第55話 相対する精霊の神子
撃ち落とされた無数の矢。森の中、その残骸が木の葉のように舞っていた。男は木の影から、赤い髪を揺らしながら、ゆっくりと現れる。
勇者パーティの一人〝ロック〟だ。
「危なかったな、お嬢さんっ!」
足がふらつく。ロックは木に寄りかかり、精一杯の虚勢を張った。
「戦場での焦りは命取りだぜ。アイテムを使用するときの隙も大きいな」
対人戦に慣れていないのか?
目を見張るものは確かにある。
だが、ところどころに素人っぽさが見え隠れもしている。
もっとも、ロックを追い詰めた時の動きは冷静そのものだった。
あまり感情で動くタイプには見えない。
……なのに、今回は妙に余裕がなかった。
「焦って……ない……」
強がりを言う性格にも見えない。
だとすれば、なぜ……?
ラットなら切り抜けられると判断し、森人族たちの相手へ向かわせたはずだ。
つまり、ラットはこの子の実力を見誤った?
「ただ……危険なときは、自分だけ残るって…………」
ロックは察した。
……ハハ…………
……ああ、そういうことか。
「安心させるために言ったんだろうけどよ。ラットは、乙女心ってやつをわかってないな」
呆れたように笑う。
「まっ、その辺はまだまだ未熟ってことか」
ロックは含み笑いをしながらミルを見る。
「……?」
「それにしても驚いたよ。まさかあの護衛隊を相手どって、生き残っただけじゃなく、三分の一まで削り倒すとはね!」
それだけではない。
やはりラットの予想では倒しきれると踏んでいたと思う。
ただ、一つだけ想定できていなかったことがあったのだろう。
「まっ、状況は理解したぜ。とりあえず、嬢ちゃんはラットたちの元に戻ってやりな。ここは俺が片づけておくからよ。正直なところラットたちの方が危険だから、力を貸してやってくれ」
「一人でできるの……?」
「心配してくれるのかい? でも、不要さ! この距離は俺の距離だぜ、嬢ちゃん」
相手は無数の弓使い。こちらは魔銃。さしずめ射撃対決だが、同じ遠距離を得意とするもの同士、ここは負けられない。
「怪我……。負けたらラット困る……」
「お、おぉ、そっちの心配か……。まぁいい。お嬢さんがだいぶ減らしてくれたからな。五分五分さ」
(正直、結構きついけどな……)
手は震え、身体はふらつく。目は霞み、視界がぼやける。
とはいえ……。
とんでもない借りをつくっちまったからな。
ここで少しでも返しておかないと返しきれない。
任されてやるよ、ラット!!
「安心しな、嬢ちゃん。こう見えて何度も死線は乗り越えている。しっかりと任されてやるよ。ラットの仲間としてな」
「…………仲間なら……信じる」
ミルは飛び立った。
入れ替わりでエルフたちが近くの枝まで飛び移ってくる。
「逃がしたか……。正直、これだけやられて逃げられたら、面子に関わるんだが……。しょうがない…………」
目線をロックに送る。
「目の前にこんな大物がいる。これで帳尻を合わせることにする」
弓を構えるエルフたち。
「なかなかやるだろう? あの嬢ちゃん。俺も一杯食わされた口さ」
「ロック・スネイク……。大人しく病室にいればよかったものを」
「おまえたちとはどっちが上か、白黒つけたかったからな。せっかくの機会だ。勝たせてもらうぜ」
「それだけの怪我でなにを言う……」
「お互い様だな。人数をかなり減らされて、得意の物量も半減だ」
ロックも魔銃を構えた。
「放てっ!!」
合図と共に放たれる。
迫り来る無数の矢を、満身創痍のロックが迎え撃つ。
視界はボヤけ、身体は重い。満身創痍は否めないが、まだまだぬるいかな……。
こんなもんじゃなかったぜ。
四天王……。そして、魔王はなっ!!!
*
その頃、ラットとリオンの戦場では、接近戦の応酬が展開されていた。迫りくる六つの祭具を二人で捌く。
リオンは、ラットとの会話を思い出していた。
エレとの接近戦で厄介なのは、六つの祭具による手数の多さと、その多彩さだね。
大剣が火。
三又の矛が水。
槌が地。
サーベルが風。
レイピアが光。
そして、三日月刀が闇。
それぞれの武器に精霊が宿っていて、互いに連携し合って襲ってくる。
リオンなら怖さがわかるよね。
ああ、それぞれの武器で対応の仕方が違うってんだろ?
それにしても、三日月刀って……。
とんだ掘り出し物だぞ。
まあ、祭具は昔から伝わる伝統的な武器だからね。
そういうものもあるよ。
造ったことがあるくらいで、騎士団でも使うやつなんていなかったからな。
戦ったことなんてないぞ。
造ったことはあるんだね。
ラットの言う通りだ。
手数の多さだけではない。
武器ごとに対応の仕方が違うことは理解していたが、
実際にやるとなると難儀だ。
常に正解を求められる。
軽い武器と重い武器の速度の違いは防御のタイミングをずらされる。
大剣や槌はまともに受けたら武器ごと持っていかれるし、
矛は受けるのが難しい。
攻撃の軌道が違うレイピアもだ。
それぞれの武器の違いを意識していなかったら、簡単にやられるところだった。
だが__。
妖精族が使用する水流螺旋流は手にもたない分、速度や可動域に優れてる。
その代わり、力を込めることが難しいんだ。
つまり、力はこちらに分があるよ。
力主体で攻めていこう。
気をつけなければならないのは、やはり大剣と槌。
元々魔力のないリオンでは、強化薬をつかっても受けきれない。
だが、それ以外は力で十分に対処できる。
まとめて弾くことができるからだ。
ギン__ギギギンッ___ヒュッ__ドッ_____
リオンは無数に迫る武器を弾きながらエレに迫ろうとする。
ラットも空気銃を使用して援護した。
エレの手に合わせ、祭具が飛び交う。
エレは自身の目の前までリオンを誘い込み、
その背後、死角に祭具を回り込ませて攻撃した。
エレの視線の動きで察知したリオンは、咄嗟に後方へ跳び退き、躱す。
ドッ__ドッ__ドッ____
追撃をかけるエレの攻撃を、ステップを踏みつつ避けていく。
しかし、エレの元には三俣の矛が残されていた。
距離を取らされたことで、魔法を放つ隙を与えてしまったのだ。
三又の矛へ、魔力が収束していく。
淡い輝きが、徐々に強さを増した。
<切り払え__アクアソード>
ザアアァァァ____
使用された初級魔法により水が集まり、形を成す。
しかし、それは初級魔法とは言い難いほどの剣だった。
「おいおいおい、なんだあれ……」
その圧倒的な大きさに、リオンは呑み込まれる。
柄を握る力が、思わず抜けてしまうくらい。
「放って!!!」
エレが精霊に合図を出す。
次の瞬間、水の大剣はリオンに向かい放たれた。
「いけないっ!」
ラットの叫び。
我に返って剣を握り直す。
バシュ__
ダメージを覚悟したリオンの背後で、射出音が響いた。
ペタッ__
背中に、何かが張り付いた。
冷酷な刃は既に目の前に迫り来る。
「おわっ!!」
直後、思い切り引っ張られた。
ドッオオオオオオォォォォォォォォォォン___
流れる視界の隅で、爆散する水飛沫。
ワイヤーガンにより辛うじて軌道の外に出たリオンは、尻もちをつきながら、あまりの威力に呆気にとられた。
「まじかよ……」
見慣れた初級魔法のはずだった。しかし、発生した水の剣の規模は中級魔法のそれを超え、その威力は地面を抉り、激しい爪痕を残していた。
もし、ラットに助けられていなかったら……。
ダメージどころではない。影も形も残らなかっただろう自分を想像し、震え上がる。
パラパラ___
衝撃で上空に舞った水滴は雨となり、森に降り注ぐ。
__精霊魔法の威力は初級でも危険だよ。
従来のそれとは、同じものと思わないでね。
再度、頭を過るラットの言葉……。
「こういうことだったのか………」
ロックもそうだけど……
勇者パーティは、どいつもこいつも弱点がないのか?
汗に塗れる手で、リオンは再び剣を強く握りしめる___
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
ミル……
森人族と戦ってみて、どうだった?
……強かった。
でも、十分に戦えてたんじゃない?
……ん。
ミルはロックとの戦闘でも、しっかり立ち回れていたからね。
ソルミナを使って、冷静に対処できれば勝てると思ってたよ。
……
どうしたの?
……危なかった。
え!?
大丈夫だった?
……助けられた。
誰に?
ロック……
そう……
ごめんね。
危ない目にあわせちゃって。
……ううん。
……ちょっと、油断した。
(油断? ミルがそんなこと言うの珍しいな……)
じーーーーー……
ミル?
ラット……一人だけ残るの、ダメ……
……ごめんね。
次からは気をつけるよ。
……ん。
次回は、エレとの決着!!
よろしく……。




