【2】prologue2
【2】prologue2
ザザーン。
ザザーン。
波の音が聞こえる。
眼下には果てしなく広がる真っ青な海。
上にはこれまた深青色の透いた大空。
横には何時もの悪友。
そう、夏真っ盛りの今日。
俺たちはこの碧く輝く広大な海、
…………を見渡せる崖の上にやって来ていた。
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「す、スゲー高いな……」
フッ、どうやら奴はビビったらしい。
あまいな。
こいつぁ、とんだ甘ちゃんだぜ。
因みだが、今全身が物凄い勢いで震えているのはただの武者震いか何かだ。
「な、なんだおめー。ビビったのか?
ふ、フッ。そんなに嫌なら辞めとくか?おお?」
「……おい、ソーマ。お前震えてんぞ」
いや、あれだよ。…………。
「シバリングだよ‼︎」
「お、おう。そうだな……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
妙な沈黙が辺りを支配した。
ヒュルリと、冷たい一陣の風が間を駆け抜ける。
悪友がゆっくりと口を開いた。
「なあ、ソーマよ。
あんま言いたくは無いけどさぁ……。
やっぱり辞めとかないか?」
「な、なんでよ? なんでなんよ?」
意地になり思わず変な口調となる。
「い、いやさぁ。
分かってるだろ?」
「…………」
……ああ、分かってるさ。
「幾ら何でも高過ぎるよな」
そう、何を隠そうこの崖。
少なくとも20mはありそうです。はい。
「飛び込みスポットっても、もっとあっただろ⁉︎ え? なんでここ? 馬鹿なの? 死ぬの?」
「ええ〜、だってぇ〜、こんな高いって知らんかったんやもん〜」
事実、こんな高いとは知らなかった。
いや、マジで。
流石の俺でもちょっとぶるっちまったぜ。
あ、やべ。ちょっと漏れた。
「だからさ? な?
今日はもう良くね?」
――俺たちさ、頑張ったじゃん?
悪友は諦めたかのようにそう告げた。
「……そうだな」
「っ‼︎ ならさ、もう帰ろうぜ?」
……でもさ。
俺たちにそんな選択肢はもう残ってねぇんだ。
俺は悪友にそっとある方向を指で示した。
向こうの茂みの辺りだ。
奴は訝しげな表情でチラリとそこを見る。
そして、驚きで奴は眼をいっぱいに見開けた。
そう、
悪友は気付いた。気付いてしまった。
茂みから此方を覗く複数の影。
複数の地元の小学生の姿を。
彼らは一様に、まるで物語の英雄を見ている様に、キラキラと輝く瞳で見つめていた。
彼らの無垢で無邪気な視線が、無慈悲に俺たちの身に突き刺さり、貫く。
グサッ、グサッ。
視線が痛い。
「なん……だと……」
悪友が愕然とした表情で、そう呟いた。
「分かったか? 俺たちはもう退却なんて許されねぇんだ……」
「……だけどッ‼︎」
悪友を遮り、ゆっくりと告げた。
「俺は。俺はさ、飛ぶよ」
「お、お前⁉︎ くっ、馬鹿野郎‼︎
そんな身体でとべるはずねぇよ‼︎」
飛べるはずねぇ、
飛べるはず、ねぇんだ……。
そう言って悪友は懇願するかのように俺の前で両膝をつき、俺のブーメランタイプの水着に手を掛け縋り付いた。
それでも、俺は――。
「…………もう、何を言っても行っちまうんだな?」
――ああ。
「…………そうか。
なら、もう何も言わねぇ。
行ってこい」
そう言って悪友は静かに微笑んだ。
俺はくるりと向き直り崖の先を見据える。
凄い圧力だった。何だか歪んで見える。
気の所為かバチバチと鳴っているような気もする。
――中々ヤバそうだ。
だけどな、
「1番‼︎ 男‼︎ 大神 相馬‼︎ 行きます‼︎」
飛びます‼︎ 飛びます‼︎
俺は鳥になった。
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彼が跳んだ瞬間、
天文学的な奇跡が起こった。
異世界の大魔法師の老人が起こした召喚魔方陣、その座標が彼と重なり合う。
そして、彼の位置・運動エネルギーは全て魔法エネルギーとして変換され、異世界への扉が開いた。
「俺はぁぁぁぁぁ、鳥になってるぅぅぅぅぅぅぅぅ‼︎」
しかし。
更に偶然に偶然が重なり、召喚先の座標がズレてしまったことにより彼は【ラフィス王国】の王都、その中にある勇者召喚陣上へと送られることとなった。
彼の奔走が幕を上げる。
作者は5mの飛び込み台から飛んで
死に掛けました。
多分20mは死ねます。