第81話 荒れ狂う黒き衝動
「ラット……?」
こいつ、今なんて言った?
ミルの知り合いなんじゃないの?
いや、名前が同じだけかも……。
「ラット・クリアノート?」
「はい……」
肯定した?
なんで?
ほんとにこいつなの?
こんな弱そうなやつがトゥーロを?
そもそもなんで生きてるのよ。
あの辺り一帯、特級魔法で消し飛ばしたじゃない。
あたしがトゥーロの無念を晴らしてやったと思ってたのに……。
昨日、連絡がきて……、
〝ラット・クリアノートを殺せ〟
……とか言われても、そいつもう死んでるし。
〝魔法都市にいる。昨日までは魔導大図書館で存在を確認されている〟
……って言われても死んでるんだからいるわけないじゃん!!
そう思っていたのに____。
なんでほんとに生きてるのよ!!
ヴィントミューレでは、遠かったから影くらいしかわからなかったし。
安否確認だってしてないけど……。
特級魔法が発動する間際まであの位置にいたんだから、
間に合うわけなんてないのに……。
どうして!?
そもそもほとんど更地になってたじゃない。
トゥーロは、ラットに負けてから、事あるごとに名前を出した。
「弱いくせに、なかなかやるやつだ。お前も見習えよ」
「自分というものを熟知している」
ボロボロにされて、相当に恨んでいたはずだ。
でも、お姉さんであるあたしが倒してあげたから、トゥーロの溜飲が下がっていたのに。
トゥーロの力になれた。
仲間の力になれた。
それが嬉しかったのに____。
森人族の集落から追い出されて、
魔法学園でもアイツに負け続けて、
みんなからバカにされ続けたあたしが。
役に立てたことが誇らしかったのに____。
あんたが生きてちゃダメなのよ。
生きてるとトゥーロが悲しむの。
仲間が悲しむのよ____!
あーもう、わかんない!
どういうことなの?
(わかった…………)
感情の昂りに合わせて、
身体中に魔力が巡るのを感じる____。
(また……殺せばいいよね…………?)
杖に魔力を込めて振り抜いた____。
なんであんたがとばされてるのよ。
邪魔しないでよ!
「リタ……、どうしたの…………?」
アリエス、どうしたの?
そんなに怖がらないで……。
あたしはただ許せないだけなの。
だって……。
「あいつは……あたしの仲間を傷つけた!!!」
なんだろう……。
身体の内から湧き上がってくる感情。
いや、もともと抱いていた感情を、後押しされている気がする。
「君の仲間……?」
なに?
覚えていないの?
弱い奴なんて覚えていないとでもいいたいの?
ふざけんじゃないわよ!!!
「なに……、その顔……? 忘れたとは言わせないわよ」
リタはギリ……、と歯を食い縛る。
「〝トゥーロ・グリード〟よ!!!」
名前を発したと同時にその姿が頭を過った。
ボロボロになって帰ってきた〝トゥーロ〟の姿が____。
怒りの感情が吹き出した。
「あのとき、消しとばしてやったと思ってたのに……!」
今度こそ、
「まさか生きてるなんてね!!!!!」
絶対に、
「あの魔法からどうやって逃れたかはわからないけど……」
あたしの魔法で、
「今度こそ、死んでちょうだい!」
消しとばしてあげる!!!!!
もうわけがわかんない。
怒りしか湧いてこないわ____。
「アリエス、ミル……、あなたたちは離れててちょうだい…………」
二人は巻き込まないようにしないと。
きっとこの辺りは、
更地になるから____
リタは杖を構えて、魔力を込めた。
<吹き飛ばせ__シャドウボール>
ヴヴッ、ヴヴヴッッ、ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ____。
闇色の玉が、次々と空中へ展開されていく。
ミルがアリエスともう一人を連れて、離れていった。
(ミル……、あなた、そんなことができるのね……)
ちょうどいい。
これで周りを気にせずに戦える____。
*
こいつ、何をしているの?
(なんで、この弾幕を抜けられるの?)
いつの間にか、別の場所にいる。
姿が見えなくなったと思ったら、なんでそんなところにいるのよ。
(なんなのよ、こいつ!)
壁に張り付いて、移動している。
糸を引っ張って、跳んでいる。
まるで虫じゃない。
(いい加減食らいなさいよ)
うざったいわね。
虫なら虫らしくさっさと潰れなさいよ。
「きゃっ……!?」
何よこれ……。
足を滑らせたっていうの?
攻撃をするのでもなく?
あたしを馬鹿にしているの?
「……っ、このっ!」
もうなんなのよ。
どいつもこいつも、
あたしを馬鹿にして。
絶対に許さない。
もうこうなったらこの辺り一帯______
<暗黒の闇で圧し潰せ__ソル・シャド……>
バサッ__
「何よこれっ!」
リタの身体は、網で覆われていた。
なによこれ。
また攻撃じゃなくてこんな……
まるで虫みたいに。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんなのよ。
なんであんたが立ってるのよ。
あたしがあんたを見下ろすの。
あたしがあんたを負かすのよ。
それなのに……。
<射抜け__アイスアロー>
あいつとあたしの間に突き刺さった氷の矢。
それが吹き出した感情を凍らせた。
「おいっ、落ち着け!!」
この声は間違いない。
〝トゥーロ〟だ____
*
ラットは、氷の矢が飛んできた方向へ視線を向ける。
そこに立っていた人物を見て、唖然とした。
「……トゥーロ・グリード」
以前、ヴィントミューレで戦った少年だ。
「久しぶりだな、ラット・クリアノート」
トゥーロは口元をつり上げる。
「さすがだ。僕が認めた男なだけはある」
その視線が、破壊された周囲へ向いた。
「リタの魔法を、一人で捌き切るとはな」
だが次の瞬間。
トゥーロは呆れたように溜息を吐いた。
「それにしてもリタ。頭に血が上りすぎだそ」
「うっ……」
「いくら何でも、単調すぎる」
淡々と分析する。
「相手は魔王を倒した勇者パーティの一人だぞ? 僕みたいな能力がなくても、あれだけ単調なら予測される」
リタは悔しそうに顔を歪めた。
「だ、だってトゥーロ……!」
声を荒らげる。
「前にズタボロにされて、恨んでるんだと思ってたし……!」
リタは杖を強く握りながら言葉を発した。
「絶対、仇を討ってやるって思ってたのよ!」
しかし。
トゥーロはきっぱりと言い切った。
「いや、恨んでなどいない」
「……え?」
「むしろ、好敵手の登場に喜んでいたくらいだ」
さらりと告げられた言葉に、リタが固まる。
「つまり、お前の早とちりだ」
「…………」
「おまえはすぐ頭に血が上る……。もう少し冷静になれ……」
トゥーロはリタの額を小突いた。
「いたっ……」
リタは冷静になっていく。
辺りでざわついていた魔力も鎮静化されていった。
先ほどまでの怒りが嘘のようだ。
その温度差に、ラットは逆に困惑する。
「どうしてここへ?」
ラットは警戒を解かないまま尋ねた。
「風の国からこいつを回収しに来ていたんだ」
トゥーロはリタへ視線を向ける。
「そこへ、おまえがいると聞いてな」
口元が愉快そうに歪む。
「これから大事が起きる」
そして、ゆっくり剣を抜いた。
「その前に、お前と再戦できるのが嬉しくてな」
トゥーロは笑う。
「この前の借り、返させてもらうぞ。ラット」
そう言って、剣を構える。
その時だった。
「……ラット」
ミルが再び姿を現す。
どうやらアリエスとリオンを安全な場所へ運び終えたらしい。
「リオンは?」
ラットが確認する。
「ポーション……、飲ませてきた」
「よかった……、無事なんだね」
「……ん」
ラットが安堵した瞬間。
トゥーロが楽しそうに目を細める。
「お前もいたのか」
視線はミルへ。
「なら、二人まとめてかかってこい」
その挑発に反応したのは、リタだった。
「……ミル」
リタが驚いたように呟く。
「あなた、こいつの仲間だったのね……」
落胆したような、寂しげな表情を見せる。
そして、杖を強く握り直した。
「相手が二人なら、あたしも戦うわ……」
再び周囲へ魔力が満ちていく。
しかし、先ほどまでの荒々しさはない。
静かに、重い。
張り詰めた空気____。
それぞれが武器を構える中。
ラットは静かに、カメレオンマントを羽織った____。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
アリエスよ。
アリエスの友達のリタさんと戦うことになっちゃったね。
ラット、あなた、リタに何したのよ?
リタさんというか……。
リタさんの知り合いとちょっと……。
ちょっと?
風の国にいた頃、少し戦うことになったんだ。
なによ……。
喧嘩?
……
……違うの?
かなり本気のやつです。
……何したの?
ミルが殴って、僕が燃やしました。
ミルも関わってるの!?
というか、燃やすって何よ!?
ははは……
……その人、生きてるの?
まあ、なんとか。
……あとでちゃんと教えなさいよ。
……はい。
次回は、ミルの新技登場です!!
よろしくお願いね!




