来見の言葉
朝の学校。皆は大抵昨日のバラエティ番組の話や、好きなミュージシャンなどの話に花を咲かせていた。
そんな中、私は一人自分の席に座ってただひたすら雑誌を眺めていた。
周りの雑音がすごく気になる。っていうか私浮いてるよね。完璧浮いてるよね、周りから見れば。
だって朝っぱらから、「おいしいケーキの作り方」なんて雑誌見てるんだもん。しかも目次のページをひたすら。
「おはよー、流香。何読んでんの?」
後ろからやけに元気な高い声が聞こえる。私の友達、小町来見である。ショートヘアがよく似合う、いかにもスポーツ系という感じの女の子である。見かけだけではなく、実は本当にスポーツ系女子だ。女子バスケ部で二年生なのにエースというツワモノ。私とは中学からの友達だ。
「えっ、おいしいケーキの作り方ってどうしたの!?ついに女の子に目覚めた?」
「私はもともと女だし。っていうかさ、これには深いわけがありまして」
「訳って?」
その時タイミング良く担任が教室に入ってきた。来見は「後で来るから」と小声で言い残し自分の席に着いた。
この二年一組の担任、沢道五郎先生はとにかく小難しい先生としてこの学校では有名である。
「じゃ、ホームルーム始める」
バン、と教卓に何かをたたきつけた。見ると出席簿だった。
「今日はな」
ここからひたすら先生が話し始める。息次ぎはないのか、というほど早口で話す。もうみんな頭に入ってこないという感じだ。夢の世界へ入ってしまっている生徒も見える。
「じゃ」
長々と話すくせに最後は意外と短い。二文字の言葉を言い残してさっさと出ていく。
「はぁ。あいつ今日も変わってる」
ふと隣を見ると来見がもう来ていた。いつの間に来たんだ。まだ先生出て行って三秒だぞ、という言葉は飲み込んだ。
「で、何でその本読んでたの」
来見は私の机の中を指す。
「それがさぁ」
私はこの三日間のことを話した。彩未のことについてを特に詳しく。
「そういうことか」
来見はふ~んといわんばかりに何回もうなずく。ちなみにことの親玉とも言うべき彩未は今、次の数学の宿題をしていた。おいおい、家でやってこいよ。
「彩未様は厳しいねぇ」
やれやれという顔で彩未の方を振り向く。そして、「ちょっと見せて」といって机の中から雑誌を取り出した。そのままさっきまで私が何十分もひたすら眺めていた目次を開いて、黙り込んだ。
「これさあ、この雑誌じゃない方がいいかも」
「えっ」
「だってさあ、これ、定番のケーキばっかじゃん」
雑誌を机の上に置く。私はその表紙を見て「そう?」といった。
「うん」
来見は大きくうなずく。そして、何か思いついたようににやりと笑った。
「ど、どうしたの」
何かありそうな来見の表情にちょっと恐怖を覚える。
「いいこと思いついたんだけどさあ」
「何・・・?」
来見は私の耳に耳打ちする。私はその言葉があまりにも突拍子なもんで思わず席から立ち上がった。
「何それ!?」
あまり大きい声は出さないようにしたけれど、どうかわからない。でも、いつもよりは大きい声を出してしまった気がして、恥ずかしい。
「だってそれが一番でしょ」
ウインクをする来見。そして、腕時計を見て「じゃ、そろそろ時間だから」とそそくさといってしまった。
私はへなへなといすに座る。そして雑誌の上に顎を載せ「そんなこと言ったって」と小さくつぶやくのだった。
その日は一日中、来見の言葉が頭の中で何度も再生され授業でも先生の言葉が半分くらいしか頭に入ってこなかった。幸い先生には指名されなかったからよかったけど。
そして、あっという間に放課後になった。
こんなに短い一日はあったっけ。でも今はそんなことよりも・・・。
「んじゃ流香、ファイト!」
「・・・やっぱやだ」
来見は「いくじなしめ」と低い声を出す。私はひたすら「だってさ」を繰り返していた。
「これが一番いい方法じゃん!」
来見は食い下がる。私の気持ちも知らないで!
「いいから行ってみなって!」
背中を押され、ため息が出た。「いいよ。ネットで調べればいいわけじゃん」
「だめだよ。流香のためになんない」
私のためってなんだよ、心の中でその文字が浮かび上がる。
「頑張れ」
私は気力に負け、うんといってしまった。案の定来見の表情はみるみる明るくなっていった。
ああ、言ってしまった。私は自分のうかつさに苦笑した。
その帰り道、私はあの商店街へ足を運んだ。全く私の律義さには涙が出るよほんと。
そして夕焼けが眩しい中、「ロール・セリタリン」のドアに手をかけるのだった・・・。
これから受験生になるので、更新が遅くなるかもしれません!すみません・・・。