Episode 5「宇宙街道の謎市場と、“ヌルッとした新食材”との遭遇」
惑星間を結ぶ宇宙街道の中心――ヴァルザバザール。
銀河中の食材・素材・違法なモノまで何でもそろう、混沌の巨大市場。
今日もグルモスはフライパン背負って歩いていた。
「ふむ……次は何か“のどごし”で攻めてみてぇな」
そう呟きながら露店を眺めていたその時、妙に目を引く看板があった。
“幻の滑潤食材! 一口で恋に落ちる! 新触感『ぬるん』あります”
(……ぬるん?)
看板の下にいたのは――
透明なスライムの体に、シルクハットと蝶ネクタイをつけた、やけに紳士的な怪人。
「ようこそおいでくださいました。あなたの舌に革命を――“スラ・ルジェール”と申します」
【食材:『ぬるん』】
見た目:半透明の粘膜状。微弱に発光しており、常にぷるぷるしている。
食感:未知のぬめり。噛むたびに風味が変化する。
効果:喉ごしがあまりにも良すぎて、呼吸を忘れそうになる。
正式名称:ぬるぬる神経藻の発酵体。旧文明では「神のゼリー」と呼ばれた。
「この食材、まだ誰も“料理”として仕上げたことがありません」
「……誰も調理してねぇもんを、売ってんのか」
「その挑戦こそが“価値”ですから。あなたなら――やれると見ました」
グルモスは一瞬、鋭く目を光らせた後、ニッと笑った。
「面白ぇ……受けた」
【調理スタート】
使うは:
星塩で水分を引き出し、食感の芯を調整
冷熱制御で“二層構造”を形成
表面に香草のエキスを微細ミストでまとわせることで、口に入れた瞬間の香りを最大化
名付けて――
「銀河ぬるんの冷香蒸し」
一口。
それは、舌に乗った瞬間に体温で溶け、喉を滑り抜けながら七色の旨味を解放する。
「……ぬるっ、うまぁ…なにこれ、え、え?」
通りすがりの客が一口食べて崩れ落ち、うずくまったまま立ち上がらなくなる。
笑顔で、だらしなく。
スラ・ルジェールは目を見開いた。
「これは……! これが“料理”…! 我々スライム族が何千年も夢見た、“ぬる”の完成形…!!」
「よぉし、次はこの“ぬるん”でコース料理、組んでみるか――」
グルモスの脳内では、すでに“ぬるん懐石”のメニューが組み上がっていた。
食感革命は、もう止まらない。