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きれつ  作者: り(PN)
7/15

「あら先生、もうお出かけですか?」

 話が複雑になってきたな、と思いながら事務所を出ようとすると、入れ替わりざま、高瀬累子が出社してきた。

「事務所にいないのは構わないんですけどね、少しは情報を置いていっていただかないと、電話対応に困りますわ」

「済まんね。だが、昨日しつこく電話してきたらしい連中は、さっき帰ったよ」

「こんな朝早くから来社されたんですか?」

「会わなかったかい?」

「そういえば、駅から来る途中で黒い大型車と擦違いましたが……」

 勘の良い女だった。

「で、他にも何か?」

「しつこい電話はもう一件ありました」

 コーヒーを淹れながら、高瀬累子が説明した。彼女の私物コーヒーはインスタントではない。いい香りが漂っている。

「例の浮気調査の依頼人からです。早く第一報をくださいって。調査は進んでいるんですか?」

「なんて答えようかな」

「嘘つきは泥棒のはじまりですよ」

「ついた方がいい嘘も、世の中にはある」

「オトナの方便でしょう?」

「きみだって二十三だろう。歳は誤魔化していないようだが……。他には?」

「現在のところ、新しい依頼はありません」

「むふん」

「手がまわらないようだったら、臨時雇いでもしたらどうです」

「きみの給料だけで一杯だよ」

「いうほどいただいてはおりませんよ。……浮気調査の資料は下さるんですか?」

「写真はパソコンに入ってる。時間のメモだけは入れた。事実だけ纏めておいてくれ。見解はいらない」

「じゃ、やっぱり浮気してたんですね。ちょっと可哀想?」

「どっちが?」

「両方がですよ!」

 なるほど。

「で、依頼人にはいつ渡せるといえばいいんです。約束の期限は昨日ですけど」

「三日後だな、早くて」

 依頼人はまだ二日、旅先にいるはずなのだ。帰る予定の期日まで待てなかったのだろうか?

「時間が決まれば、先生はいらっしゃいますか?」

「わからんな」

 厭なイメージが脳裡に浮かんだ。その時間に、おれは死んでいる。溝の羽目板に嵌って。

 話が複雑になりすぎた場合はだが……。

「そんなもんかな?」

 頭を振って、おれはそのイメージを払拭しようとする。

 消えなかった。

「じゃ、出かけてくる。資料の纏めは頼んだよ」

「はい、いってらっしゃいませ」

 高瀬累子の元気な声に見送られて、おれは事務所を後にした。


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