第二話 隣町を目指して
新春を迎え、お年玉を親戚から頂いた僕は、そのお金を使って文房具を買おうと思った。こんな時でないと、買うことができない立場である訳だから、なんとも嬉しい気持ちが先立っていた。
そして相変わらず、父親は別室に籠もっていたので、正月といえども会話はしていなかった。
「隣町まで行ってきます!」
窓越しに父に挨拶を済ますと、両手を振って見守る父の、やせ細っている鎖骨が印象的に思えてくるのが悲しい。
「気をつけて行ってこいよ」
か細い声が耳に残ったまま、僕は自転車をこいでゆく。
家を出てから、間もなくすると小さな川がある。その川の橋の上で、後ろを振り返ると小さな弟が見守っていた。
「お兄ちゃん、行ってらっしゃい!」
小さな体から、思いっきり声を出しているその様子を見ていると、兄弟にも何かを買ってやりたいという思いが募る。
そして橋を過ぎ、あの頃、住んでいた向こう岸には道があり、その道を無我夢中で自転車を走らせる。それから、薄暗い林の中を通ってゆく訳だ。
僕は、この林があまり好きではなかった。なんとなく薄気味の悪い印象が、今でも心の片隅に残っているくらい不気味な場所であったのだ。
(なにか、出てきそうな感じがして、気味が悪い!)
そう思いながら、急いでその場所を抜けたくなる。そして林を抜けると、目の前には長い上り坂が見えてくる。
その道を一生懸命、寒い中、自転車を押しながら歩いてゆく。手は冷たくなり、顔は赤く冷え切っていた。
そして峠に差し掛かると、その場所の登り切った場所に小さな神社の小堂がある。そこで、僕は賽銭箱にお金をいれ、心を込めていつも御祈りをすることが日課になっていた。
(お父さんが、早く良くなりますように。)
少年頃の切なすぎる願いが、その御祈りの中に込められていた。
少年は再び、大きな自転車をこいで一路、文房具屋さんへ向かいます。
峠を下がる時、一層、寒さが増した顔は冷たく感じるのです。
寒い場所に、住む人は経験があると思うが、息をすると鼻の穴がふさがることがある。
まさに、その状態だった。顔は硬直し、赤くなり、感触がないくらいに冷たいと感じていたのだ。
つづく。




