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廣世のeatは不活性化していた。
もっとも活性化していれば、他人の声が聞えて困ったことだろう。
eatには双方向に電磁波を送受信できる機能がある。いくぶんかは、脳波も解析可能なのだ。思考活動には化学物質も関与するのでその関係性は曖昧だが、関連づけた類似のパタンがメモリしてある。後は人間の勘でそれらを結びつけるのだ。
だからeatは誰にでも使いこなせるわけではない。しかも数年間かけてしっかりと定着されたeatは、見た目はただの脳腫瘍にしか見えない。それも脳にべっとりと癒着している腫瘍塊。機能を失い、増殖しはじめれば、本物の腫瘍になってしまう。だが、その切換スイッチがあるのかどうか、入るのかどうか、おれたち兵士には知らされていない。おそらく、開発者にもわかっていないのだろう。少なくとも、おれが会ったことのある開発担当者は知らなかったし、事例についても、まだ〇件のようだった。
スクランブルされていたのかもしれないが……。
いまのところ、おれも廣世も無事だった。
だが、廣世は自分の脳の異物を本当の腫瘍だと信じている。当然だろう。手術はまず無理。脳が1/4以下になってしまうからだ。数年の間、悪化もせず、機能障害も引き起こさない不思議な腫瘍……類似物。