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カルチェたちは生きていない。
毎朝毎晩、背中についた螺子を回さなければ動くこともできない。
もし螺子を回し忘れてしまったなら、螺子巻が途切れてしまって、誰かに螺子を回してもらうまで死んだままになってしまう。
螺子巻はカルチェたち、ナココ族にとってとても大切で、重要なものなのだった。
そのため、ナココ族は皆、恋人を作る。
共に暮らし、相手を慈しみ、共に生きるパートナーとして、恋人の存在は重要だった。
なぜなら螺子は背中にあり、これを毎日二度回すという行為は大変煩雑なことだからだ。
億劫さに感けて螺子巻を忘れ、動きを止めてしまう村人も少なくなかった。
そして自分の螺子は、自分の螺子巻でしか巻くことが出来ない。
それゆえ、自分の螺子巻を無くしてしまうことなど、以ての外なことなのだった。
だから、自分の螺子巻を恋人に預ける。
お互いがお互いの命を握るのだ。
この風習のおかげで、ナココ族の夫婦は他の部族に比べて仲が良い。
仲がいいということは、長く生きられるということだ。
長い間螺子を巻かないまま放置されてしまえば、周囲を海で囲まれたこの小さな孤島に吹き付ける潮風で、たちまち螺子が錆付いて動かなくなってしまう。
それは死だった。
いくら螺子を回そうとしても、錆付いた螺子は動かない。
永遠に動かないまま、途絶えてしまう。
死を迎えた体は、廃棄処分されてしまう。
島の中央にある、ナココ族たちを作る大きな機械工場が、もくもくと灰原を空に広げていた。
カルチェは一つ身震いをして、空を見上げた。
今日の仕事を開始した機械工場は、その黒い煙突から重い黒煙を垂れ流す。
歪みながら薄まっていく煙から視線を外し、カルチェは今日の仕事をこなすために歩き始めた。