第40話 俺の推し
武器倉庫でも契約できなくはないが、ポニにとって初めての契約なのに趣きがないという事で、エレに促され、しっかりとした儀式として執り行う事になった。身を清め、儀式用の衣装に着替え、箒も綺麗にした状態にするらしい。
せっかくだからと、ポニだけでなく、お付きという名目で、エレはミルまで連れていった。残されたラットとリオンは儀式を執り行う場所の隣にある待合室へと通され、暇を持て余していた。
「そういえばさ、ラット。妖精族って大人と子供で随分と大きさに差があるんだな。子供の頃は虫くらい小さいのに、大人になると俺たちとそう大差なかったから驚いたぜ。それに子供はぼんやりと光ってたし」
リオンが疑問に思うのも最もだ。エレを含めて、大人の妖精族たちは、人間族でいうと平均的な大きさから一回り小さい程度、小柄な大人くらいの印象だ。それに対して、子供は虫と大差ない。ぼんやりと光っているからこそ、なんとか目視できるというものだ。
「あー、リオンは知らなかったんだね」
妖精族は風の国ではほとんど活動しない。港町へ貿易のために来る程度だ。王都から出たことのないリオンが知らないのも無理はない。
「ここに来る前は、リオンの中で妖精族ってどんな印象だった?」
リオンは思いだそうと、目を閉じて斜め上を見上げる。
「掌よりもちょっと大きいくらいのイメージだった……かな。確か絵本とかでは、それくらいの大きさで描かれてたんだよ」
「そのイメージであってるよ。妖精族の大人たちの大きさは、実際そのくらいだよ」
「だけど……」
リオンの疑問に拍車をかけてしまったようだ。表情がそれを物語っている。実際にリオンが見たのは自分と大差ない大きさの妖精族だ。ラットのいうように、掌サイズでは決してない。
「この街にいる大人の妖精たちは、〝ヴェイルスキン〟っていう魔力操作で、僕たちと同じサイズ感になっているんだよ」
__ヴェイルスキン。
魔力によって形造った本来の大きさの何倍もある自分の姿を纏う事で、
自身を大きく見せる技術だ。
つまりは、自分の着ぐるみを着ているようなイメージになる。
形造る際に魔力の濃度を濃くすることで、
通常の肉体のように見え、触れたりもできる。
魔力で形造ったものは通常だと魔力が少しずつ霧散するため、
発光しているように見える。
しかし、妖精族は魔力操作が長けていることもあり、
魔力がほとんど霧散しないため、
元からそれくらいの大きさなのだと思ってしまう人も多い。
「そういうことなのか……。でも、なんでそんな事をしてるんだ?」
「森人族たちと共存するためだね。この街っていろんなものが森人族の大きさに合わせて作られているから、ここで生活するとなるとかなり不便らしいんだよ」
リオンは目を閉じて、自分が妖精族になったときのイメージを膨らませているようだ。
「確かに……。窓を開けたりするのも、その都度飛ばなきゃならないし、結構面倒かも………」
「でしょ。だけど子供のときはまだこのヴェイルスキンがうまく使えないから、元のままなんだよ。それに魔力操作も未熟で、魔力が漏れているから、少し発光しているように見えるんだ」
「それにしてもすごい技術だな。これなら戦闘でも楽そうだ」
自分の体を大きくできるなら、巨大化した自分で戦ったらいい。そうすれば倒すのも簡単そうだ。そう考えたのだろうが……。
「それはできないよ。エレとかの動きを見て、何か感じなかった?」
「動き? ……そういえば、やたら軽快だなって。ふわふわしたところを歩いているような感じだったな」
「そう。魔力だから重さがほとんどないんだよ。風船みたいなもので、大きな衝撃で簡単に壊れちゃうんだ。あくまで生活を便利にするための工夫だね」
どんなに大きくても魔力自体に重さや硬さがある訳ではない。どんなに膨らませた風船で殴られても大して痛くないのと一緒だ。戦闘ではほとんど意味を為さない。
それにヴェイルスキンを大きくすればするほど、魔力の消費も激しくなる。いくら潜在の魔力量が多い妖精族でもそんな使い方をしたらすぐに空になってしまうだろう。
「そっか。思ったよりも現実的なんだな。もし戦闘で使えたら面白そうなのに……」
そう呟きながら、自分の剣を見る。そして、気づく__。
「あれ? そういえば、あの武器倉庫。妖精族の大きさの剣ってあったか?」
ヴェイルスキンは戦闘で使えない。となると、戦闘時は元の大きさということになる。ならば、妖精族が扱うための剣があるはずだ。しかし……。
「武器は大きさを変えてないんだよ」
「……そりゃ……そうか。妖精族の大きさに武器を合わせたら、魔物を倒せないもんな……。そうなると、妖精たちは自分の大きさの何倍もある武器を使用しているってことか………」
一流の鍛治師を目指しているだけはある。武器への理解が早い。
「つまり……、魔力で武器を扱う感じか?」
「正解! あってるよ」
魔力で武器を大きくしても重さや強度がない以上、意味がない。つまり、実物を使用するしかないのだ。かといって、ヴェイルスキンを使用した状態で武器を持ったとしても、振るうだけならまだしも、力を込められない以上は威力がでないだろう。そもそも攻撃をした衝撃に耐えられない。
そうなると、導き出される答えとしては、〝魔力で操作する〟となるわけだ。魔力操作に長けている妖精族なら、その方法は相性がよさそうだ。
「あー、でもこれって力入るのかな? ヴェイルスキンと同じで間に魔力があるだけだから、力入らないような……」
リオンは自分が妖精族になったつもりで、剣を扱うイメージを膨らませている。試行錯誤しながら、しばらく動いたあとである答えにたどり着く。
「もしかして、振り回した勢いで攻撃するとか?」
「すごい! またまた正解だよ」
正解したことで、リオンは満面の笑みを浮かべている。
「〝水流螺旋流〟__流れ、遠心力、そして勢いを利用して剣を振るう妖精族が扱う流派だよ。まさに水の国の名に相応しい流派だよね」
「妖精族くらい体が小さいなら防御よりも回避の方がいいだろうし……。魔法が得意なんだろ? 防御するなら武器で受けるより、そっちの方が合ってそうだよな」
まさにその通りだ。武器を扱う者の身になって考える。リオンはよく口にするが、それを実行して、正確にイメージできているのが圧巻だ。
会話をしながらも、剣を振ったり、魔力で操作する動きをしたり、イメージを膨らませるのに余念がない。
「いやー、ほんと旅に出てよかったぜ。種族が違えば、こうも戦い方って変わるもんなんだな。本を読んだだけじゃ絶対にわからなかったぜ」
リオンの気持ちはよくわかる。ラット自身、勇者パーティでの冒険は発見の連続だった。様々な種族、知らない土地、全く異なる文化。冒険を通して、それらと出会ってきた。
「リオン、すごいのは流派だけじゃないよ」
感心するリオンに、さらに追い討ちをかける。
「妖精族の剣技に、森人族の弓術。これらによる手数は世界一。加えて、全員が高威力の魔法を使用することもできる。ダメ押しで、エレが使用する世界で最高威力の全属性の精霊魔法。ここの護衛隊。その名も〝森の番人__シルヴァン・ガード〟は水の国で最強なんだよ」
ゴクリ__
〝水の国で最強〟という称号の凄さにリオンは唾を飲んだ。
「まじかよ……。つまりは風の国でいうところの〝嵐の剣__テンペスト・ソード〟や〝嵐の盾__ストーム・イージス〟と同じってことだよな」
世界でも指折りの集団が近くにいる。それだけでも胸が熱くなるだろう。ましてや、リオンの両親は元騎士団の団長だ。彼の興奮は冷めやらない。
「確かに凄そうだけど、俺は風の国出身だし、風の国の騎士団を推したいな!」
ラットはオタクトークが始まる気配を感じた。
「護衛隊は基本的に魔力ありきの戦い方ってことだろ。つまりはそれがなくなれば戦えなくなるってことだ。対して騎士団は魔法が使えるだけじゃない。物理での攻撃や防御を卒なくこなすんだよ。バランスがよくて弱点がないんだ。これが!」
その主張に対して、ラットが対案を提示した。
「ふふふ__。他の種族には真似できない圧倒的な手数と高威力の魔法。突出したこれらの強みは決して侮れないよ」
他の種族には真似できない手数。それこそ妖精族の小ささあってのものだ。魔物など一つの対象に対して同時に攻撃するには限度がある。小さいがゆえに、他の種族と比べるとその限度が何倍もあるため、数の暴力を押し付けることが可能となる。さらに、エルフの弓とも相性がよく、射線を通したままに妖精たちは攻撃することができる。
以前戦ったフレアベアに対して、騎士たちと同等の実力と言われるA級冒険者たちは敗北した。しかし、同数だったとしても護衛隊ならば敵にすらならないだろう。
「なんだよ。ラットは護衛隊推しか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど、仲間を応援したい気持ちがあったからつい……」
二人は笑い合った。
「それにしても、ラットがそこまで言うんだったら、戦っているところを拝んでみたいぜ」
「それだったら、ポニさんが精霊魔法を練習している間はここに留まることになるから、見る機会はあるかもね」
「おっ、それは楽しみだ」
二人の笑い声は部屋中に響き渡り、会話は続いた。
時がたつ。
しばらくすると__。
「__なんか楽しそうですね♪」
準備を終えたポニが、扉からひょっこりと顔を覗かせた。
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
リオンだ!
今日は、水の国の文化についていろいろ話したね。
そうだな。
〝ヴェイルスキン〟なんて魔力操作、初めて聞いたぜ。
使ってない妖精族も多いからね。
そうなのか?
たとえば、クエリスっていう妖精族だけの村があるんだ。
そこは建物も道具も、全部妖精族のサイズで作られてるから、そもそも使う必要がないんだよ。
へぇ……そんな村があるんだな。
それに、フルーテンでは一般的だけど、
出身が違うと、小さい頃から大きいサイズの道具に慣れて、そのままって人も多いんだ。
なるほどな。
文化の違いって感じだな。
あと、剣の流派についての話も面白かったぜ。
あれも、妖精たちが長い時間をかけて研鑽してきた技術だからね。
かなり洗練されてると思うよ。
長寿種って、そういう積み重ねがすごいよなぁ。
うん。
これからも、いろんな土地に行くと思うし楽しみだね。
ああ、旅って感じしてきたな!
次回は、僕たち二人に危機が訪れます……。
まじかよ……。




