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Episode 15「再会の匂いは、風のマーケットで」



風の強い惑星、カルナ・セレリオ。

大気の流れが激しく、すべてのものが風にさらされ、風で洗われる。

その中心に開かれるのが、週に一度だけ現れる**“風のマーケット”**。


今日も風が吹く。

布が揺れ、香草の匂いが空を舞う。


その一角に、グルモスは立っていた。

出店ではなく、ただ歩いていた――

「何か、腹にくる食材がないか」と。


そのとき。


ふわり。


かつて一度だけ焼いた、銀河苺とぬるんの花香和えの、あの香りが

すれ違いざま、風に乗って鼻先をかすめた。


グルモスの足が止まる。


「……なんだ、今のは……?」


屋台の列を抜け、香りの方角を追う。

人混みの奥、影のかかった布の中に――

ひとりの人物がいた。


セレナ。


ウルトラヒロインNo.2。

青銀のスーツではなく、

いまはごく普通の、淡いシャツとスカーフを巻いた姿。


彼女は、ただ無言でグルモスを見つめ、

紙皿を差し出した。


そこには、彼の作った料理を再現した風のサラダ。


「……違うのよ。完璧には、できなかった。

 でも……味が、ずっと、頭に残ってて。どうしても……もう一度、あの“温度”に触れたかった」


グルモスは黙ってそれを受け取り、一口だけ食べてから、言う。


「……見た目は違ぇけど、ちゃんと“気持ち”は残ってる。

 食わせてもらった。ありがとな」


ふたりはマーケットの隅に並んで座り、

小さな、ほんの小さなパンをひとつちぎって分け合った。


それは戦いでも任務でもない、

ただ――「うまかった」から始まった再会だった。


別れ際、セレナがふと振り返る。


「……あなたは、これからどこへ?」


グルモスは笑う。


「誰かの腹が、減ってるところさ。俺はそれを嗅ぎ分けるだけだ」


風が吹いた。

そして彼は、また歩き出す。



次回予告


次回Episode 16「誰もいない駅のベンチと、真夜中の“待ち人そば”」

最終列車がとうに通り過ぎた、無人の宇宙駅。

そこにぽつんと座るのは、旅人か、誰かを待っている者か。

グルモスが湯を沸かし始めたのは、ただ――“そば”が食べたい気分だったから。

それが、再会の味になるとも知らずに。

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