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第61話 繋ぎの一手

「ぐっ……、あぁぁぁ…………」


 滴り落ちる血。

 それでもベルゼルは飛び、臨戦態勢を解くことはしない。


「浅かったみたいだな。やっぱ妖精族フェアリとの戦闘はやりにくいぜ」


 ククク____

 ベルゼルは笑う。


「いや、私の負けだ……。まさかこの短期間でここまで成長するとは思わなかったぞ」


「勝ちも負けもないだろ。俺は強化水を使ってるし、実力はあんたの方が上だ」


「これは試合ではない。準備を整えた者が勝ち、怠った者が敗れた。それだけの話だ。だが、降伏はしないぞ…………」


 ベルゼルはポニへと手をかざした。


「なっ!?」


「個人的に負けたとしても、これはあくまで護衛隊シルヴァンガードとお前たちの戦いだ」


 咄嗟に反応したリオンがベルゼルに詰め寄ってくるが、素早く距離を取る。


<撃ち抜け__アクアボール>


「逃げろっ!」


 ドンッ__


 弾ける水飛沫。

 衝撃で、ポニのリボンが落ちた。


「……一般人にも攻撃するのか?」


「あのラットとかいう奴と同じだ。魔法で戦闘の支援をしている以上、一般人ではないだろう?」


 ぬるい言葉だ。


「実際、覚悟の上なんじゃないのか?」


 この展開は想定できていたはずだろうに。


「私だって本来ならこんな少女を攻撃しようとは思わない。お前を倒してここから出られるなら、それでよかった」


 だが、事はベルゼルの思い通りには運ばなかった。


「お前を認めたからこそ、こちらはなりふり構っていられなくなったんだ。どんなに無様でも最後まで足掻かせてもらう」


 リオンは強敵だ。最早、手段を選んでいる余裕はない。


「どうする? 大人しくこのバリアを解除してくれるなら、それでいいんだが?」


 続く無言。


 バリアは解かれない。

 そもそもが、ベルゼルを孤立させ、倒すためのバリアだ。もともとそういう作戦だったのなら、簡単に解除しては意味がないということだろう。


 しかし、ポニを危険にさらす覚悟もなさそうな顔だ。


 葛藤の果てに、リオンは飲んだ。


 〝速力の水〟___。


 バリアは解かず、ポニを守ることに決めたらしい。欲張りにも。


 距離を強引に詰め、攻撃してくるリオン。


 キンッ____


「どうした? 速くはなったが、まるで集中できてないぞ」


 ベルゼルは再度ポニを狙う。


<撃ち抜け__アクアボール>


 無数に迫る水の玉。


 ドドドンッ__


 リオンはポニの前に立ち、弾く。

 しかし、被弾した。


「くっ!」


「リオンさん!」


「大丈夫。ここは任せてろよ。バリアを頼む」


 三度、ベルゼルは魔法を放とうと魔力を集める。

 リオンはそれを阻止しようと、無理に突っ込んできた。


「おい、勝ったからといって、舐めすぎじゃないか?」


 魔法は行使されない。

 振りだ。


 ____囮。


 カウンターで、ベルゼルはリオンを斬った。


「ぐっ」


「ギリギリで気づいて、踏み込みを弱めたか。命拾いしたな」


 まったく、勘がいい。


「諦めろ。お前の方が強かったとしても、こちらの勝ちは揺るがない。元々これだけの戦力差だ。お前たちはよくやったよ」


 リオンにトドメを刺そうとするが、鋭い眼光を見せたことでベルゼルは距離を取った。


「この期に及んでまだ……」


 リオンは立ち上がった。


「本当に死ぬ気か?」


「まだ誰も諦めてないからな。俺が一番に音を上げるわけにはいかないさ」


 剣の柄が、もう一度強く握り締められる。


 そのときだ。


「リオンさん、自分の思いのまま戦ってください!」


 ポニが叫んだ。


「自分の身は自分で守ります。ここまで必死で守ってくれたんですから、わたしだって……」


 ポニはほどけた髪をきつく縛り直す。


「わたし、こう見えて走るのは割と得意なんですよ。牧場で動物たちと一緒に走り回ってましたから」


 走る構えを取る。見間違えようなく。


「アーくん! 走るよ!!」


 精霊はポニの掛け声に同調する。

 冗談ではない。躱す気だ。


 ポニとかいうあの少女は。バリアを展開しつつ、ベルゼルのすべての魔法を走って躱す気でいるようだ。


「心配しないで! 絶対に躱しきってみせますからっ!!」



 ポニの言葉で、リオンは冷静さを取り戻しつつあった。


 再びの攻撃。だが、速度を強化した状態でも、距離を取ることに専念したベルゼルには一歩届かない。かといって、少しでも無理に距離を縮めようとすれば、カウンターを狙われる。しかし、それだけだ。ベルゼルからリオンへの攻撃の意思はない。


 攻めあぐねている隙に、ベルゼルはポニを狙う。


<穿て__エアアロー>


 ヒュヒュヒュン_____


 制限されたバリア内。


<貫け__アクアランス>


 ドドドドド_____


「それっ!」


 ポニはよく避けている。


 が、


<撃ち抜け__アクアレイ>


 ヴイィィィィィィィ____________________


「きゃっ」


 間にリオンがいるにも関わらず、ベルゼルは効果的な魔法を的確に放ち、ポニを着実に追い詰めていった。徹底してポニだけを狙う。


 ポニを倒し、このバリアを解除させれば護衛隊がくる。

 そうなれば、ベルゼルは護衛隊に合流してリオンをすぐさま倒すだろう。さらには、指揮を執り、護衛隊の本来の力をラットたちに向ける。


 ベルゼルの狙いはそれだ。

 ポニもなんとか避けてはいるが、息が乱れ始めている。

 ベルゼルも動きに慣れてきている。

 このままだと、いずれ限界がくる。


(こうなったら、まだ実戦で試してないが使うしかない。頼むからうまくいってくれよ…………!)


 リオンは鞄から取り出し、それを投げた。



 ヒュッ__ヒュルルルル_______


「投擲か?」


 ベルゼルの前で、リオンが何かを投げる素振りを見せた。

 指先を離れた瞬間、黒い軌跡だけを残して伸びる。

 その何かは次第にベルゼルへと向かった。


「速いっ!」


 回転し空気を切り裂きながら進むそれは、ベルゼルの予想とは異なる軌跡を描いた。

 ただの投擲なら山なりになるものが、無駄のない軌道で一直線に飛んでくる。

 最短距離だからこそ、感覚的に早く感じさせた。


 ヒュンッ_____


 かろうじて避けることには成功したが……。


「なんだ今のは?」


 ベルゼルは魔法を使用するため、魔力を集める。


「これか? 勇界ヴァリオンの暗殺部隊が使う〝手裏剣〟って道具らしいぜ!」


 ベルゼルの魔法の素振りに合わせ、リオンは再度手裏剣を投げる。


「一直線に飛んでくるから驚くだろ? こいつが効果的とわかったからな。もう魔法なんて使わせないぜ」


 リオンは一投ごとに、少しずつだが手裏剣の投げ方、軌道を調整していく。


勇界ヴァリオンの武器だと? そんなものどうやって……」


 どうやって知った?


 そして、手に入れたんだ___?



 ベルゼルの言葉が引き金となり、リオンはラットとの会話を思い出していた。

 あれは、遠距離での戦闘を模索していたときのことだ。

 ラットがふとそれを思い出し教えてくれたのだ。


「そういえば、ニホンには、忍者っていう潜入調査や暗殺に特化した部隊がいるみたいなんだ」


 曰く、その部隊は、短い剣や〝手裏剣〟と呼ばれる投げる武器。それ以外にもたくさんの武器を使い分けて、臨機応変に戦闘をこなしていたらしい。


「リオンも色んな武器を使えるし、なんか似たところがあるでしょ。それに倣ってみたらどうかな?」


「倣うって?」


「例えば、リオンも投げることに特化した武器を使用するとか。投げるだけなら、弓みたいに持ち換えたりしないから、距離を取った相手にもすぐに対応できるでしょ」


「それだったらナイフでもよくないか?」


ナイフならば、切ることもできる。わざわざ特化した武器を使用する必要はない。


「特化させてるのは、それなりに理由があると思うよ」


「なんだよ、その理由って?」


「ははは、実は僕もそれは聞いていなくって。ただ、勇者ヴァリオンで組み合わせている実績もあるから」


「……確かにな」


 使えるかどうかはともかく、それ以前にその手裏剣という武器が純粋に気になった。


「とりあえず、造ってみるか」


「さすがリオン! わかってるね」


 ものは試しとラットに形状などを訊きつつ、造ってみた。

 使用してみると、手裏剣はナイフを投げるのとは違う感覚だった。


「これいいな! 投げやすいっ!!」


 いや、そもそも〝投げる〟という感じではない。

 振りかぶるのではなく、手首を利用し、そっと〝滑らす〟ような……そんな感覚だ。

 投げるよりも動きが少なくて済む。


 うまく使えば、魔法を行使する魔法剣士よりも素早く攻撃に転じることができる気がする。

 中心に穴が空いているから、重量も然程ない。

 実際に使ってみて、理解した。

 これこそが、特化させた理由だ。


 こうして、自分のスタイルに合わせ、取り入れることにしたのだ。


 勇界ヴァリオンの武器を____。



 ベルゼルは手裏剣をレイピアで弾きながら、何度も詠唱を試みる。

 距離を取って魔法を行使しようとするが、間に合わない。

 すでに、ポニへ攻撃する余力がなくなっていた。


 だったらこれならどうだ。


<吹き飛ばせ__ブレイズ>


 初級魔法よりも速く行使できる魔法。

 〝ブレイズ〟は魔法の訓練にも利用される基本的な魔法だ。

 そよ風を吹かせる程度から、熟練になれば霧を吹き飛ばすこともできるようになる。


 ベルゼルは妖精族だ。

 魔力量も多く、手裏剣が到達するギリギリまで魔力を溜めて行使すれば、投擲程度なら吹き飛ばせる。

 そう考えた。


 しかし回転するそれは、予想に反して風を切り裂き、尚もベルゼルへと向かってきた。


「吹き飛ばせない!? くそっ」


 避けようとするが。


「一つじゃない」


 黒い奇跡は三つ続いていた。


「くっ!」


 ヒュヒュギンッ_____


 ベルゼルは何とか躱し、受け切った。

 硬直する隙に、リオンが距離を詰める。


(まずいっ!)


 ベルゼルは手を掲げ、レイピアで反撃を試みる。

 手を振り降ろそうとした、その瞬間。


「ここだっ!」


 その思考の隙間に滑り込む刃___。


<閃__>


 ベルゼルは手を振り降ろす。

 しかし、すでにリオンはいなかった。


 一呼吸、速く踏み込んだ。


 攻撃の起こりを掴まれた。


 リオンは、ベルゼルを斬っていた。



 意識が途切れ、支えを失った体が崩れ落ちる____。



※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。



ラットです。


ポニです。


ポニさん、今日は素晴らしい奮闘ぶりでしたね。


ありがとうございます!

でも、わたしは走っていただけなんですよね……


いえ。

自分にできることをやるのは、とても大事なことですよ。

僕だってそうです。


ラットさんも?


はい!

言ってしまえば、アイテムでみんなを手助けしているだけですからね。

ポニさんは、バリアを張って攻撃をかわし続けた。

そのおかげでベルゼルさんは孤立して、みんなは動きやすくなりました。


そう言われると、嬉しいです。


戦いって、一人で勝つものじゃないんです。

一人ひとりが役割を果たして、

それが繋がっていって……

最終的に、パーティの勝利になるんですよ。


なるほど……


わたしも、ちゃんと役に立てていたんですね。


はい!

十分すぎるくらいに。


ありがとうございます!


次回は、僕が増えますよ!


えっ!?


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