Episode 14「旅人の手紙と、鍋ひとつのスパイスチャイ」
流れ着いたのは、ほとんど誰も使わなくなった宇宙貨物路の休憩所。
古びたキッチンカウンターと、もう動かない通信端末。
壁の掲示板には、かつての旅人たちの「置き手紙」がぎっしり。
グルモスはその中の一枚に、ふと手を伸ばす。
「ごめんな、あの時あんたに“ありがとう”って言えなかった」
「この香り、あんたが好きだって言ってたろ。次に会えたら、一緒に飲もうな」
――T.ユリィ より
封筒の中には、乾いたチャイスパイスの小瓶が入っていた。
甘くて、少しだけ辛くて、ほんのり柑橘系の香り。
グルモス:「飲ませてやれなかったのか……」
彼は、ぼろぼろの台を拭き、古い鍋をひとつだけ使って湯を沸かす。
【鍋ひとつのスパイスチャイ】
ミルクは自前の乾燥粉乳を使用
スパイスは瓶の中身そのままに、順番だけ変えて温める
ほんの一滴だけ、ポケットに残っていた“甘草蜜”を最後に垂らす
香りが立った瞬間――
誰もいない休憩所の空気が、じんわりと色を変える。
まるで、“そこに誰かがいるような気配”。
誰かが、今、隣で笑っているような。
誰かが、「うまいな、これ」と言っているような。
それはたった一杯の飲み物なのに、
心のどこかを、そっと撫でてくる味だった。
飲み終えたあと、グルモスは小さく呟く。
「そっちでも、温かいの飲んでりゃいいな」
彼は掲示板に一枚、手紙を残して去っていく。
「チャイ、作ったぞ。ちょっと甘かったけど――お前の香り、悪くなかった」
――Gより




