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第一話 序章

 馬鹿正直が、過ぎるほど僕は正直者だ。嘘が嫌いだし、悪いことはできない。

 そしてお祖父さん譲りの、この性格は、損もする事もあるが、不誠実よりは良いと僕は思うんだけど。やっぱり時折馬鹿を見ることがある。他人からすれば、人の良さにつけこみ、上手く利用されることも度々あるわけだ。

 そんな僕の家は、決して裕福ではなかった。当時、製版で働いていた父は、以前から肺を患い、長い間のこと病に犯されていた記憶が思い出される。あの頃、僕ら兄弟は、父が倒れてから心細い思いをしていた時期でもあったのだ。


 そんなある日のこと。

「ちょっと、これからお父さんのところへ、ご飯を届けに行ってくるからね!」

 母が、ご飯をお膳に用意して、父の部屋に入っていったのである。その母が部屋に入るなり、父は起きあがって次の言葉を母に云ったということだ。

「この私が、病気をしている為、子供たちに不自由な思いをさせているのが辛く感じる…」

「せめて、学校で使う文房具位、用意してやりたいのだが!」

 母から云われたこのことが、いまでも記憶の片隅に残っている。


 僕は当時、尋常小学校の三年生であった。

 僕はこの家の長男で、下には三人の弟妹がいる。貧乏だから、ろくに文房具は、揃える事は出来ないので、なんでも大切に使うことにしていた。

 僕は、そのため最小限の文房具で勉強していた。文房具の補充をしたい時は、遠く離れた文房具屋さんに行かなくてはならない。

 駅から、汽車に乗れば楽なのだが、僕にとっては、そのお金さえ貴重に思えたので遠く離れた文房具屋まで足を運んでいた。


 ある年のご年始の頃である。

 隣町の文房具屋さんに買いに行くことを決めた僕は、その場所を目指して出かけてゆくことになる。

 この日は、正月明けの5日でした。雪が、サラッと大地を白く染めていて、とても肌寒い日でした。

 僕は、父が乗っていた大きな自転車に乗り、一路、隣町を目指します。寒くて風が冷たいので、手袋をして頭には帽子を被り、首には母の手編みのマフラーを巻いて出かけて行ったのでした。

 こんな日に、出かけるのだから、物好きだと自分でも考えていたのです。その事が、これからお話しする物語の序章に過ぎないのです。


つづく。


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