1 現役引退しました
-砂漠都市リット アサシンギルド本部にて-
「これで全ての手続き完了です。ラスタレス様。12年間お勤めご苦労様でした。」
「ありがとうございました。」
「残念です、折角の最上位職『レッドラム』でしたのに」
ギルドの職員が話しかけるこの言葉は半分は本音、半分は社交辞令だ
おそらく、自分以外にも多数離職した者が多いのだろう
一種の引き留め構文みたいなものだ
最上位職に就けたのは1年前、
特別才能があった訳でもなく、順当にレベル上げをした成果の末である
・・・まぁ、同じダンジョンで同じモンスター相手に同じ狩り方をしていたのだ
反復運動ばかりで、"最上位職"にふさわしい程の技術が身についている訳ではないが
当時は我ながら誇らしかったものだ
・・・その1年の間に、環境が劇的に変わってしまった
まず、僕達アサシンギルドに所属する『ジョブ:アサシン系統』
『暗殺者』なんて物騒な職名であるが、実際に暗殺を請け負うところではない
・・・・たぶん 少なくとも僕の知るところでは。
不意打ち、毒薬の生成と利用、諜報活動など
そういった隠密行動を特技としたジョブである
そんなアサシン達の最大の特徴が『スキル:ハイドウォーク』である
その名前の通り、"姿を消しながら移動する"スキルであり、僕らアサシンの専売特許。
いままでも"姿を消す"『スキル:ハイド』だけなら、アサシンの入門職『ストリート』や
そこそこ高額だが市販の付与装備でも可能であった
しかしあくまでも"姿を消す"だけで移動が出来ないので
MP[マジックポイント]が尽きてスキルが切れるか、
隠れている敵を炙り出す『スキル:トーチ』を使われては姿がさらされ、
敵に囲まれたときの脱出は困難である。
ゆえに、移動も可能である『スキル:ハイドウォーク』は唯一無二の特徴で、アサシンが重宝される理由
・・・だった
『スキル:ハイドウォーク』と同等の能力が発動する付与装備が出回り始めたのだ
新発見されたダンジョンのエリアボスがごくごく稀に落とす貴重な宝珠が材料との話
付与装備という事で、常時身に着ける必要性があるものの、
どのような職業でも使えるという利便性で圧倒的な市場価値を生み出した
僕達アサシンは、正直に思う。
『スキル:ハイドウォーク』が使える前衛戦闘ジョブ一人に 僕らアサシンは複数束でも勝てはしない
-ソロ職 オワコン
そう、世界に宣言されてしまったのだ