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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

4th world "Magic"

red cap girl

作者: 小山 優

かなり昔の作品のため、文が常にも増してひどい

 チュンチュン。

森の中で小鳥か囀る。

 ザワザワ。

 風が林を通り抜ける。

「今日もいい天気! おばあさんもお元気かしら!」

 red cap girl――赤ずきんが森の小道で小さく跳ねる。

 少女は、森の中で療養している老婆を訪ねるため、一人森の奥へと進んでいた。

 手には大きなバスケット。頭には赤い赤い、真っ赤なずきん。綺麗な綺麗な少女の顔は、ニッコリと笑っている。

「おばあさん! 待っていてね! 今すぐ行くから!」



 その少女を見つめる獣が一匹。

「歳は十の少し前。バスケットの中には食べ物が入っているだろう。食べごろだ」

 狼。ただの狼ではない。狼男。二メートルはある体躯を太い木の裏に隠し、少女を見つめる。

「さて、森の奥の婆さんの家に向かっているらしい。さて、先回りして待ち伏せをするか」

 狼は一人つぶやき、一足先に森の奥へと進んだ。



 数刻後、少女は老婆の家に辿り着く。

 そしてあることに気づく。

「ねえおばあさん。どうしてこの部屋はこんなに獣の匂いがするの?」

 お婆さん――の振りをした狼はニッと布団の中で笑って答える。肝心のお婆さんは、もう胃液で溶かされていることだろう。

「それはね、私が猫を飼っているからよ」

 少女は納得して、バスケットの中から小さなケーキを出す。

「わたし、おばあさんにケーキを作ってきたの。小さいけど、おいしく食べてね」

 にっこりと笑って、テーブルの上に皿を並べる。

 でも、あることに気づく。

「でもおばあさん。どうしてそんなにお耳が大きいの? まるで獣みたい」

「それはね、お前の話をよく聞くためだよ」

 少女は納得してケーキをおばあさんの横に置く。

 やっぱり、あることに気づく。

「でもおばあさん。どうしてお目々がそんなに大きいの? まるでわたしを見定めているみたい」

「それはね、お前をよく見るためだよ」

 少女は納得して、おばあさんのベッドの前に立つ。

 そして最後に、あることに気づく。

「でもおばあさん。どうしてお口がそんなに大きいの? まるで私を食べようとしているみたい」

 少女がそこまで言ったとき、『おばあさん』の目がカッと見開かれた。

「それはお前を食べるためだよ!」



 猟師は狼を追っていた。ただの猟師ではない。魔物を狩る魔物猟師だった。

 狼男を見たという報せを受け、猟師は一人この森へと赴いた。

「キャー!」

 少女の悲鳴を聞いたのは、森の半ばへときたところだった。

 瞬時に思考を仕事につなげ、気づいたときには走り出す。手には特別に施した散弾銃を携えて。

 奥の小屋へ辿り着いたとき、その小屋のドアは吹き飛ばされていた。その扉をなくした戸口に入る。

 すると、今まさに、悲鳴の主と思われる少女が身の丈二メートルはありそうな狼男に襲われようとしていた。

「離れろ!」

 叫んで、手元の引き金を引く。

 炸裂した散弾は、狼男の右肩に命中し、肉を砕く。血が舞い、獣は地に倒れる。

「大丈夫か!」

 駆け寄ると、少女は涙を浮かべて蹲っていた。

「おばあさん…おばあさん!」



「おばあさんが……おばあさんが……!」

 少女は蹲り、呪文のように呟き続ける。

 夜が深く染み込み、森の中には焚き火の明かりしか存在しなかった。

 その焚き火の横で猟師は考えていた。

 この少女を殺したほうが良いのか。生かした方がいいのか。

 少女には、老婆以外には身寄りがないらしく、結局自分が引き取る以外にない。

 しかし、自分には少女を養う余裕などない。その必要性もなければ、してやる義理もない。ならば殺すか、人買いにでも売るか、このまま見捨てて立ち去るか。

 立ち去るのは、その後飢えて死ぬであろう少女にいくらか罪の意識を感じる。人買いも探すまでが大変だ。自分で犯す、という選択肢もあるが、この歳の女に興味はない。なら、自分が一番慣れていることにするしかなかった。

 泣き疲れて眠った少女に近づく、右手には剥ぎ取り用のナイフを握って。

 さあ、せめて感じるまもなく殺してやろう。

 ナイフを振り上げたとき、

「ねぇ、どうして私のずきんはこんなに真っ赤なんだと思う?」

少女がスクリと起き上がった。突然のことで手が止まる。

「どうして悲鳴をあげてからあんな長い時間に無事だったんだと思う?」

 少女は立ち上がり、自分の手からナイフを抜き取った。

「ねえ、どうしてあんな大きなバスケットに小さなケーキを二個しか入れなかったんだと思う?」

 そのナイフをくるくると弄ぶ。

「ねえ、身寄りがないなら、私はどこでケーキを作ったんだと思う?」

 シュンシュンとナイフが素早く宙を舞う。洗練された動き。

これは――

「ねえおじさん」

 少女はニッコリと、見るだけで微笑むんでしまいそうな笑顔で笑う。

「死んでよ」




 死ね死ね死ねしね! この下衆がッ! 小さい者を食い物にしやがって。自分のことしかない下衆がっ! 死ねッ! まるで自分に責任がないように振舞いやがって! お前はナイフで粉にされるのがお似合いだ! 見捨てるなら、なんで私を助けた! なぜ希望を与えた後に絶望させる!? なんで、なんで! どうして私を助けてくれなかった? この下種がッ! 死ね死ね死ねッ! 屑が!  お前のせいでまた絶望した! おまえのせいだ! おまえのせいだァッ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしねしねしねしねしね死ね死ね死ね。




    誰か、私を、助けてよ。




 少女は猟師のものだった銃や服、食料をバスケットの中にいれる。これで当面は生きられる。

 桶に貯めた”赤い液体”に、自分の頭巾を漬ける。少し肉片が混ざってつけにくい。鮮やかなその色は、まだしばらく私をキレイにしてくれるだろう。


 ねぇ、どうしてわたしのずきんがこんなにも真っ赤なんだと思う?




 少女は助けを求めている。

 少女は愛を求めている。

 少女は差し伸べられる手を待っている。


 ねえ、あなたのその手は誰に差し伸べられていますか?



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