんは、わかりにくい。あと、逃げすぎ」

「よく知ってるんだね」


 愛乃ちゃんは目尻を下げた。

「真純もお腹見せて、話し合ったら分かるようになるわ」

 本当に分かるようになるのだろうか。それに、知るのは怖い。


「そうだ。恥ずかしい嘘、ばらしてあげようか」

 彼女が、にんまりと笑って続ける。

「嘘って言うか冗談なんだけどね。真純、勘違いしてそうだし」

 一息置いて、私の瞳を真っ直ぐに見る。


「河坂くん、私のこと好きじゃないよ」


「え」

「断られる、って分かってるから言うんだよ。loveじゃなくて、like。友達として好き。彼が友達に公言しているのと一緒だよ。食べ物が好きとか、そういう感じ」


「はぁ……」

 私の頭の中は、はてな、でいっぱいだ。河坂くんは愛乃ちゃんが好き。それは彼本人が言っていた。

なのに、好きじゃない?

「女の子の友達に言うと、勘違いされるから女の子に好きだとは言わないらしいけどね」

「でも、愛乃ちゃんには言ってるのに?」

「私、勘違いしてないでしょ」


「し、……してないね」

 してないどころか、デートだって断り続けている。全然なびかないって楽しそうに河坂くんが言っていた。

「つまり……どうゆうこと?」

「恋愛としての好きじゃないし、断られると分かっていてデートに誘ってる、ってこと」

「なんで?」

「分かりやすく特定の相手がいた方が、女の子から断る口実になったんじゃないの。それを始めたのは彼が真純に会う前のことだし、いまは理由が変わってるだろうね」


「あの、愛乃ちゃん。それをどうして私に話すのか分からないんだけど……」

 彼女が目を細める。

「いまだに私をデートに誘うのはね、誰かさんに妬いてほしいんだよ」

 表情が、頭の中の彼との会話を思い出させる。


――本気で口説いていいの?


 あの言葉や、


――ちゃんとご主人様にだけ懐くよ。


 この言葉も冗談じゃなかったとしたら。





 お昼休み。講義が終わり人が流れ出てきた。食堂までの道ができる。学外へ行く人もちらほらいる。

人混みの中、河坂くんを見つけた。

「河坂くん」

 不意をつかれたような間のあとに、河坂くんが笑った。

「どうしたの、真純ちゃん。お昼一緒に食べる?」

「話があるの」


 人の波から離れて、建物の影になる場所に移動した。

「河坂くん、愛乃ちゃんが好き?」

「好きだよ」

「付き合いたかった?」

 

 河坂くんが私を見て、丁寧に言葉を選んでいく。

「愛乃ちゃんに恋愛感情はないよ。俺が好きなのは真純ちゃんだけだから。

付き合いたいと思うのも真純ちゃんだけだよ」


 突然の告白に、用意していた質問が詰まる。

特別。大事。いままでの、冗談みたいな言葉の中に本音が隠れていた。見たつけてほしかったように。

「ごめんね、真純ちゃん。真純ちゃんが思い違いをしていることに気付いてた。……愛乃ちゃんを好きだって言ったら気にしてくれるんじゃないかと思って俺、」


「河坂くんは嘘つきだね」

「ごめん……」

「私も嘘つきだ」

 彼の目を見る。真っ直ぐ見つめると伝わってくる。私は彼に想いを伝えようとしていなかった。

「河坂くん、好きだよ」


 河坂くんの目が僅かに見開く。

「え、冗談? あ、嘘なんでしょ? 俺をからかって」

「好きだよ」

 気持ちを込めて言う。視線で伝わればいい。

 彼がゆっくりと瞬きをする。上手く笑えないかのように、少しだけ口角が上がる。

「……嬉しい」

 照れているのか口元を隠している。笑みが表情に広がってゆくことが感じ取れた。

「河坂くん、いつものあれ言ってよ」

「あれって?」

 嘘をついていた。私も。デートはしないって、興味がない風を装っていた。本気にせずに、河坂くん

のことなんか好きじゃない、って嘘をついていた。ごめんね。まだ、受け止めきれてないんだね。

だったら今度は私の番。

「私、今週の日曜日なら空いてるよ」


 河坂くんが私を見つめる。キラキラと輝いている。表情を見ていると、私まで幸せになる。

 彼にしっぽがついていたら、嬉しそうに振っていると思う。抱きついてキスの雨を降らすだろう。

とろけてしまいそうに、彼の口が動く。

「真純ちゃん、デートしよう」


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