Episode 1「これは…宇宙鶏の卵!?未知食材との出会い」
「俺、料理怪人に転生しました。」
真っ白な空間。気がついたら俺は死んでいた。
事故?老衰?わからん。でも目の前には――
「あなた、料理が好きでしたよね?」
神?女神?よくわからん存在が、めちゃくちゃ当然のように言ってきた。
そして告げられたのは――
「次の人生は“料理怪人”です!」
はあぁぁああ!?
しかも舞台は宇宙のどこかにある、異星種族だらけの星!?
さらに、「あなたの料理で争いを止めてください」って…
こちとら、ただの一人暮らしの料理好きサラリーマンだったんだが!?
でもまあ……
せっかくの転生だ。やるしかねぇよな。
フライパン片手に、異世界宇宙の旅が今、始まる――!!
俺の名前はグルモス。
かつて地球で冴えないサラリーマンだった男は、いま――宇宙のどこかで“料理怪人”として旅をしている。
鋼の筋肉、赤銅色の肌、そして調理器官を持つ怪人ボディ。
異種族相手に鍋を振るう、そんな毎日が始まって早3週間。
最初に降り立った星の名前は「タマゴノスIV」
どうやらこの星の特産は“でかい卵”らしい。
いや、でかすぎるだろ。
「……バレーボールかよ、これ」
見上げるほどの卵が、木になってる。
いや、卵が“実る”ってなんだよ。宇宙こわ。
そんなツッコミをしつつ、俺は触手でぺろっと舐めて味覚センサーを稼働させる。
(…ほう、タンパク質濃度は高いが、脂が控えめ。白身には微弱なスパイス反応…こいつ、火を通せば爆発的に旨味が跳ね上がるぞ)
「決まりだな。オムレツ、いってみるか」
岩を砕いてかまどを組み、木の枝を焚きつけにする。
体内の“業炎器官”から火を引き出し、鉄板を熱する。
そして――
「グルオーブン、起動ッ!!」
重さ30キロの巨大フライパンを肩からぶん回し、振るう!
たちまち香りが立ちのぼり、あたりに集まってくる謎の生物たち。
目が4つある奴、触手が花みたいな奴、浮いてる魚みたいな奴…。
どいつもこいつも、めっちゃ見てる。
(…ああ、そうか。食ったことないんだな、この調理法の卵)
火が通り、ふわりと膨らむ黄金色のオムレツ。
切り口からとろりと溢れる銀色の黄身に、星の光が反射する。
「――よし、できたぞ。宇宙初の“銀河オムレツ”だ」
ひと口、食ってみる。
…うまい。笑えるほど、うまい。
「――おい、それ……食えるのか?」
その声に振り返ると、いたのは金属の皮膚に青いターバンを巻いた宇宙人。
胴体はドラム缶、足はキャタピラ、目玉は3つ。
名をマルギン=バズーという。
旅する“動画記録商人”で、未知の文化を記録・配信しては、通信ポイントで小銭を稼ぐ――そんなやつだった。
「ほらこれ、“味”も動画に記録できるアレ。わたし、登録者数そこそこいるんだよね~」
グルモスは無言で、銀河オムレツを切り分け、マルギンの手(?)に皿を渡した。
青い触手がそれを受け取り、恐る恐る――ひと口。
……ピタッ。
その場で、マルギンの目玉が3つとも開ききった。
「な……なにコレ……脳が、鼓動してる!? いや、胃袋が幸福のマーチ踊ってるんだけどぉぉぉ!?」
うるさい。
でも、それが“伝わる”ってのは、悪くない。
マルギンはその場で「食レポ撮影」を開始。
「バズーの旅飯記録・銀河版」にアップされると、わずか3時間で再生数は480万回を突破。
(誰が見るんだよ…と思ったら、銀河中に“食文化オタク”っているんだな)
そして、翌日。
グルモスが目覚めると、テントの外には――大行列ができていた。
「食わせてくれ!!!」
「俺にも卵を焼いてくれ!!」
「我ら、料理教わりたい部族!!」
「プロポーズに使いたいから10人前頼む!!」
押し寄せるのは、タマゴノスIVのあらゆる種族。
鳥のような顔をしたコカゴ族、粘液質の皮膚を持つメルダンス族、
さらには戦闘種族で有名なラザクロン衛兵団まで来ていた。
グルモスはため息をついた。
「……なら、やることは一つだな」
彼は即席の露天屋台を建てた。
燃料不要。自前の調理器官で直火を起こし、巨大フライパン“グルオーブン”を振るう。
一度に焼けるのは6人前。受け取った者は皆、沈黙する。
ただ、咀嚼し、目を閉じ――微笑む。
争いに明け暮れていた部族同士が、列で譲り合い、時には料理をシェアしあう。
料理怪人は思った。
(…これが、“戦わずに同じものを味わう”ってことか)
それはかつて、地球で一人、疲れ切った夜に台所で感じていた静かな幸福――
それを、今は異星の空の下、誰かと分かち合えている。
その夜。
グルモスは大樹の根元で火を焚きながら、
焼き終えたオムレツの最後のひと切れを口に運ぶ。
(ま、悪くねぇな)