六
『ピンポンパンポーン♪それでは神澤春馬様、いよいよ物語の最終章でございます。この先は私、黒夢が ご案内いたします。』
変な効果音を口にし急に真面目な口調になった黒夢がニカッと笑うと俺の視界が暗転する。
そして、俺の前に写し出されたのは、ソファーに腰を下ろした加賀橋明美…そして…その隣で加賀橋明美のお腹を愛しそうに撫でる横山悟だった。
「女の子だったから名前は「佳苗」!きっと明美に似て美人になるぞー」とお腹に耳を当てながら言う横山悟の表情はとても幸せそうで胸が締め付けられる
二人の姿を見れば分かるように、あの悲劇があった後、真実を知らない加賀橋明美は横山悟と付き合い始めた…そしてお互いが大人になり結婚…妊娠と平和に人生を歩んで来たのだろう。
『人間って、もしかしたら悪魔よりも冷酷で怖い者なのかもしれないねー』
黒夢の言葉に俺は、ただ無言で頷く事しかできなかった。 俺は悪魔の存在を信じてはいない…映画などで見る悪魔は残酷で冷酷で…。今俺の前に居るこの二人は中川瑠璃の自殺をどう感じたのだろうか…もしかしたら、もう忘れてしまったのだろうか
二人の幸せな姿を見ているのが辛くなり視線を外した時、また俺の視界は暗転した
「元気な女の子ですよー、はーいパパさんダッコしてあげてね」
ここは病院…分娩台の上で安堵の表情を浮かべる加賀橋明美の側には、小さな命を大切そうに抱き涙を流す横山悟が寄り添っていた…
『おぇぇぇぇ』
そんな二人の姿を見ていた俺の頭には中川瑠璃の最後の顔が浮かび、その場に嘔吐した。
胃の内容物を全て吐き出した俺は、胸のモヤモヤも一緒に吐き出そうとするが出るのは弱々しい声だけだった
『くそ…中川瑠璃は…何故自殺するほど傷つけられ…何故…中川瑠璃を傷つけた奴等が幸せになれるんだ』
誰に問いかける訳でもなかった俺の声に黒夢は答えを与えてくれる
『弱肉強食って奴ー?でもでも!力が強いとか弱いじゃなくて、精神的な方のね!』
俺の弱った姿を見た黒夢はとても楽しそうに笑ってそう言った。
『精神的……か』
そう考えれば、中川瑠璃は弱かった…もしあの日、自殺なんてしなければ もしかしたら数日後か数ヵ月後か先に、無実が証明されていたかもしれない…自殺せずに、加賀橋明美に事実を話していれば 信じてくれていたかも知れない…こんなこと考えたって俺にはどうしようもないのに、俺の頭の中はその事ばかり考えている。
『はいはーい!注目♪』
黒夢がそう言うと、俺たちの周りは暗闇に染まった。
『突然だけど君は幽霊や悪魔…それから神の存在を信じるかい?』
聞き覚えのあるフレーズが耳に届くと、俺は躊躇わずに答えた。
『居ない』
俺の返事を聞いても黒夢は眉1つ動かさず、答えを知ってたかのように微笑んだが気にせず続ける
『幽霊なんていない…悪魔もいない…それに神だって もしも居るなら、コイツらが幸せになんてなれる筈がない!』
俺の中で沸々と怒りが沸いて出てくる、自分でも声が大きくなるのが分かるが、止められなかった。
『あのこは騙され裏切られ自殺した…中川瑠璃を殺したのはコイツらも同然だ!』
息が上がり顔が熱い
ただの夢だと分かっていても…中川瑠璃は存在しないと分かっていても、俺の怒りはおさまらなかった。
そんな俺を見ていた黒夢は『ふんふん…』と首を大袈裟に振りながら俺の背後を指差した
俺が後を振り返るといつの間にか見覚えのない家のローカに立っていた。
「佳苗!?」
家の中に聞き覚えのある声が響き渡る、加賀橋明美の声だ…ということは、ここは加賀橋明美と横山悟の家だろうか
「や…やめろ!佳苗!!」横山悟の叫び声が聞こえ俺はローカの先の開け放たれた扉へと急ぐ、がその直後、「いやぁぁぁぁぁぁ!!」俺の耳に加賀橋明美らしき者の悲鳴が飛び込んだ。
扉の前までたどり着いた俺の視界に飛び込んだのは、少し老けた加賀橋明美の背中とその前に立つ一人の少女…それに仰向けに倒れ首から血を流す横山悟だった。加賀橋明美の表情はこの位置からは見えないが、小刻みに震えるその背中と部屋の惨状を見れば怯えた顔を想像させるには充分だった。
『何が起きてんだよ…』
俺の頭は混乱していた、少女の手には血の着いた包丁が握られ…確実にその包丁はここにいる加賀橋明美を狙っている。だが、俺が気になったのはそこでは無かった…佳苗と呼ばれた少女の顔は加賀橋明美にも、横山悟にも似ていなかった…唯一似ている人物の名をあげるならば『中川瑠璃…』だった。
「佳苗…?なんで……ヒッ」
佳苗と呼ばれた少女は少しだけ笑って見せると目の前に横たわる横山悟の亡骸を踏みつけ、加賀橋明美の元へと歩み寄る…
腰を抜かした加賀橋明美に向け、包丁を振りかざすと悲しげに一言…「信じて欲しかった」と一筋の涙を流した。
「ん………ここは…」
眼を開くと見慣れた天井が視界に写る、どうやら俺は夢から覚めたらしい…
「変な夢だった」
そうだ、俺は夢を見ていた…長くて…そしてとても悲しい夢を……最後に見た佳苗と呼ばれた少女は…中川瑠璃だったんだろうか…と考え始めた途端頭痛に襲われた。
昨晩のお酒がまだ残っていたのか…二日酔いなんて始めてだ……取り合えずお風呂も着替えも済まさず寝たお陰で、スーツはシワだらけでなんだかベトベトする、まだ完全に起きてない頭を覚醒するためにもシャワーでも浴びようか…そう思った時、俺の耳に水の流れる音が聞こえた。
「もしかして…」
昨晩酔っぱらって帰って来た俺は、シャワーを浴びようとして水を出しっぱなしにしたのだろうか…はぁ…やはりお酒は程々にしよう…少し反省しながらスーツも下着も脱ぎ、風呂場のドアを開けた…
「キャァァァァ(*/□\*)」
「うわぁぁぁ!?」
俺は反射的に扉を閉めた…
誰も居ない筈の風呂場には、夢に出てきた変人が居た……
「!?…あれは夢だったはず……え!?まだ夢の中なのか!?」
取り合えず頬をつねってみたり頬を叩いたりしたが、痛いだけで目覚める様子はない
「夢じゃ…ないのか……?」
俺が状況を理解出来ずに扉の前から動けずに居ると、風呂場の扉が開き黒夢が顔を覗かせた
「うもぉん♪一緒に入りたいならーそう言えばいいのにぃ(// ̄З ̄//)」
そこに居た黒夢も死んだように白い肌とそれに合わせて作られたかのような燃えるような紅い瞳だった。
結末がトントンピョーンとなってしまいました…が(また書き直します)最後まで読んでいただきありがとうございましたm(__)m信霊協会はシリーズで書く予定ですのでまたの機会が有りましたら…ヨロシクお願いいたします。感想やポイント評価お待ちしております。