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それから二日間は追加の下調べに追われた。
いつもはもっと余裕を持つのだが、気が急いていたのかもしれない。
あれ以来、敵も姿を現わさなかった。
この世界に飛ばされてから、おれを執拗に襲ってくる敵。
正体は不明だった。
だがおれの過去の中に、それを暗示するものがなかったわけでもない。
あのとき、おれたちが最初に飛ばされたのはフランスではなく、ポルトガルだった。オポルトの旧市街やドーロ河が見渡せる高台で、河の上流には段段畑となった葡萄園が広がっていた。
激しい衝撃で地面に叩きつけられたとき、バトルスーツは粉々に砕け散った。時間移動の作用で、構造体が脆くなっていたのかもしれない。
廣世は気を失っていた。まるで死んでいるように見えた。おれは頭がふらふらだった。そして正気に戻る間もなく、右脳がびりびりと共鳴し、目の前にバーンと何かが弾けた。内臓をメスで切り裂いたような鋭い亀裂が空間に走り、まるで血の色のような光のシャワーとともに、中から拳大の銀のボールが飛び出してきた。
ポーン、と弾む。
ポーン、ポーン、ポーン。
ついで敵意を剥き出しにしたかのように、おれに襲いかかってきた。
幸いなことに銃は無事だった。大気の熱エネルギーを瞬間的に吸収し、それを弾丸の形で発射できる対TAER銃。そのときのTEARとは、培養槽生れの人造人間たちの総称だった。虐げられた彼らが、ついに人類に攻撃を開始し、おりしも実用研究がはじまっていた真空エネルギー貯蔵施設にアタックした。そして――
おれはバトルスーツの破片に隠れた銃を取り上げ構えると、弾丸を発射した。
鋭い反跳!
おれの肉体が弾き飛ばされる。
だが、ボールには当たらなかった。
当たらなかったが、衝撃でボールも吹っ飛んだ。
熱い風圧に圧され、ゴムのように伸びた。
ボールが危険を感じ、退避しようと、背後の空間をぱっくりと開けた。
そのときに見たのだ!
裂けて広がった空間の奥に、幾筋にも捩れ曲がって広がった時空を……
瞬間、おれは茫然とした。が、頭と身体はすばやく状況を判断し、廣世を担いで早くその場から去れと命じていた。
その判断におれは従い、急いでオポルトの高台から離れた。
あてもなく、知り合いのいない世界で途方に暮れるのは、それから数時間後のことだった。