「女にモテるのが男の役目だから」と今日も不倫を繰り返すので
私の夫、アルスラン男爵は、週に一回以上は朝帰りをする。そして今日はその朝帰りの日だった。私は帰ってきたアルスランに、一言問いかける。
「こんなに遅くまで、どこに行かれていたのですか?」
私の問いかけに、アルスランは面倒くさそうに答える。
「社交界で出会った女が俺の事を離さなくてね。――でもしょうがないだろう?女にモテるのが男の役目。俺は役目を果たしているだけ。悪いことは何もしてないから。……いちいちなに?一夫多妻制のこの国で、そんなどうでもいいことを咎めるつもりなわけ?」
「……そんなつもりはございません。ですが、他貴族の奥方様にも手を出されているとか」
「お前、よく知ってるな。だが、それがどうした?女性を満足させられない夫が悪いに決まってるだろう?俺はただ、その心の傷を優しく癒やしているだけ。何か問題でも?」
アルスランは自分は悪くないと、勝ち誇ったような顔をしていた。
「女性を満足させられない夫が悪いと……でしたら、私が不倫してもそれは良いのですか?」
「はぁ!?お前何言ってんだよ!?」
大きな声を張り上げるアルスラン。私は淡々と続ける。
「先ほどアルスラン様が言われていたことですよ?」
「そうだけど、違うだろ!俺に満足してないって!?この俺だぞ!?俺ほどイケメンな夫はそういないだろ!俺で満足できないとか、お前見る目なさ過ぎ!」
「顔?顔からくる清潔感は大事でしょうけれど、それが全てだと思っているあなたには一生分からないでしょうね」
「はぁ!?女なんて顔しか見てねぇーだろ!良いぜ!好きに不倫でも何でもしやがれ!」
「好きにさせてもらいますが、不倫はいたしません。不倫するとあなたと同格になってしまうじゃありませんか。――アルスラン様、離婚いたしましょう」
「なっ!」
私の発言に、言葉に詰まるアルスラン。彼は一瞬ためらいの表情を浮かべたが、すぐに私に向き直って言った。
「上等じゃねぇか!離婚でも何でもしてやるよ!」
******
「顔だけはいい女だったのにな」
離婚して数日後、俺は一人で食事を食べていた。一人で使うには食卓は広すぎる。少し物寂しい光景だ。ついこの前まではここにリーシャがいたのだが……
「いかんいかん、あんな女どうでもいいわ。さっさと新しい妻を娶るとしよう!次の妻はさらに美人で俺の行動に文句を言わない奴にしよう」
「た、大変です!!」
突如バタンと扉が開き、この家の執事バトラーが飛び込んでくる。
「なんだバトラー。年甲斐もなく慌てて。そんなに動いたら早死にするぞ」
「そ、それが――周辺貴族が軒並み、我が男爵領に向けて進軍してきまして!」
「な、なんだと!どうなっているのだ!」
「それが、おそらくこの手紙に記されていることが原因かと……」
バトラーがおずおずと差し出す手紙を、俺はひったくるように奪って読む。そこにはこう記されていた。
『親愛なるアルスラン様
お久しぶりです。お変わりなく過ごしておいででしょうか?私は元気です。それはもう、離婚する前では考えられなかったほどです。
さて、本題にまいりましょうか。たいしたお話ではないのですが、念のため共有しておくべき事かなと思い、このお手紙を書かせていただきます。
以前、アルスラン様はこうおっしゃられていました。「女にモテるのが男の役目」「女性を満足させられない夫が悪いに決まってるだろう?俺はただ、その心の傷を優しく癒やしているだけ」と。
だから、私思いました。他の貴族の方々は男の役目を存じ上げないのだと。
そこで私、文をしたためました。あなたが手を出された女性の夫達に対してです。男の役目をご存じないのは可哀想だと思いましたので、アルスラン様の発言を、一字一句違わず。ついでに彼らの妻と不倫関係にある事も。
風の噂に聞くと、彼らはとても怒っているようで。――でも大丈夫ですよね?だって、あなたは男の役目を果たしているだけですから。彼らは言ってみれば逆恨みなわけですから。正々堂々、王家にでも他貴族にでも頼られてはいかがでしょうか?
では改めて、アルスラン様のますますのご発展をお祈りしておりますわ
リーシャ』
俺は悔しさとほんの少しの後悔で、手紙をくしゃりと握りしめた。握りしめた手紙から、リーシャの嘲るような笑い声が聞こえたような気がした。
******
アルスランは、進軍してきた周辺貴族に対し、男爵家のありとあらゆる私財、権利を譲渡した。それでも怒りが収まらなかった一部の貴族はアルスランを何度か殴ったという。殴られた後、彼に待っていたのは、領民の怒りだった。勝手に金鉱の権利を譲渡したり、独占していた作物の権利を手放したことで、領民の生活が不安定な物になってしまったのだ。
あの家はもうすぐ没落する、というのが社交界の見解だった。
「貴族の役目は家を発展させること……あの男に、そんな重荷はモテなかったわね」
私はポツリとつぶやいて、自分の発言にクスリと笑った。
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