第34話 森を覆う巨大な蛇
森中を覆う圧倒的な威圧感に、ラットを含めた全員が動きを止める。
『なんだ!? この威圧感は!!』
おそらく、全員が一様にそう考えた。
そして、気配に気づき、同じ方向に目を向ける。
「いったいどこから!?」
そこにいたのは、森を覆うような巨大な蛇だった。これほどの魔物が森にいたら気づかない訳がない……。
そんな考えとは裏腹に、確かに、確実に、
その蛇はいた。
全員が硬直する中で、ロックが動いた。同時に、ラットも駆ける。
ロックはもちろん、ラットも数々の強敵と対峙し、死戦を潜り抜けた勇者パーティの一人。歴戦の経験が、足を強張らせず、躍動させた。
「みんな逃げて!!」
走りながらラットは叫んだ。ロックは影へと潜り、ラットは聞こえた声の元に疾走する。
「なっ!?」
声はロックのものだった。
影に隠れたはずのロックだったが、影はただの影に戻り、いつの間にか外に出されていた。光もないのに……。
『吸血鬼か……。その程度の力じゃ、私の前では無意味だな…………』
響いた声にロックが瞠目したのは一瞬。すぐに森の外へ向かうロックだったが、
「おいおい、何の冗談……!」
蛇はいつの間にか回り込んでおり、彼を呑み込んだ。
既に逃走を始めていたミルとリオン。二人もまた、同様に回り込まれる。
(この動きは、まさか……)
〝空間転移〟
「ちょ、待て待てまっ……!」
最初に呑み込まれたのは、リオンだった。
「ミル、上へ!」
蛇は飛んでいる訳ではない。
上空なら。ミルだけでも。そう思い、叫んだ。
「……!!」
しかし、飛んだミルも呑み込まれる。
「二人とも……」
あまりの光景に崩れ落ちそうになるが、走った。せめて、さっきの声の主だけでも。そう思いながら。
茂みの先。
そこにいたのは……
「ポニ……さん……!?」
次の瞬間、目の前が暗くなる。
蛇に呑み込まれた______。
*
まさか、こんな唐突に死ぬとは思わなかったな__。
落ちる思考を繋ぎ止めたのは、微かな違和感。
なんだ?
なんか、顔が、くすぐったい__
グサッ__
「いたっ!?」
飛び起きた。
目の前にいたのは……
「チリリ……?」
ぴぃ、と返事をするかのごとくチリリが鳴く。どうやら、チリリが嘴でつついたようだ。
なかなか起きないのに苛立って思い切りつついたのか、割と痛い。
いや、それよりも……
「ここはどこだろう?」
森の中であることは間違いない。
だが、別の場所であることを確信させる。
群生している植物が先ほどと比べて一変しているし、木の背が揃って高い。肌に感じる温度や湿度にも差異がある。魔素も別物だ。ラットは魔素に敏感な訳ではないが、それでもわかる。温度や湿度を含め、空気が明らかに違うのだ。
変わり果てた空気を、大きく吸い込む。
鼻が反応した__。
鞄からアイテムを取り出し、口にする。
ラットはしばらく歩き、木々が密集する森の中でも少しだけ開けた場所に出た。
魔導釣竿を構え、叫ぶ。
「ロック、出てきたらどう!?」
強烈な臭いの主へ。
「安心して! 今度こそ、僕一人だよ!」
すると、現れる。
「〝覚力の水〟で嗅覚を強化して追ってきたのか。隠れても無駄……か」
ロックが、目の前に。
「一度撤退して、この臭いをどうにかしておきたかったんだがな……。参っちゃうよ。ここはどこだ?」
「僕もさっき目が覚めたばかりだから、わからないよ」
そう素直に言えば、〝ロックはまあいい〟と肩をすくめた。
「それにしても……酷いじゃないか。こんな悪臭と虫を纏わりつかせるなんて。俺の美学とは真逆だよ〜。女の子が近寄らなくなったらどうしてくれるんだ?」
心底、嫌そうに呟く。
「ミルに追いかけられていたでしょ?」
「何度も殴られたけどね!」
思わず、笑いそうになった。
こういうやりとりをすると、共に旅をしていたときのことを思い出す。
魅了さえなければ、本当にロックのままだ。
だが、懐かしい空気を消すように、ロックが表情を変える。
「ラット、なぜ追ってきた? 一人では戦えないお前が。まさか俺に勝つ気じゃないだろうな」
ラットもまた、切り替える。
「危険は承知の上だよ。だけどそれ以上にロックに逃げられたくないからだ」
ロックと再会するまでの間に、マナベルでミルとリオンの安否は確認した。しかし、二人とも自分がどこにいるのか、わからないようだった。
同じ場所にいるとは限らない。
合流のために大声で叫んだり、合図となるものを打ち上げたりした場合、ロックは警戒し、全力で逃げに徹するだろう。そうなれば、逃げ切られてしまうかもしれない。一度逃げ切られてしまったら。次に会ったときは、当然マーキングもなくなっている。また振り出しに戻ってしまう。
今回も含めて二度、ロックを追い詰めている。だが、三度目は? そう何度も勝ち越せるほど、ロックは甘くない。次は誰かが大怪我をするかもしれない。常に奇襲されることを想定する必要もある。
それに、ロックの標的はラットだ。ラットは仲間と一緒だからこそ、その真価を発揮できる。その標的が仲間も連れずに、一人で目の前に現れたとしたら。万全の状態ではなかったとしても、戦う価値は十分ある。つまりは格好の標的という訳だ。
……僕はロックを助けたい
今のロックはそうして欲しいと望んでいないかもしれないけど。見ていられない。早く解放してあげたい。
今は伝わらないかもしれないけど……
『僕がキミを支えます』
……これは、絶対に助けてみせるという、僕の覚悟の言葉だ。
「俺を支える? 何を言っているんだ?」
ラットは鞄から魔導機械を取り出す。
「ロック、僕を甘く見過ぎじゃないかな。僕だって勇者パーティの一人だよ。キミは狙撃手だ。近接での戦闘の上に、怪我、魔力も底を尽きかけている」
「舐めているのはそっちさ。その程度のハンデで俺がおまえに負けると思っているのか?」
ラットは魔導機械を起動する。
「だったら白黒つけようよ。ロック、負けないよ!!」
「あぁ、望むところさ!!!」
起動した魔導機械〝ソルミナ〟は、上空に飛び上がる。
ふわ____
そして、いくつもの強い光を放った________
※このあとがきはキャラ同士の雑談コーナーです。本編には関係ありませんので、気軽に読み飛ばしていただいて大丈夫です。
ラットです。
リオンだ!
急に現れた蛇には、びっくりしたね。
いや、ほんとだよ。
なんなんだ、あれ?
魔物なのか?
僕も初めて見たよ。
だけど、おそらく魔物じゃない気がするんだ。
なんでだ?
なんというか……。
強い魔物特有の威圧感とは、少し違ったんだよね。
たとえば、魔獣兵器みたいな感じ。
ああ、なるほどな。
あれもデカかったけど、「強い魔物」って感じだった。
でも、あの蛇は違ったよな。
なんていうか……底知れない感じ?
リオンは、精霊に会ったことある?
あるぜ。
下級精霊だけどな。
騎士団に、使役してる騎士がいた。
その精霊に、少し近いとは思わなかった?
圧の大きさは全然違うんだけど。
……ああ、確かに。
あれを、とんでもなく大きくしたら、あの蛇みたいになるかも。
ってことは……
そうかもしれないね。
次回は、僕とロックの一対一です!
よろしくな。




