裏切りの聖女
はいはいはーい!こんにちは皆さーん。
あれぇ?どうしたのぉ?ぽかんとしちゃって、おかすぃー。
ん?聖女は何処だって?キャハハハー此処にいるじゃん?分からない?酷ーい。十年前に遊んであげたじゃーん。王子様ぁ。
私だよ私ー。
そう、私が聖女でーす。
キャハハハ!そ……そのぽかんとした顔傑作ぅー。可愛ーい。ねえ?お姉様達も思うでしょー?
あららー?信じないー?
こんなに筋肉ムキムキで、原色塗れの服を着て、ハイヒールブーツを履いた長身イケメン男子なんかじゃない?
あの頃はたったの中学生だったからねー。しかもポッチャリ巨乳の癒し系な美少女だったからねぇん〜。
キャハ!
でも残念でしたー、私が聖女でーす。ほら?見て?この入れ墨。王子様のお父様に刻まれた赤い花弁の入れ墨ぃー。
聖女にしか刻むことができない入れ墨。クフフ酷いよねー、ほら両胸と腹まで覆う入れ墨。両手両足を太い縄で拘束されて、神官達がこーんなに太い針をね、この白い肌に、深く何度も何度もブスッブスッと刺して……私って、まだ十三歳だったんだよ?
痛かったよぉー。
怖かったよぉー。
泣いて泣いて、何度もお母さんを呼んで、煩いって王子様のお父様と神官達に叩かれたのぉ。
あれ?そんな顔してどうしたのん?王子様?騎士様?
ふーん王子様は何も知らなかったからねぇー。そんなんだから、私が裏切ったって信じていたんだよね?
さっきも散々、罵ってくれたね。
こんな魔界の奥深くまで来てくれたご褒美に、君達に教えてあげるよぉ。
聖女の真実をね?
聖女は何か知ってる?そう、聖女とは女神様が国に遣わす聖なる華乙女。
王国に危機が迫った時に現れた乙女は、王に仕えて王国を守る。
その癒しの力は不治の病をも治し、浄化の力は魔を払い、王国に平和をもたらす。聖女は王と契り、契った王は巨大な力を手に入れる。死後は王国の土地に繁栄を約束する。
それが聖女。
そして、私は魔王進攻の際に遣わされた聖女。人々の希望!
絶望の中に輝く一条の光!聖女マリー!!
だがしかし!
ああ、だがしかし!
何と言うことでしょう!清らかな聖女は王国を民を王を裏切り、魔王の元に堕ちた!
王を臣下を神官を殺した聖女は魔界に去り、王国は滅んだ。
今は彼女を聖女と崇める者はいない。【毒売女】【裏切りの聖女】【魔王の情婦】
汚らわしい女の名前はマリー!
フ……フフフ。
フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフクハヒャハハハハハ!!ヒャハハハハハ!!
女神様が遣わした!?
仕える!?
裏切り!?
堕ちた!?
馬鹿馬鹿しい!!
本当に馬鹿馬鹿しい!
真実を教えてあげる!!
私は女神から遣わされていない!!
別の世界で!平和に!平凡に!穏やかに過ごしていた只の普通の女の子さ!
学校に通って!
友達と喋って!
恋に憧れて!
部活に努力して!
お婆ちゃんの手伝いして!
お母さんと喧嘩して!
お父さんを煙たがって!
弟と遊んで!
犬の散歩して!
未来を疑いもしない少女だった!!それをお前達、王国の神官と王がこの世界に誘拐したんだ!!
違う?
違わない!!
聖女は皆そうだ。歴代の聖女達は皆、無理矢理連れ去られ、柔らかな肌にこの隷属の入れ墨を彫られ、数々の危機と戦わせられた!
時には邪竜!
時には邪神!
時には蛮族!
時には魔王!
命を危険に曝し!この聖女の杖を握らされ!血を流し体を刻まれて、怨んでも憎んでもいない者を殺させられた!
そして最後は何がある!?そう、それは王に犯される事だ!
王に処女を散らされながら首を切り落とされ、大地に汚れなき血を染み込ませ豊饒を与えるのだ!
私は!彼女達はお前達の奴隷だったんだよ!!
私の後ろにいるお姉様達
みーんな首がないだろ?
だからだよ!
死んだ後も霊魂は囚われ、苦しんだ彼女達は私に教えてくれたんだ。何をされるか!私の未来!
私は神官達に教育されながら必死で抗った。逃げ道を探した!
そして出会ったのさ、魔王様に。
この忌むべき入れ墨から解放してくれた魔王様。私を聖女マリーではなく、きちんと稲葉 麻里と呼んでくれた魔王様。
私は魔王様のおかげで自由になった!
私達は自由になった!
私達は搾取されるだけの存在じゃない!
あの日、お姉様達と私は狂喜した!
闇に体を浸し!
弱い女の体を捨て!
魔王様に忠誠を誓い!
この世界で手に入れた力を使って、今まで私達がされた事をやってやった!
裏切り?違う!
復讐だ!逆襲だ!反抗だ!
さあ王子様?あの日、幼い貴方を見逃してあげたのに馬鹿な人。
此処まで来た貴方をどうしましょう?あの汚らわしい王族の血を継いだ貴方をどうしましょう?
ウフ……ウフフフ、焦らないでお姉様達。
此処は魔王様の領地。
時間も命も曖昧な場所。
大丈夫、時間は沢山ありますわ。ねえ?王子様?
キャハ……キャハハハハキャハハハハハハハハキャハハハハ!
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【堕ちた聖女】稲葉麻里
十年前に異世界召喚された少女。お姉様達に取り憑かれ、自分の未来を悟り魔界に堕ちて、暗黒聖女になった。
もともとはポッチャリ巨乳の癒し系美少女だったが、今は長身に逞しい筋肉がついたスレンダーな美青年。
だが、笑顔がゲスッぽいくてヘラヘラした口調なのと、原色を多用した派手な服装にハイヒール靴を履いている為、変態とか気〇がいとか言われている。
王国での監禁生活やら幽霊達からの昔話やら魔物の恐怖やらで、イロイロ吹っ切れてプッツーンとなった。戦闘狂で聖女の杖で、魔王様の敵をボコッて突き刺す。ヒャッハーする。
魔王様とは、お祖父ちゃんと孫のような関係。魔王様大好き。魔王も彼を可愛いがり城を与えている。
戦闘狂だが、彼女本来の優しさや思いやりは失っていない。今は、お姉様達と一緒に、魔族や人間の孤児を城で育てている。傷付いた魔王領の人々を癒したりする。
王子様は監禁しているが、虐待しているわけではなく再教育をしているだけ。現在、傲慢だった王子様や配下の騎士達は、城で子守の手伝いをしています。
ちなみに、乙女心も残ってて、こっそりビーズ細工やレース編みなどをしている。
甘ロリスタイルやお姫様スタイルに憧れたりするが、今はゴツイから無理だなと思っている。履いているハイヒールブーツは、乙女心の現れ。
最近は、魔王様の部下であるオーガ将軍が気になっている。逞しい彼にキュンとなるが、将軍にはチャライと嫌われて落ち込んでいる。
【魔王様】
美老人。
権威や威厳の塊だが情は深い。元々魔王は魔族の王であり、人間界進攻など考えていなかったが、王国が魔王領にチョッカイをかけたから仕方なく王国と戦った。
そしたら、王国が「ほら!ほら!魔王が襲って来た!」と大騒ぎして世界の敵にしたてあげられた。
王国は、人間界では中心的な役割を持っていたが、その求心力が弱まる度に世界の敵を作り討つ事で、地位を守っていた。過去の邪神討伐や邪竜討伐も、そのようにして行われた。
以前から聖女という存在には同情していた。今代の聖女が助けを求めて来たので助けた。今は一途に慕ってくる麻里を孫のように可愛いがる。
オーガ将軍の外堀を埋める作業も、着々と進めている。魔族にとって外見や性別は関係ないので、異存はない。
孫が楽しみ。
【お姉様達】
過去の聖女達で、麻里の背後霊。
皆様、首がチョッキンされており、切られた首を小脇に抱えている。全員で13人。
侍娘、ハイカラさん、文学少女、大和撫子、内気娘、ヤンキー、田舎娘、セクシー巨乳、研究家、クールビューティ、金髪ツインテール、ボーイッシュ少女、姐御系美少女のより取り見取りだが、全員首が切れた怨霊。
昔は王城にて囚われて悪霊になっていたが、現在は安定。
麻里の背後霊兼守護霊で、スタンド的なポジション。魔王様の力で実体化でき、孤児達の世話や戦闘の手伝いも可能。戦闘時には各自、剣術や魔術などの得意分野で麻里をフォローする。
現在は穏やかに過ごし、成仏を待っている。大和撫子さんは、デュラハン将軍と恋人。
麻里ちゃんの事は妹のように可愛いがり、その恋も皆で応援している。オーガ将軍の逃げ道はない。
【王子様】
魔王に滅ぼされた王国の王子様。残党達に育てられていた為に世間知らずで、王国は人間界で一番優れていて、皆から愛されていたと信じていた。
人間至上主義で傲慢。聖女のことはよく知らなかった。父を殺した麻里を恨み、生き残りの騎士達と凸ったが、麻里に返り討ちにされた。
現在は麻里や魔王、お姉様達に教育されて改心。自分の国がした事を知り、どうすれば良いか考え始めている。
ぶっちゃけ、王国は今まで好き勝手やっていて、滅んだ今も恨まれまくっている。
特に邪神とされた神を崇めていた国や、蛮族として滅ぼされた国の生き残りは今だに恨んでいる。
【オーガ将軍】
魔王の忠臣。紫色の肌に筋骨隆々な体付き。大きな一本角が逞しい、身長三メートル程ある巨漢でオッサン。髭がジョリジョリ、すね毛もジョリジョリ。
だらし無いが古風な所があり、男のロン毛やピアスは嫌い。だから、チャライ麻里は苦手で「最近の若い奴は」とか言っている。
細かい事は気にしないせいか、麻里が元女という事は知らない。オッサンなのにウブ。
時々、麻里がか弱く見えて、それにドキッとする自分に疑問。
最近、妙な圧迫感を方々から感じて、悪夢にうなされる。