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第7話「その盗賊、女魔法使いにつき…」

立ち込めた煙には眠り薬の臭いがする。

「こちらは任せろ! お前はこの煙を止めろ!」

 セビアがトースケに叫んだ。

 トースケはセビア一人で大丈夫か、と思ったが、本人が言うので煙の元を探すことにした。煙を辿って行くと、小高い丘の上にフードをかぶった妙な体型の女魔法使いが、眠り効果のある樹の枝を火魔法で燃やしていた。その女魔法使いは顔と胸が大きく、背が小さい。ドワーフ族に似ている気がするが、髪は赤毛ではなく金髪だ。

女魔法使いを後ろから引き倒したトースケはそのままロープで縛り上げた。

あれよあれよという間に捕らえられた女魔法使いは、何がなんだかわからぬまま、地面に転がされ、混乱した。

枝が燃えている様子と煙の行方を見て、風向きが馬車周辺に向かっているのが見える。

トースケは自分の鞄から、眠り効果のある葉を燃え尽きかけている枝にくべる。

 乾燥し捻れた葉は女魔法使いが使っている枝よりも遥かに効果的だ。トースケは基本的に戦わないため、逃げるための眠り効果のある薬の材料や、麻痺させる効果のある薬の材料などを持ち歩いている。

 白い煙が馬車周辺に向かって行き、霧が立ち込めているような状態になった。

トースケは女魔法使いを肩に担いで、馬車の方に走って戻ると、ちょうどセビアが御者をしていた商人を倒したところだった。商人は強盗とグルだったようだ。

ロングソードを持った商人の頭はかち割られ、セビアの方も無事ではなく肩から胸にかけて負傷している。

トースケは女魔法使いを馬車の近くに放り投げ、セビアの下に駆け寄り、自分の鞄から回復薬を取り出した。セビアの傷口はかなりえぐれており、回復薬でどうにかなるか怪しい。セビアはトースケの手を強く掴んだ。

「ゴホッ、無駄だ……私のミスだ。それよりも馬鈴薯をスノウレオパルドへ……」

 そう言ってセビアは意識を失ったが、心臓は動いているようなのでトースケは回復薬を傷口にぶっかけて布で縛った。

 周囲は未だ白い霧に包まれており、トースケが担いできた女魔法使いはすでに眠っている。

 トースケは周辺で眠っている強盗たちを縛り上げ、セビアに殺されたであろう強盗たちは、身ぐるみを剥いで森の中に放り投げた。魔物が処理してくれるだろう。

 トースケは生きている者たちを荷台に乗せ、道を塞いでいた木も森へとぶん投げた。眠っている馬を担ぎ、荷台を曳き、一先ず、眠り効果のある霧を脱出する。


 霧が晴れたところで、馬に気付け薬を嗅がせ、街道を進む。

 しばらく進んでいるとセビアが口から血を吐き出した。馬を止めトースケは荷台に移動し、セビアに回復薬を飲ませ、少し落ち着かせる。

「すまん」

 肩を抑えながら、セビアは痛そうにしている。回復薬にも治せる限度がある。切り取られた腕は治せないし、えぐれた肉の修復も出来ない。吐き出した血は修復できなかった肉片の一部か。

 トースケはセビアを落ち着かせてから、馬車を進ませる。

「この魔法使いが眠り薬を?」

「ええ。火魔法を使うようなので、ロープを湿らせておいてくれますか?」

 トースケが起きているセビアに指示を出す。

「わかった。強盗たちはこれだけだったか?」

 セビアが荷台からトースケに声をかける。荷台には6人の強盗が眠っている。うち1人が女魔法使いだ。

「いえ、死んでいた奴らは身ぐるみを剥いで森に放り投げました」

「そうか。この鎧や武器はそいつらのか。人の味を覚えた魔物は街道の旅人を襲うぞ?」

「冒険者に護衛依頼がきて儲かりますね」

「ハハハ。冒険者が商売繁盛したら、魔物が減っちまうな」

 セビアが笑いながら、イテテと胸のあたりを押さえていた。

「トースケ。この女魔法使いは次の町では突き出さないでおこう」

「は? なんでですか?」

「女だからだ。他の強盗は全員男だ。処刑されるとしたら、牢の中で、この女魔法使いはどうなる?」

 トースケは牢の中をイメージしてみた。もうすぐ死ぬ男たちが、最期の思い出として女を乱暴する、か。

「とはいえ、強盗の仲間だった奴ですよ」

「それでもだ。人としての尊厳を守って死なせてやりたい」


 街道を進み、町に着くと、トースケは強盗たちを衛兵につきだした。

「こいつら5人だな」

「そうです。返り討ちにして死んだ奴らは森に捨てました」

「なんてことをしてくれたんだ! 冒険者ギルドに街道の護衛依頼を出しておけ!」

 衛兵が部下に指示を出していた。強盗5人で銀貨5枚。

 トースケは、強盗たちの武器や防具を売り、荷台に乗っていた樽に入った酒も売り払った。銀貨10枚になった。

 馬車と馬は証拠として、衛兵が持って行ってしまった。強盗団のマークがついていたらしい。気づいていれば消したのに! とトースケは後悔した。

 女魔法使いとセビアは宿に部屋を取って寝かせ、食堂でトースケは1人豪華な食事をいただく。働いたのだから当然の権利だ。

 トースケはパンとオリーブオイルを持って部屋に行った。

 セビアは眠ったままだったが、女魔法使いは起きて、部屋に入ってきたトースケを窺っていた。手足は濡れたロープで縛られている。

「飯、食う?」

「私の仲間はどこだ?」

 女魔法使いがトースケに聞いた。

「牢の中か、処刑されてるはずだよ」

「どうして私だけ、衛兵につきださなかった? 娼館に売るつもりか?」

「さあ、それは知らない。そこで寝てる人が起きたら聞いてみてよ。俺はただの荷物持ちだから」

 とりあえず、トースケはパンとオリーブオイルをテーブルの上に置いた。

「飯食べたくても、このロープじゃ食べられない!」

「そう」

 女魔法使いの訴えはトースケには届かなかった。

「あんた名前は?」

「君の名前は?」

「フン、私の名前はアメリア。ブルーグリフォンの魔法学校を卒業している優秀な魔法使いよ」

「トースケ。冒険者」

「こっちの寝ている人は?」

「セビア。スノウレオパルドまで馬鈴薯を届けに行く最中」

 それぞれの身元がわかったところで、沈黙が訪れた。

「スノウレオパルドのどこまで行く気?」

 沈黙に耐え切れなくなったのはアメリアの方だった。

「さあ?」

「いくらで荷物持ちやってるの?」

「銀貨2枚」

「はぁ? あんたバカじゃないの?」

「違う目的があってね。北の方まで行きたいんだ。荷物持ちはついでだよ」

「目的って?」

「竜について。何か知ってることは?」

「竜? そんなものとっくの昔に絶滅してるわよ」

「そう? 北の方にいるって聞いたんだけどな」

「竜の噂話なんて、いくらでもあるわ。ゴールドローズのガリ谷、クリムゾンドラゴの生き残り、スノウレオパルドの孤島、特区ルーツ。でも全て噂。誰も見たことがない」

 トースケはガリ谷で見ているので、「結構、探す場所は多いんだな」と思った。

「私の目的は特区ルーツで大陸の秘宝を見つけることよ。冒険者になって10年。ありとあらゆる手段で探した結果、この国の特区ルーツにしかないことが判明したのよ」

 トースケは「10年も冒険者やってるのかよ」「この国に特区なんかあるのか」など新たな情報を頭の中のメモ帳に書いていった。

「だったら、こんな辺鄙なところにいないで特区に行かないのか?」

「はぁ。何も知らないの? 特区に入るためには金貨10枚と体力試験を突破する体力がいるのよ。レベル20が最低ライン。私はあと少しなの。じゃなかったら、こんなところで強盗の片棒なんか担いでないわ!」

 心底疲れたというように、アメリアは言った。

「アメリアとか言ったか? お前、自分の置かれている状況に気づいてないのか? ゴホッ」

 いつの間にか起きていたセビアが言った。

「あら、起きたの。えっとセビアさんでしたっけ? 助けてくれてありがとう。それで、私をどうするつもり?」

「トースケ。このアメリアにも荷物を背負わせて、スノウレオパルドに向かってくれ。手紙と地図を渡すから」

「何言ってるのよ! 勘弁してよ!」

 アメリアが抗議するも、セビアは地図を広げ印をつけて、トースケに手紙と一緒に渡した。

「地図に行き先の印を付けておいた。これを頼りに行ってくれ。回復薬か聖水を忘れるなよ。私はこの通り、ゴホッ。肺をやられた。長旅は厳しい。すぐに冬がやってくる。北の国境線が封鎖されないうちに行ってくれ」

「ちょっと私は承諾してないわよ!」

「立場がわかってないようだな。お前は私に生かされているんだ。我々が、もしお前を衛兵につきだしていたらどうなっていたか」

「そりゃ、牢に入れられていたでしょうけど」

「牢に入れられて処刑を待つ、か。牢で待っている間にお前の仲間に死ぬまで乱暴されていただろうな。処刑までお前の体力が持つと思うか?」

 ようやく気がついたのか、アメリアが言葉を失った。

「人が尊厳を失ったまま死ぬと、魔物化することもある。私はそれを救ったんだ。わかるか? お前に拒否権などない」

 セビアによる宣告はアメリアの胸に突き刺さったようだ。

「トースケ、口答えしたら殺していい。報酬だ。上乗せしておく」

 そう言ってセビアはトースケに銀貨5枚を渡した。

「わかった」

 トースケは金を受け取るとアメリアを縛っていたロープを解き、セビアが持っていたリュックを渡した。

 すでに外は日が沈んでいる。

「行くよ」

「行くって、今から出発するの?」

 腕と足首をこすっていたアメリアが驚いたようにトースケに聞いた。

「急いだほうがいい。牢に入れられた君の仲間が、君のことを喋れば町から出づらくなる。闇夜に紛れて出発しよう」

「そんなっ……!」

「口答えしたら、殺していいんだよね?」

 トースケがセビアに聞いた。

「ああ、問題ない。身ぐるみ剥いで森に捨ててしまえ」

 セビアの言葉を聞いて、アメリアは渋々リュックを背負った。アメリアにはかなり重いらしく、背負っただけで身体がよろめいていた。

 トースケはそんなアメリアを構うことなく、宿を出て北へ向けて出発する。

 アメリアは必死にトースケを追いかけた。



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