ケーキ屋の青年
リンリンリン・・・
「いらっしゃいませ」
店の奥からメガネをかけた青年が顔を出した。
「ど、どうも・・・」
私は小さく礼をして開けたドアを閉める。
そして、小さく息を吐いてから前を向きカウンターのケースに並んでいるケーキに目を落とした。
「種類、たくさんあるんですねー」
「ええ」
・・・。会話が途切れてしまった。
しばらく沈黙が続く。私はもう話のネタがなく、ただ腰を曲げて小奇麗に金箔をまぶしたり、クリームをこれでもかというほど乗っけているケーキをひたすら眺めていた。
「あの、昨日も来てくださいましたよね・・・?」
「えっ、はい」
私は腰を伸ばした。
「覚えてるんですか」
「はい、最近は来てくださるお客さんも少なくなってて。大体覚えてますよ」
「そうなんですか・・・」
気まずい空気が漂っている。何かほかの話題はないか・・・。
「今日は何にします?」
「あ・・これを」
とっさに目の前にあったチョコレートのケーキを指さした。
「ありがとうございます」
青年はなれた手つきで箱をカウンターの下から取り出し、ケーキをその中に入れた。
「620円になります」
「っ・・・はい」
私は思わず青年の手つきに見とれてしまい、急いでバックの中から財布を取り出した。
620円は高すぎやろぉ・・。と、内心思いながらも千円札を取り出す。私みたいな平凡な女子高生は、野口さん一枚でもかなりの出費になってしまうのだ。
「またどうぞ」
380円のおつりをレシートとともに受け取り、それを財布にしまい終わると青年は笑顔で言った。
ドキッ。
―――――――昨日と同じだ。
私はいそいそとケーキが入った箱を受け取ると、急ぎ足で店から出た。
外に出ると私は大きく深呼吸をした。
酸素っていいなぁ・・・。じゃなくて!!
心の中で自分を殴る。今は手にバックと、ケーキの箱を持っていて殴れなかったからだ。
しっかりしろ、自分!
気を引き締め店から5歩くらい歩く。
ちらっと店を振り返ると、青年はもうカウンターにいなかった。店の奥に引っ込んでしまったのだ。
深いため息が漏れる。
私がまたこのケーキ屋さんに足を運んだのはほかでもない。あの青年に会うためだ。
昨日、私はこの店に初めて入って580円という高額のケーキを買った。
味はまあまあおいしかった。
でも、頭の中はケーキよりもあの青年の事を考えていたのだ。
ずーっと、ずーっと。
母にも「うわの空」って言われたし、弟には「姉ちゃん変!」って真正面から言われた。
そして、この胸のあたりにつっかっている何かを取り除くために、青年に会いにケーキ屋に来たのだ。
でも、解決しなかった。むしろ、さっきまでより深くなったような気がする。
なんか、こう、刺さってるんだよね。何かが。
今日の空はどこまでも澄んでいる青空なのに、私の心は深い深いブルーだった。
更新おくれました。
すみません!!!