Episode 12「燃える川のほとりで、誰も来ない屋台と一杯のスープ」
惑星キレオス。
大昔、火山帯の奇景“燃える川”で有名だったが、
観光ブームが終わってからは誰も寄りつかなくなった星。
赤く光るマグマの流れ。
熱気に揺れる空気。
そのほとりに、ひとつだけ残った小さな屋台があった。
グルモスが歩いていると、
焦げかけた看板が目に入った。
「あったかいスープ、あるよ」
(来なくても、気にしないよ)
中にいたのは――
皿を磨き続ける、年老いた異星人のおばあちゃん。
名前はモナバ。
種族名も、出身星も、もう聞く人はいない。
「今日は……あんたが、来てくれたのかい?」
「いや、たまたま通っただけだ。けど……スープは飲んでくぜ」
モナバのスープは、透き通っていて、温かく、静かだった。
具はほんの少し。
けれど、どこか“泣きたくなるような味”がした。
「……誰も、来ない日が続いたけどね。
それでも火を止めなかったの。
“あの子”が、またふらりと来るかもしれないって」
グルモスは黙ってキッチンに立った。
「じゃあ、火は……次の誰かにつなげよう」
彼はモナバのスープをもとに、
香ばしい鉱石芋と発酵トマトを足して、**“燃える川のふろふろ煮”**を仕上げた。
食べると、体の芯から熱くなり、
モナバの目がじんわりと潤んだ。
「……あの子が食べたら、きっと言うね。
“帰ってきてよかった”って……」
その夜、屋台にひとりの青年が現れた。
火山探索で消息を絶ったと噂されていた、モナバの孫だった。
スープの香りに導かれて、戻ってきたのだ。
モナバは一言、言った。
「おかえり。ちょうど、いいスープがあるよ」