ショートショート「二択」
ーここは?
真っ白な世界が見渡す限り続いている。
白すぎて壁や天井がどこかもわからない。
明かりがあるのか自分の体ははっきりと見える。
制服を着てーーそうだ、僕は道に飛び出した子どもを助けようとしてトラックに轢かれたんだ。
ということは、ははーん、わかったぞ。
女神様が出てきて異世界を救う使命を与えてくださるんですね!
自分を犠牲に素晴らしい行いをしました!
さあ、異世界への扉をどうぞ!
誰とも会えないまま体感で2時間は歩いている。
髭を蓄えた老人、冴えない中年、金髪美少年、あらゆる神様像に呼びかけた。
自己犠牲を誇って申し訳ありませんでした。
反省しているので次の生をお与えください。
しかし何も起こらない。
「やあ」
突然声をかけられ、心臓が飛び出るほどに驚いた。
さらに体感で4時間は歩いたころ、いい加減おかしくなりそうだった。
「待った?この国だけで1日3000人以上死ぬから、順番に話してると時間かかっちゃうのよ、それに物分かりの悪い人もいるでしょう?」
鬼。
鬼だ。
メガネをかけスーツを着た痩身の男。
角と皮膚の色から赤鬼だとわかる。
ここはーー地獄?
「そうそう、話の通じる子で助かるわあ」
どうして地獄なんです? 僕が何をしたって…。
「まず親孝行する前に死んだこと。
あとは虫殺したり、嘘ついたり、拾った小銭自分のものにしたり、そのへんよ。
時間無いんだから詳細は省かせてよね」
親より先に死んだことは罪かもしれないけど、他は誰だってやってる…。
「そう、でも決まってるんだから仕方ないのよ。
昔なら宗教に熱心である程度極楽に行く人もいたんだけど、今は全然じゃない?
ホントならちゃんと鬼が一人一人切り刻んで、すぐに生き返らせて切り刻んでってやるんだけど。
羽虫一匹殺したくらいで一兆年以上も痛めつけるの、こっちも嫌になっちゃって。
本当の極悪人以外みーんな、ここ。
一人一人に何にもない空間作ってあげることにしたの。
とりあえずずっとうろうろしてもらおうって」
ずっとこのままなんですか?
「まだこの制度はじめて200年くらいだからねえ。
情勢が変われば待機期間も短くなるかもしれないけど。
こっちも考えながらやってるから。
100年か、1000年か、
そしたらまた経過観察が来るから」
ひゃ、ひゃくねん、いつ出られるんですか?
「人間の感覚だと一兆年超えるんじゃないかしら?」
ちなみに、今僕がここに来てどのくらい経ちました?
「2時間半ね」
ばかな、もっとずっと経っていると思っていた。
それなのに想像もつかない。
途方もない時間ここにいることになるなんて。
すみません! 反省しています!
もう命を投げ出したりしません!
お願いですからここから出してください!
「それは、子どもを助けたことを後悔してるってこと?」
えっと、こんなことになるなんて、思ってなくて、そうですね、いやでも。
助けない、と言ったらやり直せるのか?
助ける、と言ったら善の心を認めてもらって、救済があるのか?
「どっち?」
僕は……。