新たなるミッション
「ねえ、どこにいくのさ」
「どこ?」
「いや、私に聞かれても」
ふいに、ぴたっと彩未が足をとめた。彩未に腕を掴まれたままだった私は急にとまったのでバランスを崩した。
「連れてってよ」
「どこにさ」
「おいしいケーキ屋っ」
彩未はグイッと振り向いた。
「あ、おいしいケーキ屋・・・ね」
「そうよ」
これはかなり機嫌を損ねてしまったらしい。もとから声の高い彩未だが今はその一層高い。頭にキーンと響く。
「そうだなあ・・・」
私は顎に手を添えて「う~ん」と唸る。彩未はそんな私を白い目でみてくる。視線が痛い。痛いよ~。
そんな心の声は届くはずもなく、私は白い目に見つめられながらひたすら唸っていた。というより、唸るしかなかった。何を隠そう私はケーキ屋に関して全くの素人、いや、素人以下なのだから。いきなり「おいしいケーキ屋紹介してよ」なんて言われましても、返答に困る。私が知っているケーキやといえば、家の近所にあるケーキ屋と、ショッピングセンターにあるケーキ屋と、あの老舗商店街にあるケーキ屋くらいのものである。しかも内ふたつのケーキ屋は彩未の大変お気に入り店。今更「紹介」はできない。
「もしかして、知らないの?」
「・・・っ」
そんな単刀直入に言わなくても・・・。私は思わず視線をそらした。
「知らないの?」
「・・・」
冷や汗がポタリ、と頬を伝った。これは多分見抜かれてしまっただろう。
「ごめん、ホントごめん。申し訳ないです!」
私は顔の前に両手を合わせ、腰を斜め45度に曲げ頭を下げた。
「・・・わかった」
「何が?」
手を合わせたまま、顔だけ上を向けた。すると彩未が仁王立ちをして私を見下ろしていた。
「条件付きで許してあげる」
「えっ、それって許してるっていうの?」
「細かいことは気にしない」
きっぱりといい、彩未は人さし指を私の目の前に突きつける。
「一週間以内に私が納得!っていうケーキを持ってきて」
「・・・え!!!」
思わず45度に曲げていた腰がピーンと伸びた。
「ちょっと、それって」
「だめなの?」
すかさず彩未の目が細くなる。いいえいいえ、と私は手を交差させるのだった。
「じゃあ、彩未。リクエストとかある?」
その話の後の帰り道、私はメモ帳を片手にリポートをする。そうだなあ、と彩未は上を向く。
「やっぱりさ、べたな奴は嫌だなあ」
「マジかっ・・・」
これは聞かない方がよかった、とがっくり肩を落とす。べたじゃないケーキってどんなケーキなんだ。
「まあ、頑張ってね♪」
そうやって無邪気に笑う、彩未だった。
この小説を読んでいると、ケーキが食べたくなってきました。