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一
春。
全国ではどこの学校でも入学式が行われている。
新宿区にある私立四谷大木戸女子高等学校でもこの日は入学式だ。
現在は中高一貫校で明治11年創立の歴史のある女子教育校だ。
大佐古柚葉は高校からの入学になる。
中学からのエスカレーターが多いが高校受験から入学してくる生徒もそれなりにいる。
柚葉は公立中学校だったので自宅からは徒歩で通学していた。
これからは東中野駅から四ツ谷駅までの電車通学になる。
通学にはちょっと時間もかかって大変になってしまうが未来への希望に胸をときめかせてこの新しい学校生活にワクワクしていた。
途中参加という形になるので学内にはまだ友人がいない。
これからどんな友だちができるのかも楽しみでしかなかった。
入学式が終わってすぐ1年生としての学園生活が始まった。
クラスは36名。
期待していた新学期だったが誤算があった。
中学校からエスカレーター式で高校生になった子たちはすでにグループで固まっている。
普通の人でもなかなかタイミングよくその輪の中に入っていくことが厄介だった。
柚葉の場合はおとなしい性格なので積極的にその輪には近づけない。
話しかけるのも気が引けてしまう。
それでも時々は遠からずな距離感もあってだが平和な1年間をすごすことができた。
2年生になってクラス替えがあった。
1ヶ月ほどは1年生の時と大きく変わらない日々が続いた。
ゴールデンウィークが明けてしばらくして最初の異変が起こった。
体育館での体育の授業が終わり次は数学の授業になる。
教科書がない。
朝、間違いなく鞄に入れたはずだ。
教科書の上に財布を置いていたので確かに一緒に鞄の中に入れている。
財布はあるが教科書だけ見あたらない。
周囲に訊くこともできず、この日は教科書なしで授業を受けることになった。
家に帰ってから探してみてもあるわけがない。
どこを探してみても見つかることはなくまた購入しなければならなくなった。
異変は続く。
朝、学校に行くと上ばきがなかった。
周囲を探してみたが見つからない。
いつまでも探してるわけにはいかない。
どうするか?
仕方なく土足のまま教室に向かう。
裸足というわけにはいかない。
1日を土足ですごしてみて特になんの注意を受けることもなかった。
足下なんか誰も見てない。