5-3
その日が土曜日で会社は休み。
午後1時なのでこちらには異存なし。
さっそく大丈夫ですと返信。
今回はすぐに返事がきた。
伊藤美和という人で部屋番号も記されていた。
これまでにマスコミからの取材のようなものを受けたことはある。
立ち話でのごく簡単なものだった。
インタビューということになるとこれが初めてのことになる。
怪しいとも思ってはいる。
だが疑ってばかりではいられない。
なにか世の中に訴えたいとの思いはある。
怪しいと判断できたらインタビューを打ち切ったっていい。
そう思えば気が楽になって会ってみようと思えるようになった。
土曜日。
早目に昼を終えて外に出た。
理絵を連れて行くわけにはいかない。
動き回ることはないので安心はできる。
生きていくための最低限のことは自分でできるので高齢者に対する介護とは質が異なる。
総武線で東中野駅から新宿駅まで2駅。
東京で生まれ育って49年になるが貸し会議室というものを利用したことはない。
そして伊藤美和という人に指定された部屋の前までやって来た。
ドアをノックすると中からどうぞと耳に届いた。
「伊藤さんですか?」
静かにドアを開けると会議に特化した個室だ。
室内にいたのは、まさか独りだとは思わなかった。
そして想像していたよりも若い人だった。
「大佐古さん?
お待ちしてました。
どうぞ、お席へ」
美和はノートPCを閉じた。
なにかを熱心に見ていて勝利が声をかけるまで気づいてなかったようだ。
勝利は美和の前の席に腰を降ろした。
「こういった会議室があるのを初めて知りました」
新宿駅の南口から歩いてすぐの所だ。
地上を歩いていてビルの中をいちいち気にすることはない。
普通は気づかないだろう。
「この周辺にはかなりあるんですよ。
商談や打ち合わせに利用する人が多いみたいですね」
そう言って改めて自己紹介。
といっても立場的には勝利のほうが詳しく話さなければならなかった。
持参したB5サイズの紙の束や娘が書いていたノート。
さらに学校側との話し合いの記録など事件に関係しているものすべてを出して説明していった。