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第83話 交錯する嵐と氷

「なによ! そんな魔法……!」


 リタは、次の瞬間には再び無数の魔法を展開していた。


<吹き飛ばせ__シャドウボール>


 魔法の弾幕が、一斉にミルへと襲い掛かる。


 ミルは四方から迫る黒玉に対して、

 身を翻しながら嵐槍ストームランスを纏った腕を横薙ぎに払った。


 ギュォォォォォ____


 暴風が唸る。

 螺旋状に圧縮された風が、荒々しく回転しながら魔法へと接触した。


 打ち消したのではない。

 受け流した__。


 嵐槍の一振りで、

 弾幕は軌道を逸らされ、空へと弾き飛ばされた__。


「えっ……!?」


 リタの顔色が変わる。

 弾幕そのものを、まとめて逸らされたのだ。


「それなら……」


 リタは即座に魔法を切り替える。


<斬り裂け闇のつるぎ__ソル・シャドウソード>


 中級魔法の黒き剣群が空中へ展開される。


「いけっ!」


 放たれた剣群がミルを襲う。

 一発一発の威力は先ほどの黒玉よりも上がっている。


 だが、ミルは前に出た。

 速度を活かして回避する。


「避けるな……!!」


 さらに、剣群を展開して、ミルへと放つ。


 今度こそ捉えた。


 そう思った瞬間__


 ギイィィィィ____ィィィン


 高速回転する嵐槍が、剣群を受け流し、弾き飛ばしていた。


「なんでよっ!?」


 リタが叫ぶ。


 さらに、剣群を展開しての乱射。


 しかし、弾けるからといって、いちいちそれを受ける必要はない。


 壁を蹴り。

 低空を滑り。


 空中で回転しながら剣群を抜けていく。

 そして、最小限だけ払った。


「もう!!」


 再び感情が爆発しかける。


 ムキになり、さらなる剣群を展開する。

 度重なる中級魔法の乱射、本来なら常軌を逸した魔力の消費量だ。


 だが____。


「だめだ、リタ!」


 トゥーロが冷静に制止した。


「いくらお前でも、その戦い方では魔力がそこをつくぞ」


「でも……!」


「ランスを使え」


 短く的確に指示をする。


<貫け黒き槍__ソル・シャドウランス>


 地面から黒き槍群が突き出した。

 低空飛行していたミルへ迫る。


 ミルは嵐槍を押し付けるように接触させた。


 ギギギギギッ____


 今度は違う。

 受け流せない。


 トゥーロは嵐槍を見て、その特性を即座に理解した。

 最初の黒玉は、勢いのままに相手に襲い掛かる魔法だ。

 だからこそ、横からの力で簡単に軌道を変えられてしまう。

 

 だが、ランスは地面へ固定されている。

 横からの力が加わったとしてもそう簡単には軌道を変えられない。


 嵐槍で受けたことにより、槍群の表面が削れていく。

 だが完全には壊れない。


 槍群を削りながら、その力を利用して、ミルは身体を捻り槍群を躱した。


「やはりな。これなら簡単には弾けない」


 リタは再度、槍群を展開する。


 ミルは上空へ逃れる。

 だが……。


「そっちへ逃げていいのか?」


 トゥーロが笑った。

 一直線にラットへと突っ込む。


 上空へ離れたことで、ミルとの距離が開いた。

 援護が遅れる。

 ラットが、一瞬フリーになる。


 挑発だ。

 それはミルにもわかっていた。


 リタは降りてきたミルに対して、魔法を放つ。

 襲い掛かる槍群。

 ミルはそれを避けるが、トゥーロはそれに合わせて斬り込んだ。


 斬られる腕。

 しかし、傷は浅かった。


 ミルは構わずにトゥーロに嵐槍を構えて突進する。

 嵐槍を纏った鋼腕による連撃。


 だが、それをすべて余裕の表情でトゥーロは避けた。

 トゥーロは予見で先を読んだのだ。

 その間にも、リタは槍群で追撃する。

 ミルは槍群とトゥーロの攻撃を避けるのに、精一杯になり始める。


「どんなに強力な攻撃でも当たらなければ意味はない」


 トゥーロが笑う。


「それにもう攻撃すらさせはしない!!」


 トゥーロとリタの攻撃が激しさを増していく。


 そのときだった。


「ミル!!」


 マナベル越しに聞こえた声。

 ミルがラットを見ると、魔導釣竿ワイヤーロッドを構えていた。


「リタさんを!!」


 続けて聞こえてきた声に、ミルは即座に意図を理解した。


 ミルは一瞬で方向転換し、リタへと向かう。


 トゥーロは一瞬険しい表情をさせたが、それとほぼ同時に動き出した。

 それはリタを守りたいという感情的なものではない。

 その一手で大きく先の展開が変わってくることを理解したからだ。


 このままラットを攻めれば、ラットは防御へ徹するだろう。


 その間に、ミルがリタへと到達する。

 リタには、嵐槍を防ぎきる術がない。

 かといって、超速で飛び回るミルから逃れられない。

 だからこそ、リタを守るしかないのだ。


 ラットは魔導釣竿を放ち、それを阻止しようとする。


「ちっ!」


 だが、トゥーロは軌道を読んで回避した。

 ラットは重ねて攻撃することで、

 少しでもミルがリタを倒すまでの時間を稼ごうとする。


 トゥーロはそれを躱しながら、

 剣へ大量の魔力を流し始めた。


<防げ黒き盾__ソル・シャドウウォール>


 迫るミルに対抗するように、

 リタは何重にも防御魔法を張り巡らせていた。

 だが……。


 ギイィィィィ____ィィィン


 嵐槍が壁へ突き刺さり、それを容易に砕いた。


 本来、掘削用魔法だ。

 防御破壊との相性は抜群にいい。

 壁が削れ、砕け散る。


 それでもミルの速度はわずかに止まる。


「張り直せ! 魔力を込めろ!!」


 トゥーロが叫ぶ。

 リタはさらに魔力を込め。


<防げ黒き盾__ソル・シャドウウォール>


 ドドドドド______


 先ほどより分厚い壁を何重にも展開する。

 それでも削り破壊していく。


 だが、突破するのが遅れた。

 それによりトゥーロが追いついた。


<斬れ静なる氷剣__ジ・ソル・アイスソード>


 片手のサーベル。

 もう片方には氷剣。

 二刀で、ミルへと斬りかかる。


 ミルは向き直り、それを止める。


 ギャギャギャギャギャアアア____


 耳障りな激音。

 嵐槍が剣を削った。


 トゥーロは鍔迫り合いのまま、ミルを蹴り飛ばした。


 ザザ___


 吹き飛んだミルは、体勢を立て直す。



 トゥーロは自分の手を見た。

 震えている。


「……これほどか」


 剣や腕へ大量の魔力を流して、なお、それほどの衝撃があった。


「どんな魔力密度をしているんだ……」


 理解する。

 このミルが使用する嵐槍の威力を。

 リタの盾群が簡単に突破されるわけだ。

 それに全力で強化していなければ、腕ごと持っていかれていた。


「リタ……」


 トゥーロが静かに告げる。


「常に防御魔法を維持しろ。離れすぎるなよ」


 両手の剣を構える。


 トゥーロは死霊系の魔物の中でも〝ファントム〟という種類となる。

 肉体を持たず、死体に憑依するような形で行動する。

 元が霊的な分、精霊とも似ている部分があり、魔力適性も高い。

 複合魔法である〝氷魔法〟を得意としている。


 しかし、今まではこれをできるかぎり温存していた。


 魔力を消費しすぎれば、肉体を動かす魔力がなくなってしまう。

 魔力がなくなれば、どんなに肉体が戦闘可能でも、

 操ることができなければ戦闘を継続することができないのだ。

 それだけではない。


 この肉体、それを維持するためにも魔力が必要だ。

 だから制限していた。


 しかし、もう出し惜しみはできない。

 トゥーロだけなら避けることができるが、

 後ろにリタがいる限り、

 この嵐槍を受ける場面は必ず発生する。


 かといって、戦略的に見てもリタを切り離すことはできない。

 前回と同様に二人の連携でトゥーロも倒される。

 絶対にリタを倒されてはならないのだ。


 受けるには魔力を使用するしかない。

 トゥーロ自身も覚悟を決めた。


 ラットとミル。

 二人とも危険すぎる。


 大量に魔力を消費している以上、長引けば負ける。


 なら……。

 今、押し切るしかない。


 トゥーロはさらに魔力を籠めた。


 トゥーロとミルが激しく斬り結ぶ。

 ミルは撹乱するために移動しようとするが、

 トゥーロは先を読み、行手を阻み、ミルを止める。

 トゥーロはそのまま攻撃に転じるが、

 ミルはそれに対して、嵐槍で弾こうとする。


 ギィィィ____


 嵐槍とサーベルがぶつかりあう。


 瞬間__

 サーベルが、腕ごと宙を舞っていた。


 ミルは状況を理解するため、それを目で追ってしまった。

 トゥーロは笑う。


「……捕まえた」


 次の瞬間……。


<頑強な凍てつく檻で捕縛しろ__アストラ・アイスプリズン>



 こめていた魔力を使用して、トゥーロは魔法を使用した。




 ミルの周囲を、超高密度の氷が一気に包み込んだ____。




※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ミル……


今回は、満を持してミルの新技が大活躍だったね。


……むふう。


うん。

本当にすごかったよ。


リタさんもトゥーロも、かなり驚いてたしね。


……ん。


あの二人があそこまで反応するんだから、相当だったと思う。


……ふふん。


ミルの速さと防御があるからこそ使いこなせる技だよね。


……ん。


他の人だと、魔法があっても使いこなすのが難しそうだね。


……わたしだけ。


うん。


まさに、ミルだけのとっておきだ!


……むふう。


(今日は機嫌がいいな……)


……ラット?


なんでもないよ。

でも、本当に頼もしかった。


……うん。


次回は、戦闘がいよいよ佳境です!!


……よろしく。


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