第73話 未知なる力
その日の夜、一日かけて魔導大図書館で調査を行ったラットは、宿屋の自室にてマナベルへと魔力をこめた。
「やあ、ラット!」
繋げた先、それはヒーロだ。
「ヒーロ……、そっちの状況はどう?」
いつものように状況の確認をはじめる。
状況が変わるたびに行われる恒例の流れだ。
「こっちは獣人たちに協力を得られたからね。王都の調査をしてもらってるよ」
ラットたちがブルンネンへ向かうまでの間、ヒーロは獣人の首都であるシュトルムへと到着していた。シュトルムでは、街を治める八長と会い、協力を取り付けることに成功したようだ。
ヒーロが依頼したのは、暗躍している者たちについてだ。獣人たちは少ない目撃情報を頼りに人海戦術で足取りを追っている。そして、もっとも警戒すべきなのが、ヒーロを指名手配にした王都ヴィントホーゼである。獣人たちは王都、果ては王城へと侵入し、その動向を探っているらしい。
「あと実は今、〝凪ぎの港ヴィントシュティレ〟にきてるんだよね」
ヒーロは、王都の門前で襲撃してきた暗殺者に対して違和感を抱いていた。フルーテンを出発した頃、ヒーロに相談され、ラットとリオンの助言によって足掛かりを発見するに至った。それがあると推測されるのがヴィントシュティレだ。
ヒーロはヴィントシュティレに到着して、まだ数日。本格的な調査はこれかららしい。
「ヒーロよ。誰と話しているのじゃ? わしも話したいのじゃっ!!」
奥から聞こえてくる無邪気な声。この特徴的な話し方は間違いない。彼女だ。
「トトが近くにいるんだね」
勇者パーティの一人。獣人族の少女〝トト・ハウンド〟だ。
パーティの中では最年少ながらもその実力を見込まれて仲間になった。
彼女もまたヒーロとともにヴィントシュティレへときていた。
「相手はラットかの? 久しぶりじゃの。声が聞けて嬉しいぞ!」
どうやら、通話相手がラットだと気付いたらしい。
「トト、無事だったんだね。マナベルで繋がらなかったから心配してたんだよ」
「それがの……。聞いてくれ、ラット……」
先ほどまで弾んでいたトトの声が、急にしょんぼりとしたものへ変わる。
「実はの……おじいさまに取り上げられてしまったのじゃ……」
トトがいうには、友人の一人が独自の伝手でマナベルを入手していたらしい。おしゃべり好きなトトは、勉学や修行そっちのけで、毎日のように長時間話し込んでいた。そしてある日、ついに祖父の逆鱗に触れ、マナベルを没収されてしまったそうだ。
「それは気の毒だったね……」
その理由はあまりにも年相応だった。
「トトらしいといえば、らしいんだけど。とにかく無事でよかったよ」
「そうだね」
落ち込むトトとは対照的に、その微笑ましさにラットとヒーロは思わず笑い合う。
「なんじゃ!? なんで笑っておるのじゃ!」
トトは不満そうに声を上げる。
「うぅ〜……」
膨れたような唸り声を残し、そのままどこかへ去っていった。
和やかな空気の余韻を残したまま、ヒーロが口を開く。
「ところで、ラットたちの方はどうなんだい? あれから進展はあったの?」
「大きな進展はまだないよ。でも、今日ブルンネンに到着したところなんだ」
「ブルンネンか。あそこの魔導大図書館なら、調べ物にはうってつけだよね」
ヒーロの言葉に、ラットは小さく頷く。
「……フルーテンを出た後に、イオーネのことは伝えたよね」
「ああ、騒動だけじゃなく能力や目的についてもね。目的の方はやはり想定通りだったね」
王都での指名手配から始まった一連の騒動。
その目的を〝勇者パーティの無力化〟と考えていた。
指名手配と加護への干渉によって、パーティの合流を阻止する。
その後、まずはロックが魅了され、敵対させられた。
さらに、単身シュトルムへ向かったヒーロには、人海戦術による交戦が繰り返され、精神的な消耗を狙ってきた。
水の国では、本来エレを守るはずだった護衛隊までも利用し、暗殺を仕掛けてきた。
イオーネは圧倒的に強い個に対して、魅了によってつくられた軍勢を利用して、勇者パーティを個々に、そして着実に追いつめてきた。
ここまで揃えば、敵の目的が勇者パーティなのは明らかだろう。
「目的は明らかなんだけど、わからないのはその力だね」
「魔族とはいえ、一人が持つには大きすぎる力だしね」
水の国で大きなダメージを与えたとはいえ、これからも敵対するのは間違いないだろう。エレのような強力な威力の魔法をラットたちは持っていない。だからこそ、対策が必要となる。そのために能力の把握をしようとしていた。
しかし、その能力がもっとも謎だ。
二つの街を掌握しかねないほど強力な〝魅了〟と。
肉体を自在に変化させ、質量すら大きく変貌させる〝肉体変化〟だ。
どちらも常識外れの力となる。
能力としてだけなら、旧魔王ですら優に超えていた。
ラットはまず、〝魔族特有の能力〟ではないかと考えた。
人間族の中にも剣聖や大魔導士と呼ばれるほどの力を手に入れた者が存在する。それだけではない。平民の家系であるにも関わらず、突出した才能を開花させた者もいる。
だから、それと同じように、同じ能力の中でもより強力な能力に目覚めた者や、種族……つまり血筋を超えた何らかの力に目覚める者がいても不思議ではない。そう考えた。
その可能性を念頭に、ラットはリオンと共に資料を漁り続けた。
丸一日かけて調べ上げたが……
結論から言えば、該当する存在は見つからなかった。
人間族として、どんなに腕力が強くても、ドワーフ族の腕力を超えることがないように。魔族の能力についても、種族としての限界があった。
どんなに擬態がうまくともキラープラントは植物にしかなれないし、ミミックは宝箱にしかなれない。他の魔物も自由自在に変わることなどできないのだ。
それに種族とは別の能力に目覚めたという話も存在しなかった。吸血鬼は影に入る能力を持つことはできるが、種族外のメデューサのような石化能力を持って生まれることなど、できないということだ。
振り出しに戻ったが、確かに納得するところも多い。能力が高いと言えば、やはり魔王やその幹部たちだ。だが、話を聞くに彼らは元々それだけの力を持っていたわけではない。最強と言われた前魔王や幹部でさえ、研鑽を重ね、持っていた能力をさらに鍛え上げたからこそ、あそこまでの強さを手に入れたのだ。
つまり、当初の目論見は間違っていた。このイオーネの持つ力は、魔族の力の延長線上にあるものではないのかもしれない。そう考えるようになった。
戦ったイオーネの力の特徴を再度思い返す。
「…………加護」
あの力は思い起こせば、〝加護〟に似ている部分がある。
まず魔力による状態異常を無効化していた。
この特徴は加護のそれと一致する。
加護を洗脳などによって悪用されないようにするため、魔力による状態異常を無効化する能力が備わっている。
次に護衛隊を魅了しきるほどの魔力量を保持していた。
加護にもその力を行使するために、膨大な魔力を保持することができる能力も備わっている。
他に加護の持つ特徴は……
本人が保持する能力の強化と。
さらに、加護自体に組み込まれている能力の付与だ。
魅了と肉体変化。
この二つの強力な能力は、これらと似たようなものなのかもしれない。
魅了と肉体変化のいずれかの能力をもともと保持している者が、その能力を加護によって強化され、さらに加護に組み込まれている能力を付与された。そう考えれば、二つの強力な能力を保持していても不思議ではないのかもしれない。
ただ、この加護に組み込まれている能力の中に、ラットの知る限り、魅了と肉体変化のいずれも含まれていない。
加護に組みこまれている能力は、
転移門
瞬間転移
空間圧縮・拡張
空間抹消
異空間創造
そして、異世界から適性のある者を呼び出し、
核として上記の能力のすべてを召喚者に与える
異世界転移
となる。
考え込むように呟いたラットへ、マナベル越しにヒーロの声が返ってくる。
「たしかに、かなり似ているよね。完全に無関係とも言い切れないのかもしれない。加護について、もう少し調べてみる価値はありそうな気がするね」
「そうだね。ブルンネンなら資料も多いし、その方向性でもう一度調べ直してみることにするよ」
「ああ、何かわかったらまた連絡して」
「そっちも気をつけてね」
短く言葉を交わし、通信が切れる。
静かになった部屋の中で、窓から見える魔導大図書館と視線を向けた。
まだ、手掛かりは足りない。
だからこそ、探し続けるしかない____。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
ヒーロだ。
今回は加護について詳しく語られる話だったね。
ほんとやっとだよ。
たしかに、もっと早く説明されてもよかった気はするね。
なんというか、〝加護〟って言葉だけが先に独り歩きしてた感じ。
まあ、今までは封じられていたから。
そうだね……。
ラットは使えないし。
七人目だから……
でも、今回は改めて整理する必要があったと思うんだ。
敵もなかなか正体不明だったし、僕だけ理解していても仕方ないからね。
加護って、改めて見ると一つの能力って感じじゃないよね。
うん。
どちらかというと、能力を扱うための仕組みというか……
使い手がちゃんと力を扱えるように、いろんな機能が組み込まれてる感じだよね。
そうそう。
単純に〝強い力を与える〟だけじゃないんだ。
だからこそ、俺たちもあれだけ戦えたのかもしれないね。
そうかも。
次回は、新しい方が登場します。
よろしく!




