きれつ
目的のアパートに向けて駐車場横の路地を曲がった途端、後ろからむんずと襟首を引っ張られた。思わずよろめく。身体のバランスが崩れ、倒れそうになった体勢を利用して首だけまわし、振り向こうとすると、
「おっと、こちらを向かないでください」
声がかかった。
醒めた口調だ。襟元を押さえた手の力は強い。まるで空気がそのまま人の形になり、固化したような力強さだった。
「高久(たかく)さんですね? 塚本保険事務所、調査員の……」
「さあ」おれは答えた。なぜなら、ときどき自分でも確信がなくなるからだ。
「例の調査依頼から手を引いていただきたいのですが……」
相手はいった。きっと、おれの返事が聞こえなかったのだろう。
「おっと、こちらを向かないでください」
声がかかった。
醒めた口調だ。襟元を押さえた手の力は強い。まるで空気がそのまま人の形になり、固化したような力強さだった。
「高久(たかく)さんですね? 塚本保険事務所、調査員の……」
「さあ」おれは答えた。なぜなら、ときどき自分でも確信がなくなるからだ。
「例の調査依頼から手を引いていただきたいのですが……」
相手はいった。きっと、おれの返事が聞こえなかったのだろう。