1-5
のちに判明したことがいくつかある。
科学検査研究所からは今回の爆発物に関しての報告が上がってきた。
自爆テロなどで頻繁に使用されているセムテックスの可能性が高いということだ。
セムテックスとはチェコ共和国で開発された高性能プラスティック爆弾。
探査するのが困難で比較的容易に手に入れやすい。
そして加工もしやすい。
250グラムもあれば飛行機でさえ爆破できるほどの威力もある。
ペンスリット(petn)という高性能爆薬をベースにして爆発力や殺傷力を重視して作られている。
それともうひとつわかった重要なことがある。
現場検証を行って発見されたものがある。
自爆した犯人が手にしていたであろうハンドガンのグリップ部分が見つかっている。
アルファベットでNORINCOとロゴが入っている。
これがわかっても意味を知っている警察官は思いのほか少ない。
NORINCO中国兵器工業集団とは中国の軍需企業。
2024年には世界の軍需企業ランキングで9位になっている。
中国国内ではAVIC、CSSCについで売上高3位。
現在では戦車や戦闘機、レーダーにカメラといった監視システムまで幅広く手がけている。
元々は人民解放軍の兵器を作っていて銃のコピー製造から始まっている。
それは現在も作り続けている。
需要があるからだ。
コピー商品なので本物の定価の半額以下で購入できる。
ただし精度としては本物より落ちることになる。
今回の銃はオーストリアのグロック社のグロック17のコピーモデルが使われたようだ。
メインで流通しているハンドガンなので手に入れやすい。
グロック17のコピーであるNP7だと考えられている。
男の身許についてはまったくわかってない。
身分証のようなものは発見されてない。
被害にあった警察官も含めて他の犠牲者の氏名はわかっている。
最も重要な自爆した殺人犯の男だけが正体不明のままでいる。
それにともなってハンドガンやセムテックの入手経路も不明。
密輸入関連の調査でもいっさい不明。
結論としては「誰だかわからない人物がどうやって入手したのかわからない武器で無差別殺人を行った。その目的も不明」
神奈川県警としてはお手上げの事件となった。
事件発生からの時間的経過は数時間と長いものではなかったが謎だらけの事件の幕開けとなっている。
木曜日、夜の渋谷。
渋谷駅のハチ公改札の前にあるスクランブル交差点を渡った先に書店がある。
そのすぐ側に独りの男が立っている。
午後7時11分。
人通りは昼と変わらない。
若者度数はこれからの時間帯のほうが多くなってくる。
外国人も多い。