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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

辺境に婿入りした王子、かませボスになる未来を覆す

この話の中では『創作を生業にする人間は、無意識に異世界の歴史を知ってしまう事が稀にある』設定の為、主人公はゲームの世界に転生ではなく『この世界の歴史を題材にした物語』を前世知識と共に知った形です。

 僕の名はカール・マーニュ、この国の第二王子だが、8歳にして辺境のラーロン地方へ追い出された……そう追い出されたのだ、ただ立場が丁度いいと言う理由だけで。


 ラーロンを治める辺境伯、ロジェ・カロリングには娘が一人いるだけで子宝に恵まれず世継ぎになれる男児がいない。その上病に臥せていているので、王家に打診し僕を婿養子として世継ぎにするためだとか。


 将来は新たな公爵家の祖にしてやる、とか。お前なら更に国を富ませられると信じてる、だの。馬鹿か僕は8歳だぞ。


 僕は辺境へ向かう馬車の中、暖かい王都から何もない―――と噂で聞いてる―――田舎へ引っ越すのが嫌で嫌で不機嫌さを隠しもしなかった、なによりも呑気に見送る父や兄に腹が立って仕方がなかった。


 どんなに嫌でも馬車は進む、カロリング辺境伯の屋敷に着くと、病気で動けない彼の代わりに、辺境伯の妻ブラダ夫人と娘のデシデラータが出迎えに来た。


 そういえば僕は婿養子になるんだから、このデシデラータが僕の婚約者か。


 同い年とは聞いてる、可憐で儚げな少女と言う評判も聞いてる、けどその時僕は痩せっぽちで背が低い彼女に、あまり興味を抱かなかった。


 その後の会食も、その後の婚約者であるデシデラータと二人きりでのお喋りも、淡々と無難にこなした。何を話したかはよく覚えてない……表に見せないだけで不満がかなり溜まっていたのをこの時は自覚してなかった。


 辺境に追い出されてから僕の胸に溜まっていった黒いドロドロとしたものは……




   ~~~~~




「カールって序盤のかませボスじゃねぇか!」


 女神トライア大神殿の一室で僕は絶叫していた。


「か、カール様! 目を覚ましたのですね!?」


 起きて早々訳の分からない事を叫んだせいか、僕の寝ている部屋に勢いよく入ってきた騎士は、どうしていいか分からず混乱してる。熱で頭がやられたと思ったか? ある意味やられたな熱のせいじゃないが。


「あぁっ! 良かったです! カール様に万が一があったら私は……私は……」


 ああ、すまんね幼女(7歳の公爵令嬢)に熱を上げて辺境に左遷された法衣男爵家五男のランゴ君、僕に何かあったら君の実家ピンチだから不安になるよね。


「驚かせたね、済まないランゴ」


 まぁ彼が落ち着かないのも無理はない、何といっても女神の神殿で洗礼を受けてる最中に、いきなり熱出してぶっ倒れたんだから。


 洗礼と聞くと大仰な儀式を思い浮かべるかもしれないが、なんてことはないただの引っ越しの挨拶というか、その土地で信仰の篤い神に「これからこの土地に住みますよ」と宣言するだけだ、そういう習慣があるので神殿では戸籍の管理とかもやってる。


 一般人だと窓口担当と少し話して終わりなのだけど、僕は王族なので洗礼には町のお偉いさんが来ていたのだ。そのせいでちょっとした騒ぎになってしまったらしい。


「怠かったり、目が霞んだりしてませんか? 今すぐ神官様を呼んでまいりますので、このままお休みになってください」


「ああ、後同行してくれたブラダ夫人と、デシデラータにも大事無いと伝えてくれ」


 分かりました、と元気よく返事して部屋を出ていったランゴ君……君は一応護衛の騎士じゃなかったっけ? ベットの脇に呼び鈴あるんだから人を呼びなよ。まぁ自分に出来ることは自分でやるのは良い事だと思うけどさ。


 駆けつけた神官さんから聞いたところ、寝込んでいたのは丸一日らしいので、ブラダ夫人とデシデラータは既に屋敷に帰ってる。


 ランゴ君の話だと夫人は僕を心配するあまり、土下座する勢いで神官たちに治癒を頼み込み。デシデラータは大人に引き剥がされるまで僕の傍を離れず大泣きしてたらしい。


 心配かけて済まないと思う、確かに多少打算もあるんだろうけど、昨日会ったばかりの僕が倒れた件に真剣になってくれたのは分かった。情の深い人達なんだろう、だからこそ前世の記憶を持つ今、彼女たちの行く末に胸が痛くなった。


 そう、前世だ、洗礼を受けている最中に不思議な声が聞こえて……

 

「ああ、目が覚めたかい、死の女神ペルフォネだ、宜しくな」


 そうそう、こんな感じの……って誰だよ!


「だからぁアタシは神だって」


 どこからともなく聞こえてくる胡散臭い声に周囲を見渡すが誰もいない、いやいやここは法の女神の大神殿だぞ、不審者が入れるはずがない。


「家主のトライアには許可貰ってるよ、まぁ聞け、知識はくれてやったから、人死が無い……のは無理だろうから少なくしろ」


 人死……ひょっとしてゲームと同じ展開が起きるのか? まてまてここは現実だ、その証拠に僕は生きてる、ゲームの世界なんて……


「創作を生業とする人間はな、稀に異世界の『歴史』が見えることがある、そういうもんだと思っとけ」


 歴史……僕の記憶にある前世でプレイした【女神の紋章】と言うシミレーションRPGの世界にこの世界は酷似している。女神の言葉が本当なら製作者は『この世界の歴史』を無意識に垣間見て物語を作り上げたということか。


 このゲームの主人公はマーニュ王国の騎士―――女性キャラを主人公にし出自によっては婚約者になる―――で、僕の兄であるマーニュ王国王太子オルランド・マーニュに仕える場面から始まる。


 あらすじとしてはこのラーロン地方と隣接するリーテンブ帝国との、周辺国を巻き込む大戦を描いた仮想戦記。苦難に満ちた王太子オルランドを支える忠臣の物語。


「僕って帝国に反乱を(そそのか)されて操られて序盤に、しかも新キャラの見せ場の為にあっけなく殺られるポジションじゃないかぁぁぁぁ!」


 ヤバイ、何がやばいってこのゲームは最序盤の行動や主人公の出自でルートが幾つか分かれるんだけど、どんなルートでも(カール)は死ぬ。それで領主が不在で両国の丁度中間にあるこの領地は、全編通して奪ったり奪われたりと何度も戦火に巻き込まれるのだ。当然巻き添えになる人は大勢いるだろう。


 ゲーム中の会話の中で、帝国に操られた僕は死の間際まで信じてくれた義父を裏切り、そして義母と妻をも斬ったとされる、死んでなおゲームキャラとプレイヤー両方から随分とヘイトを集めてたなぁ。


 歴史なのになんで複数ルートがあるんだって? 主人公が現れる段階だと、どうとでも歴史は分岐するので『そうなる可能性が高い』歴史だと言う。


「そうさ、信仰されてないアタシじゃ勇者にしてやるってのは無理だが、前世の知識って加護をくれてやった、だから可能な限り死人は無くせよ」


 当然だ、幸い僕はまだ8歳だから……ゲーム開始時点で16歳なはずだからまだ8年ある、他人の都合なんかで死んでたまるか! この領地で幸せを掴んでやるぞ。


「そうそうその意気だ、なにせアタシが楽をするためだからねぇ、巻き込まれて死んだ人間なんぞの面倒を見るなんてやってられないよ、世話してやるのは自然死だけで十分さ」


 そうして胡散臭い声は消えていった、前世で知った物語、いや僕から見ると可能性の高い未来の話か……帝国に操られるなんて真っ平ゴメンだ。この時点で僕が反乱する未来は無いと思うが、色んな所と連絡を密にしておこう、そして。


「死にたくもないけど、知識とそれに伴う経験が手に入った今はっきり分かった、僕は父と兄に物凄くムカついてるんだ、反乱は起こさないけど思い知らせてやる!」


 のほほんとした笑顔で8歳児を実家から送り出すんじゃねぇよ、政治的な都合は仕方ないんだろうけどちっとは気遣えよ! 心配してくれたの母上だけじゃないか!


 異世界とやらが文明の進んだ世界で良かった……この地方を王都以上に発達させて、お前らのご自慢の王都を時代遅れの古臭い田舎呼ばわりしてやる!




   ~~~~~




 あれから7年経ち、僕が15歳になったある日一通の手紙が届いた。


「カール様、リーテンブ帝国からまた来ました、しかも今回は帝室からですよ」


 ああ、またか懲りないな連中、毎回毎回表面は当たり障り無いけど、よく裏を読むと反乱唆す内容ばっかりなんだよな。まぁ毎度親父に送ってるし、頻繁に顔を合わせてるから疑われてはいないけどさ。


「まったく、帝国はカール様をなんだと思ってるのでしょう!」


 たまたま僕にお茶を出そうと傍にいたデシデラータもウンザリした表情だ。手紙の内容を知れば当然だろう。今の境遇に不満だろうとか、帝国の姫を娶らないかとか……仕事も家庭も不満だらけなの前提で書くなっての。


 こっちは領地を発展させるに忙しいんだよ、なにより僕はデシデラータに不満なんて無いんだから。


 初めて会った時はチビで痩せっぽちだったデシデラータだが、今では美しくそして女性らしくなり、成人と認められる15歳の誕生日に僕たちは結婚した。


 僕が領地運営の陣頭指揮を執るようになってから、食糧事情が改善したおかげか15歳にしてけしからん巨乳に……ゲフンゲフン! 健やかに成長しくれた。|物語≪ゲーム≫だと子供を産むのが難しいくらい病弱だという話だったから、安心してる。


 ちなみに義父は物語(ゲーム)だととっくに他界してるのだが、僕が前世の記憶を得たあたりから快方に向かい、今では毎日元気に牛の乳を搾ってる。


 今の義父を見て辺境伯だと思う人は居ないだろう、おそらく十人中十人が酪農家のおじさんだと信じるに違いない。


 実際すでに辺境伯じゃないしね、僕の結婚と同時に隠居したので、僕が正式にカロリング辺境伯家の当主だ。だからこその帝室からの手紙だろう。


「内通を『疑わせる』のも堂々と手紙を送った理由だろうさ」


 溜息をつきつつ渡された手紙を読んでみると、今回も内容としては時候の挨拶を始め当たり触りのない内容だった……文面をそのまま受け取るならな。


「あーうん、面倒臭くて遠まわしな表現が多いが、いつものように王国に不満があるだろ? こっちに味方しろって手紙だな」


 ただ、表面的に無難な内容なんで証拠にはならない、いつも通りこの手紙はそのまま父に送るが、今回は返信の内容も一緒に送ることにする。


「ランゴ、カロリング家の家紋が入った紙を持ってきてくれ、当主として正式に返事を書く」


 いつもは無視してるのに、返事を書くと言った僕に驚いてるようだが、言われた通りに持ってくる。


 返事には玉虫色な感じで、これからも仲良くしましょう、そういえば帝王陛下には私と同い年の姫がいましたね、文の遣り取りでも如何ですか? といった内容をダラダラと長文で書いてあるように見せた……が、高い教養とある程度裏が読める人間にはこう読める。


『俺になんか言いたいなら貴様と家臣一同の嫁と娘の全員を娼婦として俺に差し出した上で「どうか話を聞いてください」とケツ舐めながら伺い立てるのが当然だろうが塵芥が寛大にも無能の貴様らが貢ぎ物も持参するまで待っててやろうと屑に対して慈悲をくれてやっていたのにも気付かないとは虫けらにもその程度は考える頭があると思った俺の不明を恥じるばかりだまったく俺の役に立つというカスにとって至上の誉れにして当然の常識も弁えないとは救いようがないなさっさと首でも吊れ糞にもその程度は出来るだろう』


 要約するとこうなる、ランゴの顔があまりの内容に引き攣ってるが、気にすることは無いだろう、同じ文面を書かせ、マーニュ国王陛下とリーテンブ帝国帝王の両方に送る。


 物語(ゲーム)が始まるまであと一年、『人死には少なくしろ』と女神に言われたので、かなりの資金を使って帝国内で内部工作をしてるが、どれほど効果があるか?


 戦争を避けるのは難しいかもしれない以上、ここで立場をはっきりさせておくべきだろう、この手紙で僕は帝国につかないとはっきり啖呵を切った形だ。


 後日、帝国からの輸入されるはずの麦―――安いから備蓄のために買ってた―――が全て切れた。想定内だし問題ない、食糧の目途は十二分だし、所詮万が一の予備の為と、内部工作員に金を渡すのに便利だから交易してただけだ。


 なお、手紙を読んだ親父は宰相と一緒に腹を抱えて大爆笑だったらしい、訪ねたら開口一番褒められたから相当痛快だったようだ。


 それはさておき、帝国は麦の栽培だけは盛んで近隣諸国に非常に安価で輸出してるんだが……まぁウチは前世の記憶手に入れてすぐの頃、ジャガイモ発見して大規模な農場作らせたんで既に輸入しなくても問題ないくらいの収穫量になってる。


 他にもこの領地にはジャガイモだけでなく、大豆を始め日本でも馴染みのある植物が手つかずの土地に大量に自生したので、女神の啓示を受けたとか言って大規模な農園と加工工場を造った。


 特に大豆油とか作って見せたら領民に泣いて感謝された。味噌とか醤油作りたかったけど、作り方知らんし調味料よりまず油だ、作れば作っただけ売れるし、需要も尽きない。


 絞った大豆は利用法を考えろと領民に丸投げした、いつかは豆腐くらい出来るかもしれん。


 さて前世の知識を得てから可能な限り準備をしてきた、開拓の名目で騎士団を始め、立身を望む若者達を集めるとしよう……僕は生き延びて幸せになってやるぞ。




   ~~~~~




 結論から言おう、帝国に啖呵切ったのは良いが自国がヤバかった。


 親父と顔を合わせて話しても何も言わなかったから隠していたのだろう。僕としても農作物や繊維などが滞りなく売れるものだから問題ないと思っていたのが悔やまれる。


 とりあえず脳内で親父の最近薄くなった頭に踵落としを喰らわせ、兄貴の顔面にドロップキックを叩き込んで落ち着こう。落ち着いたところで詳しい話を聞くことにする。


「14歳の女の子相手に誰も彼も骨抜き? どういうことですか?」


「言葉通りの意味です、ヘルトール公爵家は知ってますね?」


 親父との面会を終え、王妃である母上に話があるとお茶に誘われたのだが、聞かされたのがなんとも予想外の話だ。


 なんでもヘルトール公爵家の次女、アンジェリカ嬢が社交界デビューしたその日のうちに、身分を問わず男どもが夢中らしい……なんかヤバい薬使ってないですか?


「もちろん調べました、結果彼女は愛の女神から非常に強い加護を受けていることが判明し……口出しすることができませんでした」


 しかも兄貴まで熱を上げて自分の婚約者にすると息巻いてるそうだ、今度会ったらあの馬鹿の顔面に膝を叩きこんでやる、良いですよね母上? 衆目が無ければOKですか、ありがとうございます。


 頭痛い、こんな様で帝国に宣戦布告されたらどうなるんだ? 矢面に立つの領地の位置的に僕なんだぞ……まてよ? 兄貴の婚約者……この時点でか?


 そういえばアンジェリカなんてキャラ覚えがないし、ひょとして女主人公なのか?

読んでくれた皆さまありがとうございます

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[一言] そういえば、闇属性の魔法使いだ~に後編が収録されるそうですが、これ消さなくて大丈夫ですかね? たしか、なろう規定で「続きは書籍や他サイトで」は禁止されてたはず
[一言] ノクターン版の闇属性の魔法使いだが、なぜか勇者になってしまった~それはともかく嫁にいい暮らしをさせるために頑張って成り上がろうと思う~がある意味で続きだから興味あれば見てみればいいのでは? …
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