Episode 11「星の図書館カナータと、レシピを失った少女司書」
次にグルモスが降り立ったのは――
惑星カナータ。
ここは、銀河中の「記録されなかった記憶」が自然と集まる、奇妙な図書星。
その中心にあるのが、“星の図書館”。
紙の本も、石板も、記憶の結晶も、香りの記録まで保存されているという不思議な場所。
図書館で出会ったのは、一人の少女。
静かな目をした、淡いグレーの髪の司書。名前は――フィリカ。
【フィリカ・ノート=無声の司書】
無口で、目を合わせるのが苦手。
昔、大切な「誰か」のレシピ帳を失くしてしまった。
それ以来、料理に触れられず、本と記録だけを抱えて生きてきた。
でも、なぜかグルモスにだけ、ほんの少しだけ話せる。
「……この図書館には、“料理の本”が……たくさんある。
でも……どれも、“味”が、わからないの」
グルモスはうなずき、少しだけ図書館の片隅を借りてキッチンを広げた。
「なら、今から作る。味じゃなく――“記憶の料理”をな」
彼が作ったのは、
「カナータ風・記憶のリゾット」。
本棚の隙間で育った香草
フィリカが本から再現した古代米
グルモスが手土産に持っていた“エールのタケノコ”の残り
食材はすべて、“記憶”にまつわるもの。
一口。
フィリカの目が、ふわっと揺れた。
そして――ぽつり、言った。
「……この味、昔……だれかが……作ってくれた……気が、する……」
図書館のどこかで、風が吹いた。
埃っぽい棚の隙間から、一冊の古いレシピ帳が滑り落ちる。
表紙には、手書きでこう記されていた。
「フィリカのための ごはんノート」
――おとうさんより
「……おかえり」
フィリカが、小さく微笑んだ。
その夜、グルモスは図書館の屋上でコーヒーを飲んでいた。
星々がまた一つ、誰かの記憶に灯るように輝いていた。
「やっぱ……料理ってのは、記憶とつながってるよな」