四
『はぁ…どんな状況だよ』
現役女子高生の部屋に勝手にお邪魔した挙げ句、嗚咽する彼女を一時間以上眺めてる俺はもし端から姿が見えたとしたらただの変態だな
仕方ないんだ…
勾玉を使って過去へ戻るなら見たいシーンを指定すればいいんだが、先へ進む為には、シーンの分からない俺は時刻指定みたいな物がいる。そんな数分や数十分の為に勾玉を使うのに気が引けたし、その数分の間に何かあるかもしれないと思った俺はこの通り一時間以上ここで彼女を眺めてた。
一時間も待つはめになるなら飛ばしておけば良かった…なんて後悔したところでもう遅い。
そういえば先程発覚したんだが、 勾玉は何処のどの時間でも見せてくれる訳では無いようだ…
この物語の最中の自分の様子を見に行こうとしたらそれは出来なかったし、中川瑠璃と横山悟のあの出来事の前を見に行こうと試みたが加賀橋明美がラブレターを渡すシーンまでしかダメだった。
勾玉は、この物語の主な登場人物の元へだけ連れて行き、この物語の始まりから終わりまでしか見せてくれないようだ。
「瑠璃~!ご飯よ~!」
先程の母親の声が階下から聞こえた
『このまま待ってるのもな…取り合えず明日の朝まで飛んでみて、ダメなら戻ればいいか』
そう思った俺は 勾玉を握った。
視界が一瞬暗転したあと俺の視界には、学生達が各々散らばり雑談する姿が写った。
中川瑠璃の起床まで進めば良かったんだが、女子高生の寝顔や着替えシーンを見るわけには行かないので始業の少し前まで進むことにしたのだ。
加賀橋明美は数人の女子生徒とスマホを片手に会話を楽しんでいる…内容は、説明しなくても察しが着くだろう
そして中川瑠璃の方は…今にも泣き出しそうな顔でうつ向いている、そりゃすぐそばで自分の悪口を言われれば泣きたくもなるか…しかも相手が親友だった奴なら尚更。
『ん!?…うわ…女ってマジ怖いな』
中川瑠璃の様子を見ていた俺は、ある事実を知った…中川瑠璃への虐めは陰口や無視だけでは終わらなかったようだ。
学校中の生徒が履いている筈の上履きを中川瑠璃は履いていない…誰かに隠されたか…捨てられたかだろう…まだ冬が残る3月上旬に上履き無しは流石に可哀想だな…
だからといって、俺に出来ることは無い
数分後、クラスの担任が入って来たので、俺は勾玉を使って物語を進める事にする。