Episode 18「スパイス農園の少女と“未来へ残すカレー”」
グルモスが辿り着いたのは――惑星エルディラ。
乾いた風と赤い大地、そして年中吹き荒れる“塩風”のせいで、農業には不向きとされた土地。
だが、そこでひとり、スパイスを育てている少女がいた。
【少女:ナユ=ルクト】
小麦色の肌とボサボサの三つ編み。
声は大きいが、話す相手がいないので実は寂しがり屋。
幼い頃に祖父から譲り受けた「名前のないスパイスの種」を、10年育て続けている。
香りはある、でもレシピも記録も、名前もない。
夢は「誰かに、このスパイスを覚えていてもらうこと」。
ナユ:「なあおっちゃん、“名前のないスパイス”って、食材としてどうなん?」
グルモス:「名前がなくても、香りが届けば、それで十分だろ。
人の心が“うまい”って覚えてくれりゃ、それが名前みたいなもんさ」
ナユが育てたスパイスは、
どこか“懐かしいようで、新しい”。
鼻腔をくすぐって、でもすぐに消えてしまいそうな儚さ。
グルモスはそれを一摘み、手のひらで温める。
「――カレーだな。未来に残したい味なら、芯からあっためてやらなきゃな」
【料理:未来への一皿 “砂風カレー”】
ベースはココナッツと焦がし玉ねぎ
ナユの無名スパイスを最後に一振りし、香りの記憶を後に残す
サイドには、風に耐えた根菜のスチームを添えて
ナユ:「……この香り……ずっと……残る気がする」
「私の、ここ(胸を指す)に、ちゃんと名前ついた気がした」
グルモス:「そうだな。じゃあ今日からそのスパイスは――“ナユ香”ってことでどうだ?」
ナユ、目を丸くして、照れくさそうに笑う。
「ちょっと、いいじゃんそれ!!じゃあレシピの名前は、“初めてのナユカレー”な!」
グルモスは、カレーを食べながら一言だけ呟いた。
「名前ってのは、誰かが“忘れたくない”って思ったときにつくもんだ」




