3-1
三
独り娘の遺影は1階の和室にある。
理絵はその前に座っている。
なにをするでもなく座っている。
ほっとくと5時間でも6時間でもそのままだ。
勝利は冷静さを取り戻していた。
落ちついてくるといろいろ考えなければならないことが多くあるということがわかった。
ひとつひとつ慎重に考えていかなければならない。
まず娘の死因だ。
検死の結果、縊死であることは間違いない。
首が圧迫されることで呼吸や脳の血流が阻害されて脳や臓器に回復不能な機能障害が起きて死亡ということだ。
警察による現場検証によって自殺であると断定された。
外部からの干渉を確認できないので他殺ではなく事件性はないとなった。
つまり首つり自殺ということだ。
こういったドアを使った首つりは、貧乏を売りにしていた女性アイドルや人気のあったロックバンドのギタリストがニュースになっていたことを思い出した。
さらに警察による現場検証によって柚葉の机の中からB5の紙の束とノートが見つかった。
B5サイズのコピー用紙には目を疑うようなひどい言葉が並べられていた。
ノートには、おそらくそれだと気づいた時からの被害だと思えることが書かれていた。
調べていた刑事の判断としては、いじめを苦にしての自殺だと申し訳なさそうに告げられた。
勝利もそう思っている。
その首謀者と思われる氏名がノートに書かれている。
勝利はまったく気づけなかった。
1日の中で顔を合わせる時間がほとんどない。
だから会話もない日もある。
働いている限りは残業がある。
家に帰ってきてもやっと落ちついたといえる時間はすでに午後11時前だ。
これでは•••
そして最後の日のことを思い出していた。
それまで誰にも言わずにたった独りで耐えていた。
毎日が緊張していたはずだ。
その緊張が、あの日の夜にフッと消えてしまった。
代わりに空虚だけが心を支配した。
それで楽になることを選んだ。
勝利が勝手に思っているだけだ。
人生の中で最も多感な十代女子の心境などわかるはずもない。
それでもなにかを想ってしまう。
わからなくてもわからなければならない。