Episode 9「料理で勝負だ!?流浪の料理士カノン、銀河無敗の皿を持つ男」
モグランチャでの芋炊き出しから数日後。
グルモスは、惑星バルナム=Δ(デルタ)に降り立っていた。
そこは“料理人の終着駅”とも呼ばれる、
失敗した料理人たちが最後に辿り着く星。
そこに、ヤツはいた。
名を――カノン=クライド
【ライバル:流浪の料理士カノン】
銀河料理界で“無敗の男”と称される。
白髪のポニーテールに黒い料理長コート。
常に仮面をつけ、料理の前に一言も発さない。
モットー:「料理に心はいらない。味こそ全て」
料理は完璧。だが、食べた者から“何か”が抜け落ちると噂されている。
「会えて光栄です、筋肉の料理怪人さん。あなたの料理には、余計な“感情”が混ざっている」
グルモス:「おいおい、“うまいもんで笑顔”が余計だって?」
「ええ。“味覚”は、純粋であるべきです。笑う必要も、泣く必要もない」
そしてカノンは、勝負を申し出た。
【対決テーマ:銀河オムライス】
条件:用意された素材は共通。銀河卵、星米、赤雫ソース。
目的:ただ一皿で、相手を黙らせること。
カノンの皿は美しかった。
ライスは1粒も乱れず、卵は絹のように薄く、ナイフを入れると完璧な流れでソースが溢れる。
一口。
観客たちの目が揃って見開かれ――無言になる。
(……うまい。だが、なんだ……何も感じない……?)
次はグルモスの番。
彼のオムライスは、見た目に派手さはない。
だが――香りが、暖かかった。
ソースにほんのり星塩を溶かし、米にぬるんエキスでコクを足し、
卵の内側にだけ微細な香草を刻み込んでいる。
一口。
――観客、泣いた。
「う……うまい……なにこれ……っ」
「思い出した……遠くの星で、母が握ってくれた、あの手の温度……!」
カノンは無言だった。
仮面を外し、ゆっくりと、言った。
「……負けました。私の皿には、誰もいなかった。
あなたの料理には……誰かの気持ちがいる。それが、強さなんですね」
【その夜】
カノンは静かに旅立つ。
残されたのは、彼の調味料ケースと一言のメモ。
“これからは、“誰かのための一皿”を作ってみます。ありがとう、グルモス”
グルモス:「……おう。またどっかで、腹減らせて来い」