Episode 2「激辛料理で口説け!灼熱姫の婚約試合」
灼熱の惑星カプサーラ。
降り立った瞬間、目に染みるほどの赤い空と、鼻の奥にズンとくるスパイスの香り。
大気中にカプサイシンが混じっているせいで、普通の生物なら3分で気絶するらしい。
「いい場所じゃねぇか……燃えるぜ」
グルモスはマスクもつけず、赤銅色の肌に汗を光らせながら、
“グルオーブン”を背負って、広場の中心に現れる。
そこは、婚約試合会場。
周囲を囲む観客は何百人。皆、口にチリソースを塗りながら興奮していた。
中央には一人の女――燃えるような紅蓮の髪、鋭い瞳。
スピカ・バーニア。灼熱の姫騎士。
「またくだらん挑戦者か……この星の男は皆、私の舌を満たせぬ」
「甘さは逃げ。酸味は言い訳。真の愛は痛みと共にあるべきだ――!」
グルモスは腕を組んで言う。
「へぇ。じゃあ……“痛くて泣けるけど、もう一口食べたくなる”料理ってのはどうだ?」
その瞬間、スピカの眉がピクリと動いた。
「……ほう。言うではないか。ならば証明してみよ、“異星の料理怪人”よ!」
婚約試合、開始の鐘が鳴り響く――!
【スピカの料理:灼熱大地の激辛煮込み「カルナ・スープ」】
主材料:カプサーラ火鶏、地獄根ショウガ、極辛ウルボス唐辛子
調理法:唐辛子の煙で肉を燻し、スープに溶かす。食べた者は一瞬意識が飛ぶと言われる。
一方、グルモスは静かに調理を開始する。
「こっちは、“痛みを抱いて微笑む料理”といこうか」
使うは、銀河チリ・ゼラニウムと冷気トリュフ。
甘さも酸味も封じず、“冷たさ”と“辛さ”の波状攻撃を目指す。
名付けて――
「冷熱交差の灼冷ロール」
トリュフ香る冷製ソースで冷やした生地の中に、灼熱スパイスで煮詰めた鶏ミンチ。
一口ごとに辛さがぶり返し、それを冷たさが追いかける。
食べるほど、火照っているのか冷えているのか分からなくなる。
それでも、止まらない。舌が、心が、求めてしまう。
観客、沈黙。
スピカ、一口。
……二口。
「な、に……これ……“痛い”のに……やめられない。火照って……でも……落ち着く……!!」
そして三口目。
――スピカの頬に、一筋の涙が伝った。
「……私は、辛さしか愛せないと思っていた。けれど――
この料理、私を許してくれる。『それだけじゃなくていい』って…言ってくれる」
結果:引き分け。
だが、スピカはこう言った。
「貴様……いつか私に、もう一度料理を食わせろ。
もしもその時、また涙が出たら――その時こそ、私は貴様の嫁になってやる!」