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きれつ  作者: り(PN)
2/15

 たまたま、あのとき佳苗と付き合っていて、結果的に彼女と結婚したが、そうでなくても、いずれ星子とは別れただろう。そういう定めと決まっているのだ。いまはまだ懐かしさの感情の方が勝っているが、やがてそのうち口喧嘩がはじまり、きつい沈黙が訪れて……。

 自分がだんだんと調査対象に変わっていくのを感じた。

 右脳が危険信号を発している。

 小さなボールはポーンと撥ねた。

 はっと正気づく。

 背後に人影があった。まだ遠い。近づく。ボールが撥ねる。近づく。ボールが撥ねる。近づく。対象の直上でボールが爆ぜる。

 すっと対象に入り込んでいく。

 憑依パゼスト

 すぐさま、おれは攻撃体勢に入った。おれの右脳、正確には右脳プラス付加活性物質エマネーターとの共同組織癒着体eatもきりきりと緊張する。瞬時に、身体に活力が漲る。カテコールアミンの按配も上上だ。筋肉の張りも適格!

 先にシュッと敵のパンチがおれを掠めた。素早くジャンプして振返り、敵の顔を確認する。知らない老人だった。道の向こうに犬がいたので飼主かもしれない。だが情けはかけられない。いま、老人の筋力は通常の百倍以上になっている。殴られれば吹っ飛び、首を絞められれば骨が折れる。攻撃をかわしながらよく見てみると、日頃から鍛錬している引き締まった体型をしていた。ここで戦わなくとも、いずれおれの前に立ちはだかる人間なのだ。そんな気がした。

 二発殴られ、頬が傷ついた。そこで腕を掴むと前へ投げた。車を越えて地面に落下。衝撃は若干土で吸収されたろうが、背骨に罅くらい入っているかもしれない。

 地面に激突した瞬間にボールが離れた。

 ポーンと上に飛んでいく。

 ジャケットの内ポケットからエネルギー収束銃を取り出し、すばやく狙う。が、照準を合わせるまもなく、ボールは空中に消えた。

 ふっと、空気に溶け込んだのだ。

 老人に近づき脈を取ると生きていた。気は失っている。そろそろ住民が起き出すだろう。気づいた者が騒ぎ出す前に、何らかの手を打たねばならない。数台並んだ車を見やり、アパートからも車道からも見つけにくい場所を探して老人を移動させる。結局、複数の車に囲まれた位置になった。当然か? 札入れを取り出し中身を調べる。名前はわからなかったが、束田道真、という名刺が出てきた。だが、この老人のものではないだろう。W軽機械、経理部長の名刺だったからだ。

 人は見かけによらないともいうが……。

 軽く腕を捻って老人を起こそうとしたが、簡単には目覚めないようなので、その場に捨て置くことにした。骨や内臓の打撲はあるが、外傷は少なかったので、住民に見せても大丈夫だろう。札入れはどうしようかと考えたが、結局返すことにした。モノ取りでないとすると、警察はどう判断するだろう?

 もっともそれは、警察がおれに行きついたときの心配だが……。

 歩道の向こうにいた犬に挨拶すると、おれはその場を去ることにした。犬は老人の連れではなかった。戦いに集中して気づかなかったが、誰かが見ていたのかもしれない。犬の飼主? 犬を残して、交番に駆け込むため……。

 犬は愛想よさそうにおれに寄ってきたが、おれは下がらせ、そして記憶を消した。

 これで、次に偶然おれに出会っても、匂いから吼えつかれることはないはずだ。

 これはeatの力だ。eatは、ある程度想いを放射できるのだ。

 そういういい方をしても良いのならば……。


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