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クラス担任の宮崎総太郎の発言だ。
つまり「私はなにも見ていません」ということを言いたいわけだ。
繰り返し強調している。
勝利からはただの責任逃れとしか思えなかった。
そうに違いない。
こちらに目を合わせようともしない。
いじめの首謀者の1人として名前が上がっている二本木真穂の父親で二本木秀樹が、なぜかこの席にいる。
自分の娘に嫌疑がかかっているので自ら出席したのか?
あるいは学校側から打診があって出てきたのか?
どちらにせよ新宿区という地方議員ではあるが与党議員でもあって口は達者だ。
勝利などの一介の会社員と違って話すことが仕事だ。
今回は一方的に話はするが「聞く耳は持ってない」
この日の話し合いは、学校側は校長と二本木議員、そして石塚弁護士と勝利での意見を述べるにとどまった。
総じて平行線だった。
特に酷かったのが二本木議員だ。
娘を守りたいためなのか、とにかく人の話には耳を傾けない。
1回目の会議が終わって、この後も続くものとばかり思っていた。
話し合いが終わった翌日に勝利の家に訪ねてきた人物がいた。
四谷大木戸女子学園の理事長の秘書だと名乗る男だ。
理事長からのお見舞い金として現金200万円を持参しにやってきた。
訪ねてきた秘書はお悔やみの言葉を並べていく。
あまり長居はしたくないというのがミエミエだ。
とにかくお金は受け取ってくれ、受け取ってもらわなくては非常に困るの一点張りで現金200万円を置いて早々に帰っていった。
勝利は困惑しながら石塚弁護士に連絡してみた。
弁護士に相談してから対処しようと思ったからだ。
「そうですか···
そういう手をうってきましたか。
向こうにも弁護士がいますね。
顧問弁護士か···」
「あの、そういう手というのは?」
「裁判になる時、損害賠償裁判を起こされる前に早目に現金で支払うことにしたのですよ。
要は示談金というようなものです。
早急に問題解決をしないと学校経営、つまり受験生が減ってしまうことを阻止するためです」
つまりは現金200万円で終わりにしてくれということだ。
石塚弁護士から、これからどうしますと問われた。
そしてアドバイスも受けた。
これから学校との裁判になったとしても泥沼化するだけ。
その先にあるのは損害賠償金。
事件として裁判としての終着点はそこまで。
お金の受け取りで終わり。
また、どうしますかと問われた。
勝利は少し考えさせてくださいとスマホを置いた。
結論としては死人に口なし。
ただの死に損ということか。
結局は他のいじめの事件同様にいじめの撲滅を世の中に訴えるまでで終わりにするしかなかった。