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レディアース博物誌 -異世界博物館準備室-  作者: 広瀬凉太
第二章 学び舎の友

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第30話 弟子入り志願

「レオ!」

 悲痛な叫びと共に、ステラが医務室に飛び込んで来た。


「お? 何だ? そんなに血相変えて」

 ベッドに腰掛けたレオは、ケガをまったく感じさせない様子で、呑気にそれを出迎える。


「レ、レオがケガしたって聞いたから、急いで来たのに!」

「話を聞いて真っ先にステラのところに行ったけど、先走り過ぎたかも」

 それを見てジュリアも、目を逸らしつつ指で頬を掻く。


「ショックで気絶しただけのようじゃな。すぐに助け出されたおかげで、水も飲んどらん。失った体力もじきに回復するじゃろう」

 呼び出されて医務室に来ていたローレンス教授は、そう言うとため息をひとつついた。


 安堵の声を漏らすステラが落ち着くのを待って、教授は再び口を開く。

「それにしても、電魚竜ケラブニクチスとはのう。この前の時もそうじゃったが、また妙なものを釣ったもんじゃな。レオに護衛でも付けて釣りをさせておけば、珍しい標本が手に入るかも知れん」

「それじゃまるで、俺が餌みたいじゃねえか!」

 教授の言葉に一瞬憤慨したレオだったが、すぐに真顔に戻る。


「で……あれ、教授のところで買い取ってくれねえか?」

「うむ。あれはいい標本がなかったからな。うちで買い取ろう。金額は――」

 教授の提示した金額に、レオだけでなくステラも驚く。

「すげえな。これで半月、いやうまくやりゃあ一月は遊んで暮らせるぞ」

「ちょっ、遊んでどうするのよ! ちゃんと孤児院にも……」

「いや、ものの例えだって。タリア先生にも連絡するぞ」


 そんな二人の様子を微笑ましげに見守っていた教授だが、やがて機を見計らいステラに声を掛ける。

「さて、話も尽きんじゃろうが、今日のところはレオを休ませてやった方がよさそうなのでな」

「あ、ごめんね、レオ」

「いや、気にすんなよ。俺ももう、すっかり元気に……」

「それは素人が勝手に判断することではないぞ。レオ、お主はゆっくり休んでおれ。ステラ嬢とジュリアはわしが女子寮まで送って行こう」

「はい。ありがとうございます。レオ、じゃ、また明日ね」

「それじゃ、お大事に」

「おう、またな」


    ◇


 そして、レオに別れを告げ、医務室を出て女子寮へと向かう途中。

 ステラは意を決したかのように、少し前を歩く教授に声を掛ける。


「ローレンス教授……例の件、よろしくお願いします」

「うむ、了解した」


    ◆


 そして翌日。ステラは授業終了後に国立博物館準備室にやってきて、ローレンス教授の話を聞いていた。

 なお、毎日のように教授のところに本を読みに来ていたレオは、今日は大事を取って男子寮で休んでいる。


「釣り士の資格といっても、もちろん釣り自体には特に資格などいらんよ。本来は食糧確保の手段か、さもなくば趣味の一つじゃからのう。資格が要るのは、釣った獲物の売買に関してじゃ」

 先日、レオと共に釣り士の資格を取る気はないかと言われたものの、その時は簡単な話を聞いただけで終わっていた。


「簡単に言えば、魚屋から魚を買うのは誰でもできるが、魚を売るのには資格が必要という事になるな。魚屋とて、一見いちげんの客から商品を仕入れるわけにもいくまい。そこには、品質の保証が必要じゃ」

「確かに……」

「それから、漁師のように大量の魚を捕獲することは少ないが、特殊な魚を狙うことがある」

「特殊、と言いますと?」

「例えばな……時々、貴族や料理店から珍しい魚の捕獲依頼が来ることがあるんじゃ。そのような漁師が動けないような仕事を引き受け、魚を手に入れるための旅に出る」

「旅、ですか……?」

「うむ。釣り師とは、釣りの腕だけでなく、魚の知識、獲物を正しく処理する技能の他にも、一般的には傭兵や冒険者などと呼ばれる職業と共通する能力も要求される」

 ステラは何も言わなかったが、その瞳には不安げな色が浮かぶ。


「釣り士というのは、漁師と異なり、職業ではなく資格にすぎん。趣味や冒険のついでの副業くらいに考えておるものも少なくないようじゃ。実際、幅広い知識と技術を要する割には、仕事自体はそれほど多くないからのう」

「それは、一人ではなく複数人で助け合ったりすることも可能でしょうか」

「ふむ……」

 その問いに、ステラの目をじっと見つめた後、おもむろに教授はつぶやく。


「要するに、レオと二人でなら何とかなるかも、と言うんじゃな」

「え……っ」

 予想外……というより自覚はあったがこうもはっきり指摘されるとは思わなかった事実に、ステラは頬を真っ赤に染めて硬直する。

 それでも、誤魔化しては自身のためにもならないと悟ったか、まだ火照りの残る顔で真剣にうなずいた。


「残念じゃがのう。この手の資格というものは個人で取得するものじゃ。助け合いは大切じゃが、必ず一緒におるとも限らんでな」

 目に見えて落ち込むステラをなぐさめるように、続けて教授は優しく声をかける。

「うちの学院で三年学べば、最低限一人でやっていける程度の力は身に付く。焦らず鍛練に励むのがよかろうて」


 だが、ステラがそれにうなずく前に、もう一人の少女の声が割って入った。

「知識についてならば、近道はある」

 声の主は、教授の部屋でそれまで黙って本をあさっていたジュリアだ。


「む……」

 その言葉に心当たりがあったのか、珍しく教授が苦々しい表情になる。


「近道といっても、誰にでも通れるものではないし、簡単に通していいものでもないぞ」

「ちなみに、私は通れなかった。たぶんレオも通れない」

 手にしていた本をぱたんと閉じたジュリアは、教授の方には目もくれずステラを相手に話し続ける。


「私なら、通れると……?」

「その可能性は高いじゃろうな。実際やってみないとわからんが」

 ジュリアは無言でうなずき、教授もそれを肯定するかのように答えた。


 一瞬、うつむいて思案するようなしぐさを見せたステラだが、すぐに顔を上げる。

「お願いします。その方法を教えて下さい!」

「返事が早いのう……」

 ステラの勢いに気圧けおされるかのように、教授はわずかのその身を引く。


「ならば、わしの研究室に入ってもらおうかの」

「ええっ!?」

「ふむ。急いで返事をしすぎて、やはり後悔しとるのか」

「いえ……決してそう言うわけでは。ただ、どうして研究室に入る必要があるのかなーと」

 教授から目を逸らすと、そばにいるジュリアと目が合う。

「その方法には、いくつかの機密が含まれる。おいそれと外には漏らせない」

 彼女からは、そんな答えが返ってきた。


「ま、機密と言っても、そんなに身構える必要はないぞ」

 ステラの不安を取り除くかのように、教授は柔らかい口調で語りかける。


「一言で言うなら、開発中の魔法の実用試験じゃ」


    ◆


 ステラがローレンス教授の研究室への所属を決めた日から、数日が過ぎた。

 自分に先んじて幼馴染がそのような状況になっているとはつゆ知らず。レオは朝早くから日課の素振りのため、斬竜刀を担いで男子寮の門を出る。


「……おはようございます」

「おう、おはよう。って言うか、こんな早くから出掛けてたのか」

 いつもの広場に向かう途中、学院前の通りでどこからか帰って来たリチャードと出会った。


「……ええ、先日も毒針鼠ウィレキヌス電魚竜ケラブニクチスのような、普段は見られない生き物がこの街の近くに現れていますので、見回りの仕事を少々」

「それ、普通は大人がやるような仕事じゃねえのか?」

「……先日会ったエイミーさんを覚えていますか? あの人のような生態調査員は、動植物の発生状況を調べて警戒情報を流したり、時には討伐依頼を出したりするのが仕事の一つです」

 ただ……と、リチャードはそこで声を落とす。


「……先日の雷電竜ヴォルトサウルスの誘導にも何人か行っているのですが、それ以外にも先月から北の方に人手が取られていて、今この辺りは手薄になっているのです。とうとう僕の父までも呼ばれたようで」

「そうか。この前の河原に行ってみたけど、会えなかったんだが、そんな事になってたのか」

「……うちの父が何か?」

「いや、もしよかったら、稽古をつけて貰えたらなと……」

「……ああ……」

 それだけ口にして、リチャードは額に手をやって押し黙る。


「何だ? 何か都合の悪いことでも……」

「……実はうちの父は、かなり前から弟子を取るのを禁じられていまして……」

「えっ?」

 予想外の言葉に、一瞬レオは絶句する。


「禁じられたって……誰に?」

「……この国と傭兵隊に、です」

「親父さん、なんかやったのか?」

 恐る恐るといった様子で聞くレオに、リチャードは首を横に振る。


「……いえ、そう言うわけでは……ただ、幼いころから槍の修業に明け暮れていたせいで、上手く加減ができないというか……」

「そうか……」

「……お役に立てず申し訳ありません」

「いや、リチャードが気にすることじゃねえだろ。引きとめてすまなかったな。じゃ、俺は日課の素振りに行って来る」

「……あの」

 背を向けたレオを、リチャードが呼び止める。


「……もし、レオ君がよかったら、僕の修行に付き合ってもらえませんか?」


    ◆


 さらに数日後。

 その日は、学院において一年生の戦闘訓練が行われる日であった。


 朝の集会を終え、訓練に参加する生徒は学院のグラウンドに集合する。


 とはいえ、レオたち一年生は入学してからまだ二カ月に満たない。それゆえ実戦的な訓練はまだほとんど行われておらず、体力作りなどの基礎訓練が主である。


 そしてレオは今、ステラやアレックスとともにグラウンドを走り続けていた。


「なあ、ステラ。戦闘訓練なんて、参加してよかったのか?」

「ん? 大丈夫だよ?」

「いやお前、戦闘とかできないだろ」

「まあ、戦いは苦手だけど、ちょっと思うところがあって、ね」

「そうか……あんまり無理すんなよ」

「ん、ありがと」


 この学院に来る以前は、何をやっていいのかわからぬままにひたすら素振りだけを繰り返していたレオ。そんな彼に体力作りの方法を教えたのが、孤児院のタリア院長であった。

 だから、レオにとってその辺りは、孤児院にいた頃からやっていた事となんら変わるわけではない。


 なお、一般的な体育の授業はともかく、戦闘訓練については男女混合で行われている。ステラもまた、レオに付き合ってランニングなど一部のトレーニングをしていたため、戦闘こそ経験がないもののそれなりに体力はある。


 そうして走り込みを続けるレオの耳に、訓練の指導に当たっている若い教官の声が聞こえてきた。

「はて……まだ来られないとは……何かまずいことでも……」

 教官は後者の方を見つめながら、そう独りごちる。


「何かありましたの?」

 1年3組の学級委員長であるディアナ・シェリングが、それに気付いて教官に問い掛けた。

 彼女が委員長に選ばれたのは、この公国の元首である大貴族の家の出身だからというわけではない。しかし彼女は積極的にそれに立候補し、それに反対する者も特におらずにそのまま委員長の座に収まっていた。


「今日は他の教授にも手伝いをお願いしていたんだが、まだお見えにならないんだ」

「そうなんですの……」

「いや、何か許可が必要とか言ってたからなあ。ちょっと様子を見て来るか。すまないが、しばらく頼む」

 ディアナにそう言い残し、教官は校舎へと向かう。


 とはいえ、教師の目がなくなると、やはりたがが外れる部分も出て来るのだ。


「ああーたりィなあ……いつまでこんな走り込みさせる気なんだ」

「まったくだぜ。早く実践訓練がやりてえな」

 クラスの中にも、素行のあまりよろしくない生徒はいる。とはいえ、彼らは貴族の子息とその取り巻きであり、他の生徒たちには、時には教師陣であってもその行動をとがめるのが難しい事さえあった。

 足を止めて文句を言っていた生徒達の矛先は、やがて近くを通りかかったレオへと向けられる。


「なあ、お前、オーウェンとかいったな」

「ああ、そうだけど」

「ちょっと戦闘訓練に付き合ってくれねえか?」

「戦闘? まだ基礎訓練だけで、実戦はまだ先って話じゃ……」

 挑むような言葉を掛けてきた同級生に、レオは戸惑いながら答える。

 もともと家族の仇討ちのために斬竜刀を持っているのであって、決して人間同士で戦いたいわけではない。


「何だ? そんなでっかい剣を背負ってるくせに、戦いはできねえってか?」

「いや、そう言うわけじゃ……」

 もう一つ、彼らがなぜ自分を標的にしているかがよくわからない。


「それに、何で俺に?」

「とぼけるなよ。お前、あのローレンス教授の隠し子だって噂じゃねえか。さぞかし強いんだろうな」

「何ぃっ!?」

「ええっ!?」

 その言葉にはレオだけではなく、少し離れたところで様子をうかがっていたステラまでもが驚きの声を上げた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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