№5
王妃はいまだ意識が戻らない四人目の召喚者の部屋を訪ねていた。
自分の行動がよくない事も知っている、それでも気になって仕方がない王妃であった。
「サラ、この子の事宜しくお願いしますね…。あなたが付いていてくれるのであれば何より心強いわ。何かあればすぐ私に連絡して下さい。」
ベッドの脇の椅子に腰掛けながら昔からよく知るそれこそ何時間か前まで王妃付で女官長をしていたサラに声をかけた。
「はい、王妃様。」
しばらくベッドの脇で少女の寝顔を見ていた王妃は、ふと見ると王が立っているのに気づいた。
「陛下……。」
「やはりここだったか…。必要以上に魔力があるのも考えものだな…。魔力を隠すのは構わないが…、こんな夜更けに行き先も言わずに出歩くのは心臓に悪い…。」
「陛下……。」
「何も責めてるわけではない…案ずるな。妻の心の内など手にとるようにわかる。」
そう言って笑う王であった。
「ごめんなさい…。あなたを心配させようとは思ってなかったの…。」
「わかっておる。だがな…今度からは私も誘ってくれないか?」
「ふふふ、はい…。」
「サラ、色々と大変だろうが宜しく頼む。サラがいてくれて良かった。なぁ王妃。」
「はい、陛下。」
「勿体無いお言葉ありがとうございます。」
「おっ、よく寝ておるな。それにしても…綺麗な子ではないか?」
「ええ、とっても綺麗な子ですわ…。神降殿では眼鏡をかけていたのでわからなかったのですが…。」
「王子の嫁候補とするのがやはり良いな…。この美貌では…なにかと心配だ。」
「ええ、そうですわね…。デュークの嫁候補ならば誰も怖くて手がだせませんわ。」
「あはは、あの噂もこんなとこで役に立つとは…。」
「国王陛下、皇太子様はとっても心お優しい方ですのに…。サラは不憫でなりません…。」
「サラ、お前のようにちゃんとわかっておる者がいる事は何よりありがたい。案ずるなデュークは大丈夫だ。この私と、わが国一、二を争う魔術師の王妃がついている。」
クックッと笑う王はその優しい視線を王妃へと向ける。
「まあ、一番は王子よ、二番はあなたでしょ、私は三番目ですわ。あっ…将軍も居たわね…。宰相も…、まってもっと居るような気がしてきましたわ……。神官長もあなどれないわね……。あとは……。」
どこかずれている王妃に目尻が下がる王であった。
「そろそろ戻るか…。それではサラ後は頼む。」
王は王妃の腰に腕を回すとそのままその場から消えた。
「国王陛下、王妃様…。なんだかサラは…懐かしく思います。」
ベッドに横になっている少女の寝具をなおしては嬉しそうに微笑むサラであった。
冷ややかな雰囲気が漂う中も、机を挟み向かい合っている。
右側に三人の異世界人、左側に三人の事務官。
面接のような形をとっているが、やってる事はほとんどそれに近かった。
事務官が異世界人の女性に質問をして、異世界人の女性がそれに応えている。
事務官達はあらかじめ用意している質問事項を聞いてはメモしていた。
昨日より幾分落ち着き気味だが、それでも口調は棘があり、和やかな感じとは程遠かった。
「んーー…。」
バサッと寝具ごと跳ね除けて足を出す、瞬時に跳ね除けられた寝具が元の位置へと戻されていく。
それを何度か繰り返しているとふと彼女が寝ぼけた声を出した。
「母さん? 熱いからいいってば……。」
それでも跳ね除けられた寝具は戻されていた。
「んーー…、もう朝?……。」
「はい、朝でございます。」
「何言ってるの?ございますだって、ふふふ。……………。…………。」
いま…、誰の声?
ぼんやりとした意識の中でも、見知らぬ声の主に気づいた途端ガバッと起き上がると目の前のサラとガッツリ目が合う彼女であった。
ビクッと彼女の肩が跳ねると同時に彼女の動揺と共鳴したように魔力が一瞬、時間にして0.1秒程、彼女から大量に漏れ出てしまった。
なんでメイドさんの格好?それも……見るからにおばさんだし……。ってか、外人さんっっっ???
ふりふりのメイド服じゃないけど…、どう見てもコスプレよねこれって…。
背中に嫌な汗が流れていく、彼女は周りの様子にやっと気づいた。
ここ…何処よっっ、何これっ、天蓋付ベッドってやつっ!!!
キョロキョロと辺りを見回してはザーッと血の気が引いていくように顔色が変化していった。
なんでこんな所でしっかりベッドにまで入って寝ているのよーーーっっ、私いったいどうしたの?何があったのーーっっ?
オロオロとしていても、根っからの日本人な彼女は謝罪する事は忘れない。
「すみませんっ、知らないうちに勝手に眠りこんでしまいました。すぐ出て行きますのでごめんなさい」
言うのと同時にベッドから飛び出しベッド下に置いてあった靴を履き、ベッドサイドのテーブルに置かれていた眼鏡をかけた。そのままぐちゃぐちゃになった寝具を不恰好に直すとおもいっきり頭を下げていた。
「すみません、本当にすみません、ご迷惑をおかけしました。」
言うのと同時に何度も頭を下げている。
「後日お詫びに伺いますので、今日はこれで失礼します。お邪魔しました。」
何度も何度も頭を下げては、バタバタと走りだした。
「待ってください。あなたはここに居ていいのです。お願いです、話しを聞いてくださいっ。」
サラが慌てて彼女を追いかけていく。
彼女は何処をどう走ったのか既にわからなくなっていた。
それでも後ろから追いかけてくるコスプレのおばさんとお姉さんが二人、同じくコスプレした男の人が二人。合計五人の人が自分を必死に追いかけてくるので彼女もまた必死で逃げていた。
ああーーん、何なのよーーあの人達、今度は何なわけ?コスプレのサークルか何か?ってかここって何処よーーーっっ、でも…コスプレは若い人に限るかも…、見ていてイタイし……、やっぱ年取ってるだけはある……、お金がある分完璧なのが哀しいぃぃぃぃ。
何やら外が騒がしい、自然とその場にいた事務官と異世界人の男女六人が窓の外へと視線を向けた。
庭へと続く大きな窓の外を、一人の少女を追いかけて五人の男女が走っていく。
その様子を呆然として室内から見ていた三人の事務官と三人の異世界人。
王は閣議の最中だった。咄嗟に宰相の顔を見た。
厳しい表情でゆっくりと頷いていく宰相。
同じく軍の最高幹部である将軍で魔術騎士団の総団長が王と宰相の二人に目配せをする。
数名の魔術騎士は既にこの部屋から消えていた。
王妃は思わず立ち上がり、読んでいた書物を床に落としても、拾うこともせず神経を集中させていく、それでも一瞬の事でそれ以上辿れないとわかると急いで彼の元へと飛んだ。
皇太子の執務室、ガタッと物音を出すほどに三人が三人とも反応した。
オールデンが瞬時に消え、それと入れ替わるように王妃がやってきた。
「母上…。」
「皇太子…今のは…。オールデンは行ったみたいね…。」
「凄い魔力でした…。一瞬…ほんの一瞬でしたが…。」
「ええ、確かにそうね、私も驚きました。」
「何者かが…城に……。」
「警戒をした方がいいですわね…。」
「将軍が既に…。」
「ええ…、将軍が城中をさぐったはずですわ、私も念の為城中をざっと調べて見ましたが結界に綻びはなかったのよね…。その変わりに将軍の分厚い壁が増えてましたわ。王子も調べたのでしょう?」
「はい、」
「私は一度、陛下の所に行きます。あなたも無茶はしないように、何かある時は必ず連絡を…。」
「はい、わかりました。」
「ライナス、王子を頼みましたよ。」
「はい、王妃様。」
物陰に隠れて身を隠す少女、どうやら追ってを無事に巻いたようだ。